横幹連合ニュースレター
No.018, July 2009

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
人あるところに横幹あり
西村 千秋
広報・出版委員会委員長
東邦大学

■活動紹介■
【参加レポート】
●第19回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●システム制御情報学会

■イベント紹介■
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
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横幹連合ニュースレター

No.018 July 2009

◆活動紹介


【参加レポート】  第19回横幹技術フォーラム
    「シリーズ:経営の高度化に向けての知の統合」
            ~ シリーズ第2回 エンタープライズリスクマネジメント(ERM)~(3月30日)
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第19回横幹技術フォーラム

テーマ:「シリーズ:経営の高度化に向けての知の統合」
     ~ シリーズ第2回 エンタープライズリスクマネジメント(ERM)~
日時:2009年3月30日  
会場:筑波大学 東京キャンパス 大塚地区
主催:横幹技術協議会、横幹連合
プログラム詳細のページはこちら

【参加レポート】
高山将氏(石油資源開発株式会社 探鉱本部海外探鉱部)

 2009年3月30日に開催された第19回横幹技術フォーラムに参加しましたので、感想を交えながらご報告させて頂きます。
 私は石油開発会社の探鉱部門の地質技術者であり、このフォーラムについて言えば全くの門外漢です。まず、そんな私がなぜこのフォーラムに参加しようと思ったか説明したいと思います。
 日本の上流石油会社では1990年代末から、地質リスクの定量化の試みが行われるようになり、弊社でも確率論的埋蔵量評価とともに地質リスクの数値化が導入されました。しかしながら、この評価システムは、どうしても探鉱・開発といった技術部門に偏重しており、事務部門も含めた全社的な評価システムの構築の必要性を感じていました。また、これまではどちらかというと権益取得時の評価に重きが置かれ、権益取得後の事業運営の軌道修正に資する評価は軽んじられてきた傾向がありました。それで勉強を進めていくうち、リアルオプション等の金融工学的概念に行き当たったのですが、それを実際にどのように事業評価に組み込めばいいかが分からない、という壁にぶつかったのです。今回の技術フォーラムの全体のテーマと、刈屋武昭先生(明治大学大学院)、中岡英隆先生(首都大学東京)の講演タイトルを拝見して、私たちの問題解決の糸口がつかめるかも知れないという思いで参加させて頂きました。

 刈谷先生のお話「エンタープライズリスクマネージメント(ERM)の新たな潮流」は、示唆に富んだ内容で、考えさせられる点が多くありました。
 「企業の全体最適化への経営思考としてのERM」という観点からのご講演で、
価値とは、ステークホルダーの将来の利益キャッシュフローの割引現在価値のこと。従って、不確実なもので確率分布として表現される。
リスクとは、(利益機会を含めて)価値創造プロセスに影響を与える不確実性のこと。いわゆるリスクに、チャンスを含めて考える必要がある。
経営とは、不確実性に積極的に関与して利益・価値フローをつかむこと。経営の本質は、知識とリスクへの対応で、価値を創り出すものと毀損するものを識別して、リスクプロセスアプローチという視点から有効なプロセスを構築すること。
企業価値の発生源は、無形資産・無形能力である。モチベーション、職場の信頼感、リーダーシップ、イノベーション、評判などを含めて、価値創造プロセスを安定化する組織統合原理を組織精神性資産であると捉えて、無形資産と企業の価値創造プロセス全体を一つの包括的固有無形資産と見る必要がある。
などのERMに関する基本的な考え方が、整理されていました。ここで述べられた、リスクをコントロールすることによって価値を創造していくという概念は、まさに石油探鉱にそのまま当てはまることであり、全社的な目でリスクを管理していくことがいかに大切かを改めて認識しました。いろいろな会社でのプロジェクトマネージメントの事例の紹介(「製薬会社のクリニカルテストの最終段階におけるR&D投資機会の評価」など)もあり、非常に参考になりました。プロジェクトマネージメントの話は得てして概念的なことが多く、聞いていてもピンと来ないことが多かったのですが、今回は具体例を示して頂いたおかげでイメージが鮮明になりました。

 中岡先生のお話「リアルオプションによる資源開発事業評価とERM」は、石油ビジネスにおけるリスク・マネジメントや国際石油スーパーメジャーの投資戦略を分析するという内容で、まさに我々の日常業務に直結する内容であることから興味深く聞かせて頂きました。石油スーパーメジャーが、高リスクの探鉱開発プロジェクトに対してリアルオプションの概念を取り入れた経営戦略をとっていることは聞きかじっていたものの、具体的にどのような形で取り入れているか疑問に思っていました。今回の講演では、新規の探鉱プロジェクト成功時に得られる資産の現在価値を先物価格の変動幅を勘案して評価することと、探鉱を中止する(できる)オプションなどを比較して、企業の合算資産価値のリスク・リターンを評価する方法などを学びましたが、このようなリアルオプションの概念を取り入れた経営戦略の一端に触れたことは有益でした。今後のプロジェクト評価のヒントにしたいと思います。

 最後のパネルディスカッションでは、産学共同研究の必要性・重要性が議論されていましたが、今回のようなフォーラムを通じて産と学のパイプが出来ることは、我々産業界の人間にとっても非常に心強いことだと感じました。特に印象的だったのは、中岡先生のお話で、「会社成長のキーはトップの理解と人材(総合力のあるプロジェクトマネージャー)の育成だ」というお言葉がありました。我々実務に携わっている者でさえ、最新の経営工学の概念に関しては、ついて行くのがやっとの状況で、これをうまく噛み砕き、分かりやすくトップに説明することは非常に骨が折れることです。そうした能力は、一朝一夕には身に付かないと実感しています。やはり全社的な取り組みで啓蒙活動を行ない、人材育成をしてゆくことが非常に重要だと思いました。

以上   

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