横幹連合ニュースレター
No.031 Nov 2012

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「経営高度化に対する横幹的アプローチ」
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大場 允晶 横幹連合理事
日本大学 教授

■活動紹介■
●第4回横幹連合総合シンポジウム
■参加学会の横顔■
◆日本MOT学会
■イベント紹介■
◆「第5回横幹連合コンファレンス」
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
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横幹連合ニュースレター

No.031 Nov 2012

◆活動紹介


【活動紹介】  第4回横幹連合総合シンポジウム
    総合テーマ:「横幹技術と日本再生 〜知の融合で目指す強靭で持続可能な社会〜」
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第4回横幹連合総合シンポジウム

総合テーマ:「横幹技術と日本再生 〜知の融合で目指す強靭で持続可能な社会〜」
日時:2012年 11月1日(木)〜2日(金)
会場:日本大学 津田沼キャンパス
主催:横幹連合
共済:横幹技術協議会、日本大学
【実行委員会】委員長:山崎憲(日本大学)
副委員長:大場允晶(日本大学)、青木和夫(日本大学)
委員:田村義保(統計数理研究所)、舩橋誠壽(横幹連合)
◆基調講演1:遠藤薫(学習院大学)
◆基調講演2:村田潔(明治大学)
◆特別企画セッション 震災克服企画
【セッション・オーガナイザ】岡田仁志(国立情報学研究所)板倉宏昭(香川大学)増井利彦(国立環境研究所) 影広達彦(日立製作所)松井正之(神奈川大学)椿広計(統計数理研究所)渡辺美智子(慶応義塾大学)本多敏(慶応義塾大学)中島健一(神奈川大学)大場允晶(日本大学)田村義保(統計数理研究所) 安岡善文(科学技術振興機構) 出口光一郎(東北大学)丸山宏(統計数理研究所)藤江遼(東京大学)小田垣孝(東京電機大学)田中美栄子(鳥取大学)吉田正樹(SICEライフエンジニアリング部門)大石進一(早稲田大学)(順不同、敬称略)

プログラム詳細のページはこちら

【活動紹介】

  第4回横幹連合総合シンポジウムは、メインテーマに「横幹技術と日本再生〜知の融合で目指す強靭で持続可能な社会〜」を掲げ、震災復興の半ばにある現在の日本を再生させるための議論を中心に、日本大学生産工学部、津田沼キャンパスにて開催された。

  基調講演1「間メディア社会の多面的様相-コミュニケーションの未来予想図」で、遠藤薫氏は、80年代からの紅白歌合戦の視聴率の低下などに顕著に見られるようなマスメディアにおける「希少性の低下」という現象を最初に指摘した。そして、2000年以降の facebookや Twitterなど、ソーシャルメディアの急速な普及によって、国内外で若年層の個人レベルの社会的コミュニケーションが促進されており、今日本が置かれている環境・状況に対して、ネットメディアが「リアルな共在空間」と「マスメディア」の間を補完するように働いていることに注意を促した。
  遠藤氏の予稿には「助けあいジャパン」というボランティアの組織化のためのサイトが、復興庁、民間企業、ボランティアの連携を果たし、併せて、東日本大震災に関するきわめて分かりやすいポータルサイトになっていることが指摘されている。これなどは、その具体的な好例と言えるだろう。氏は、こうした社会の新しい動きを「間メディア社会」と名付けた。このような、社会における情報の液状化は、教育の世界にも伏流水のように浸透し始めているという。個人とメディアとの関係は、高齢者の行動が変わらないことによって、今のところ変わらなく見えているだけであるようだ。
  基調講演2「ユビキタス時代の倫理的課題 -豊かな社会の創造を目指して」で、村田潔氏は、情報倫理の問題を取り上げ、「情報プライバシー権」、つまり、忘れる権利や、忘れられる権利を含めて、自分が自分に関するネット上の情報をコントロールできる権利を持つという考え方が、現在のICT(情報技術)環境に既にマッチしておらず、有効性を喪失していることを多様な視点から論じた。多くの企業が、ネット上に書かれているその人の評価を参考にして採用の可否などを決めているという。また、逆に、ネット通販を利用するときに、自分は(あたかも)身体のないデータになっていて、あなたのような購買の行動を取る人は、こんな商品も買っていますが、いかがですか、と別の商品を勧められることも多くある。そこで、ICTの開発と利用に際しては、職業倫理を含むプロフェッショナリズムの確立と浸透が必要であるのだ、という。また、ICTユーザに対する「ネット社会での自分や他者に関するデジタルアイデンティティ保全」に関するプロフェッショナリズム教育なども、中学一年生の頃からスタートできるように教育制度や関連法規を改正する必要があるという。
  このように、格段の速さで拡張している情報サービス市場に関しては、その基礎知識の習得、課題発見・解決能力、そして、人材育成などが、日本における最重要課題であるという事を、ここでは再認識できた。

  プログラムでは、次のようなセッションが行われ、発表件数は 63件であった。

【基調講演】遠藤薫「間メディア社会の多面的様相-コミュニケーションの未来予想図」、村田潔「ユビキタス時代の倫理的課題-豊かな社会の創造を目指して」
【震災克服企画】経営の高度化と強靭性の強化、生活における社会の強靭性の強化、環境保全とエネルギー供給における強靭性の強化、今後の取り組み討議
【横幹連合課題解決WGセッション】農工商医連携ビジネス、持続性評価研究の進捗と持続可能性社会シナリオ
【経営高度化】経営高度化の支援技術・次世代の業績評価法と意思決定、経営高度化の様々な側面、経営高度化への挑戦・グローバル企業における現状と課題
【人材育成】グローバル人材育成にむけた産学連携の問題解決型大学教育、地域活性化プロジェクトを通じた産学連携と人材育成の成功事例
【横幹技術協議会:スマートシティ】
【サービス・サイエンス〜「データに基づく意思決定」】
【社会物理学のフロンティア】
【経済物理学とその周辺】
【ライフエンジニアリングの現状】
【精度保証付きシミュレーション】
【会員学会ポスター展示】

  聴講したセッションのうち、ここでは「スマートシティ」について報告する。現在、世界では 200を超えるスマートシティの実証実験が始まっており、有名な事例としては、アラブ首長国連邦の「マスダール・シティ」、オランダの「アムステルダム・スマートシティ」、そして、中国の「天津エコシティ」などが有名であるという。ところで、日本では東日本大震災の復興のために、街の再構築を進める必要があり、このような機会に、都市作りの様々な課題からスマートシティの有効性が見えつつあるのだという。
  本セッションでは、エネルギーインフラ、EV(電気自動車)の市場受容性、ICT領域から見た新興国スマート化の課題、といった各企業による様々な取組が紹介された。
  都市作りの課題や、被災地復興支援活動(街の再生)の報告について、その地域性や、住民に即した社会インフラをどのように技術所有企業が提供しマッチングするか、といった課題解決策の提案や成功事例が紹介されたが、想定のスマートシティに対する捉え方が、ステークホルダーの夫々の立場で違うといったことも議論になった。
  ところで、日本政府が2010年に提案した「東アジア・サイエンス&イノベーション・エリア構想」に基づき、科学技術振興機構(JST)は、JSTのミッションである「科学技術イノベーションの創出の貢献」に資する国際的な科学技術共同研究として、e-ASIA JRP(共同研究プログラム)を発足させている。ここでは、東アジア諸国が共通して抱える課題を解決するため、東アジアの多様性の尊重と活用を念頭に置いて ASEAN+8ヶ国(日中韓印豪NZ米露)という地域に呼びかけて、「イノベーションのための先端融合分野」などの課題についてマッチングファンド方式(注)での公募実施を一部、始めている。この e-ASIA JRPの推進などのために、是非、産学との交流・討議の場が欲しい旨の発言が行われた。実は、今回講演予定であった「地域特性に基づく適正なスマートな都市の計画・評価支援システム」については、発表者の国立環境研究所環境都市システム研究室長のご欠席で聞くことができず、大変に残念であったのだが、そうしたアカデミアの立場からの提案が、e-ASIA JRPの活動の今後の具体的な推進に当たって、各地域で抱えている課題解決の支援につながることは間違いないだろうという指摘が、本セッションのパネルディスカッションで述べられた。まさに、生活インフラ構築、及び、地球温暖化対策、そして、日本国内・国外を問わず抱えている生活環境課題に対して、今後の社会を俯瞰して解決すべき重要な課題を、スマートシティ・コミュニティによって、国・地域・市民・個人の要望に対応させようとする試みであると言えるだろう。この目標を達成する為には、巨大で複雑なシステムになるだろうが、多数の官公庁、大学、企業が連携してそれを構築し、運用する事が期待されている旨、オーガナイザーからも発言があった。本シンポジウムのような機会に、対象とする社会(先進国、新興国、被災地等)が目指す、スマートシティ・コミュニティのあるべき姿に対し、顕在、あるいは潜在するニーズを、学会間、大学・企業、官民の領域を越えて意見交換し、協力した活動を展開することによって、「日本の再生」の進展に寄与できると感じることができた。
  また、横幹連合による震災克服企画の4セッションの報告は、横幹連合各学会メンバーが融合して作った三つのワーキンググループからの、震災からの強靭性強化に取り組んだ研究成果報告と今後の取組についての討議であった。各報告は異なる視点からのアプローチであり、横断的な視点からの検討を加えたことに価値があると思われる。その内容は、企業震災事例、復興の検証、強靭な社会システム構築、ICTの支援、そして、自治体のICT-BCP(事業継続計画)の課題などで、震災克服に向かって対応すべき多くの課題が指摘された。そうした課題における相違は、震災という事象に対しての各人のスタンス、意識や、専門分野の違いによる課題設定、解決アプローチの違いから生じると捉えることもできるだろう。このように、専門分野の異なる方々が、横幹連合という場で、率直に意見交換することによって、現状の対応における問題点を顕在化させ、発想の転換と共に、異分野の方々が協働して解決できる課題が設定され、実行に漕ぎ着けることが期待されている。
  このほか、本シンポジウムでは、横幹連合の以前からの取組みである、課題解決WG、経営高度化、人材育成についての進展が報告され、「サービス・サイエンス〜データに基づく意思決定」「社会物理学のフロンティア」「経済物理学とその周辺」「ライフエンジニアリングの現状」「精度保証付きシミュレーション」の各分野の研究から最先端の報告が行われ、活気のあるディスカッションが行われた。

  また、今回は一室に、参加学会の紹介や参加学会から横幹連合に期待する要望をポスターにして一堂に展示する、という試みが新しく行われた。それら多くの、各学会から横幹連合に期待する項目に、学会間での連携の機会を要望する記載が目立った。即ち、横幹連合に期待されていることは、学の科学的・公共的な観点から、文理の知恵を生かして意思決定できるプロトコルの提案や、実質的な産学連携研究、具体的な産官のプロジェクトへの参加の機会を通して、グローバル・グローカル化に対応する課題に貢献できる環境作りであることが伺われ、これは横幹の現在の活動とほぼ同じ方向であることを認識する良い機会でもあった。

(注)マッチングファンド方式:元来は、行政機関がプロジェクトの費用を提供する際に、民間企業や地元の自治体などからの寄付や補助金などの資源も募って、より規模の大きい活動を実現させるための制度のこと。ここでは、ASEAN+8ヶ国の担当機関のうち、日本以外の二つ以上の機関が手を挙げている(日本にも有益である)テーマについて、日本の資金を(日本人の研究者に)拠出することとされている。
以上
(文責編集室)
なお、本稿の作成には、飯島俊文氏(Q&T マネジメント研究所)、大場允晶氏(日本大学)から多大なご協力を頂きました。



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