横断型基幹科学技術研究団体連合
Transdisciplinary Federation of Science and Technology
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NEWS LETTER
No.004
December 2005
<<目次>>

◆巻頭メッセージ
・「次の飛躍を目指して」

◆活動紹介
・第1回横幹連合コンファレンス 参加報告

◆参加学会の横顔
・形の科学会
・日本社会情報学会

◆イベント紹介
・第3回横幹技術フォーラム
・これまでのイベント情報

 

NEWS LETTER No.004, December 2005
◆活動報告
 今回は、横幹連合にとって初めての学術講演会となった「第1回横幹連合コンファレンス」(2005年11月25~26日、長野市)のようすを、参加者にレポートいただきます。
第1日目(2005.11.25)

関口大陸
(東京大学、
 日本バーチャルリアリティ学会)

第2日目(2005.11.26)

高橋正人
(情報通信研究機構、
 日本バーチャルリアリティ学会)


第1日目(2005年11月25日(金))
関口大陸(東京大学 システム情報学専攻、日本バーチャルリアリティ学会)

第1回となる横幹連合コンファレンス(第48回自動制御連合講演会との併催)が、11月25日から26日の2日間の日程でJA長野県ビルにおいて開催された。筆者は、幸運にもこのコンファレンスにおいて発表する機会を得ることができたので、参加報告を記したい。
最初に一つお断りをしておかなければいけないのは、26日から海外出張に行かねばならず、たいへん残念なことに初日しかコンファレンスに参加できなかったことである。したがって、参加報告といいつつも1日目しか報告できないことをあらかじめご了承いただきたい。
筆者は長野新幹線に乗るのも初めてで、さらに横幹連合の第1回のコンファレンスという初の試みで、新たなものに触れる知的興奮と、これから一体どういうことが始まるのだろうかという軽い高揚感を覚えながら、会場に到着した。

最初に参加したのは、コラボレーションセッション「横幹的データ活用技術」である。日本計算機統計学会、日本品質管理学会、日本統計学会、可視化情報学会、システム制御情報学会に所属する方々からの発表が行われた。おそらくこれらの学会の方たちが一堂に会して発表するのは初めてのことであろうし、ある意味とても贅沢なセッションであったのではないだろうか。筆者にとっては専門外である統計やデータ処理に関する最新の話題をまとまって聞けただけではなく、異なる分野の学会が一堂に会するおもしろさを質疑応答の時間などに実際に体験出来たことなど、得るものが多かった。

自動制御連合講演会との共同企画によるパネル討論「モノづくりとコトつくり」(第1日目)。横幹連合からは、木村英紀副会長(理研)、北川源四郎氏(統数研)が登壇し、横幹的な発想の重要性が討議された。

次に参加したのは、知の活用セッション「医薬品の安全」である。最初に参加したセッションとはうってかわって、ここでは医薬品の安全に関して、例えば、現行の内服剤の処方単位が「1日量」であることに起因して、これを医療従事者や患者が「1回量」と誤解することがあることを、処方情報の伝達上の問題としてアンケート結果に基づいて分析した発表、医薬品のラベルのデザインを変更して取り違えが減少すること等々、様々な分野・観点からの発表が行われた。このように、セッションを変えると全く違う分野の話を聞けるのが、横幹連合コンファレンスの大きな特徴であり、活発な会議の雰囲気につながっていると感じた。

最後に参加したのは、筆者自身の発表も含まれる知の活用セッション「暮らしを豊かにするサービス」である。このセッションも、暮らしを豊かにするサービスという命題に対して、対話型の感性価値を重視した感性商品の生産手法の提案に始まり、インターネットの検索絞り込みで(長野駅近くのうまいそば屋、などの)評価情報を探す手法、高齢者にもやさしい都市空間内移動体の提案、ぬいぐるみ型ロボットを使用したコミュニケーションデバイスの発表、大型アトラクションで商用に使用されたCAVE技術の新展開に至るまで、様々な分野・観点からの発表が行われた。

セッションのテーマが「知の活用」となっていることからも分かるように、一見、関係ないように見えて、どの発表も複数領域の技術を組み合わせて、いわば横方向の連携により新たなサービスやシステムを作り出そうとしているところが共通しており、発表する側にとっても、そのような切り口でまとめることが出来るのかと、新たに気づかされるセッションであった。

通常の学会に参加すると、筆者の場合、興味のある発表をどちらかといえばピンポイントで選びながら聞いていく感じなのだが、今回は、さまざまな分野の話が聞けるであろうという予想から、普段あまり話を聞いたり接することがない分野の発表が集まったセッションをじっくりと聞くという方針で参加してみた。実際、そうした方針は非常にプラスに働き、セッションに参加していく都度、自分が専門以外の分野に関してはほとんど知らないことに気づかされるとともに、学問の広がりと奥深さをあらためて実感できるすばらしい機会となった。

また、コンファレンスに参加して異なる分野の話を次々に聞いていると、一歩引いた形で概観できるようになり、例えば、いまの発表の話題は自分の専門分野とどのような関わりがあるかと考えたり、先ほど別のセッションで聞いた話題と関連性があるのではないかと気づくなど、自分の思考が自然と“横幹的”になってくる感じがしたのは、大きな収穫であった。

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第2日目(2005年11月26日(土))
高橋正人(情報通信研究機構、日本バーチャルリアリティ学会)

第1回横幹連合コンファレンスが2005年11月25日と26日の2日間、長野市(JA長野県ビル)において開催された。筆者は、両日ともに参加できたが、ここでは2日目についての参加報告を記したい。

長野駅に降り立つと、東京とは全く異なった空気の清涼感、清冽さをまず感じた。筆者は山登りも趣味とするから、かもしれないが、このコンファレンスが、長野の清冽な空気に囲まれて開かれることの不思議に爽やかな感覚を感じていた。清潔で美しい大きなパネルに7年前の冬季五輪のシンボルである花の意匠が、この日も長野駅のコンコースを彩っていた。

横幹連合は43の学会により構成されているが、この第1回コンファレンスでは、友好団体である横幹技術協議会からも会長の桑原洋氏をはじめ主だった方々が出席されてパネル討論などに登壇しておられ、わが国の科学技術への横断的な視座が、幅広く立体的なものとなった。

2日目の午後に、横幹技術協議会副会長で内閣府総合科学技術会議議員の柘植綾夫氏が、「科学技術創造を国創りに結実させる技術融合戦略」というタイトルでの特別講演を行われた。今後のわが国の科学技術の発展において横幹技術が果たすべき役割を指摘され、横幹連合はわが国の科学技術創造におけるリーダーたれ、と激励されたことが大変印象的であった。通常の学会ではあまり伺う機会のない、第三期科学技術基本計画の進捗状況や、今後のわが国に必要なイノベーション構造論等に、聴衆の関心は極めて高かったようだ。

柘植氏の講演で、特に関心を引いたのは、今後の課題の分析である。わが国が、現在大きな変革期にあるとの認識の下に、政策目標の一つとして、科学創造と技術革新に投資し、フロントランナー型のイノベーションを連続して創出することで、世界が直面する課題を解決し、財政再建にも貢献できる国に向かうべきだとする、総合科学技術の方針が策定されつつある。価値創造型の「もの創り力」を保持する構造への転換を狙って、基礎研究のキーテクノロジを、開発研究と実用化という産業力(国力)に確実に結びつけるべく、これまでのいわゆる「死の谷」の期間(わが国では投資が減少して基礎研究が産業化に至ることができなかった期間。欧米等ではここに国家的な支援が行われているという)を克服する政策の充実が、第三期科学技術基本計画では重視されるという。横断型基幹科学技術は、この観点を充実させるために位置づけられるのだ。

講演は、このような流れに沿って多数の図とともにわかりやすく進められたが、図のいくつかには、横幹連合会長の吉川弘之氏や内閣府の有本健男氏の手になるものです、と敬意を込めて紹介されるものもあり、横幹的な取り組みに対する理解は一層深まったと思う。聴衆が引き込まれていくのも、もっともだろう。

また、イノベーション構造論において、価値創造型の「もの創り力」を、技術進化の基本思想から分析的に見るとき、フェノタイプ能力(IT、VRなどを活用した目に見える生産システムの革新)とゲノタイプ能力(目に見えない遺伝的能力)の二つの分類軸を持つことが有効である可能性を示唆され、これはたいへん実際的で有用性に富むと思われた。さらに、モジュラー型アーキテクチャ(インタフェースを予め設定することで部分部分の設計の独立性と各部の組み合わせの自由度を確保する考え方に基づく構成物)とインテグラル型アーキテクチャ(部分部分のすり合わせによって全体の最適化を図る考え方に基づく構成物)という藤本隆宏氏により提案された枠組みとの関連性と活用性も示唆されて、横幹技術はこの両方のアーキテクチャ構築能力を育む新しい技術パラダイムたるべきではないか、と論じられたことは、研究に直ぐに役立つ実際的なお話であると感じられ、このような視座を与えて頂いたことに感謝したいと思った。
第三期科学技術基本計画の中には、横幹連合のミッションの重要性の文言が盛り込まれるとのトピックもあって、これには総合科学技術会議の気迫が感じられた。

ほがらかで穏やかな語り口の中にも、知的刺激を豊かに含む柘植氏のご講演は、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。長い時間、もっとお話を伺いたかった、という気持ちの聴講者も多かったのではないだろうか。最後に「横幹連合は未来のわが国の科学技術創造の、真のリーダたれ」という言葉で締めくくられたことに、筆者は感激してしまった。科学技術創造の困難に正面から向き合わなければわが国も立ち行かないとの認識の中で、そのための激励を我々に向けて言って頂いたことは、真に幸いなことでなかっただろうか。

また、午前中には、横幹技術協議会の企画によるパネル討論「これからの横幹技術の発展と活用」が行われ、大変盛り上がったことも、是非、ご報告しておきたい。
桑原洋氏(横幹技術協議会会長)、柘植綾夫氏(総合科学技術会議議員、横幹技術協議会副会長)、有本建男氏(内閣府経済社会総合研究所)、藤井真理子氏(東京大学)、原辰次氏(東京大学)、林利弘氏(日立製作所)、福士啓吾氏(日産自動車)、そして司会をされた浦嶋将年氏(鹿島建設)というパネリスト陣によるパネル討論は、科学技術政策や横幹技術、またそれらの理論構築で、わが国をリードしてこられた錚々たる顔ぶれによるもので、大変充実していた。

このパネルでは、個別科学技術群を横幹技術を用いて社会システムに創り上げるまでの枠組みの重要性や、3つの科学(自然科学、人文科学、社会科学)を社会規範や倫理といった課題面においても融合させる挑戦が社会の持続的発展に寄与することの意義、経済社会との連関の構造分析の重視、システム論的に予想される局所最適化と大域最適化の干渉等とその解決法、ニーズ把握における文理融合手法の有用性、複数の企業での横幹技術の成功事例報告と提言など、実際的なヒントが次々と豊かに供給される重要な討論が行われた。会場との質疑応答も活発で、第1回コンファレンスの問題意識を共有できたという意味からも、すばらしいものだったと思う。

今後もわが国の科学技術が、世界に通用する形で未来に向けて成長していくために、各自の専門の枠組みを越えて、共通の課題に全力を挙げて挑戦していくことが期待されている。それによってこそ、時にジレンマに苦しみながらも、新たな可能性の萌芽を含んで、わが国の科学技術が発展していくのではないだろうか。充実したコンファレンスの後に、長野の清冽な空気の清涼感と真摯な気持ちを胸に、東京行きの列車に乗車することができたのは、本当に幸いであった。関係者の皆様に、心よりの感謝を申し上げたい。

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