第2代会長 木村英紀 (理化学研究所)
細分化による知の創出から統合による知の創出へ
横幹連合も発足以来5年目を迎えました。創成期に連合の顔とも柱ともなって地固めをしてくださった吉川弘之先生の後を継いで、成熟期に入った連合の発展を通して 日本の科学技術に新しい潮流を生み出すべく微力を尽くしたいと思います。
今更申すまでもなく、横幹連合は学会の集まりです。現在、42の学会が参加しております。会員数500名を下回る小さな学会から、会員数7000名を超える中型の 学会まで規模は千差万別です。横幹連合はそのような学会を会員として持つ組織です。学会は人の集まりです。会員学会の会員数を単純に足し合わせると横幹連合は6万名 近くの会員を擁することになります。これはかなりの数と言えるでしょう。
学会は、専門を同じくする研究者の組織です。学会が違えば専門分野も違ってくるとすれば、横幹連合は42もの違った専門分野の研究者を糾合した一大研究組織という ことになります。このような組織は日本のNPOとしてはほかにないでしょう。学会連合は確かに他にもあります。しかしそれらのほとんどは、専門分野の共通性をベースに作 られた組織です。横幹連合のように、統計系、経営系、数学や情報系、人間や生物系、社会系、制御系など、異なる専門分野を糾合した学会の連合体はほかにありません。 連合傘下の学会はサイズが多様であることを申し上げましたが、専門分野も実に多岐にわたっているのです。
そのような多岐にわたる学会が、何を共通項として横幹連合として結びついたのでしょう?言うまでもなく42の学会は横幹科学技術、すなわち「横断型基幹科学技術」 をともに研究する団体として結びついているのです。丁度「統計関連学連合」が統計学を共通項として結びついているのと同じことです。それでは横幹科学技術とは何か? という疑問が起こるでしょう?統計学はわかるが横幹科学技術なんてさっぱりわからない、という人は多いでしょう。また、統計関連学会連合に属する学会は必ず「統計学」 が学会名に含まれています。しかし、横幹連合に属する学会で「横幹」の字を含む学会はありません。それほどに横幹は新しい概念なのです。これがまさに横幹連合の核心的な問題です。
横幹は「横断的」と「基幹」という二つのキーワードから成り立っています。前者は様々な分野を横に結び付ける学問、という意味です。「基幹」は結びつくことによって 生み出されたものが一段高いレベルの知を生み出す生命力をもつことを意味します。つまり、横幹科学技術は、異なる知の間の共通性を抽出することを通して新しい知を創造 することのできる学問を意味します。抽象的な言い方で分かりにくいと思いますが、例をあげましょう。私の専門の制御工学ですが、制御はたとえば電気工学と機械工学を結 びつけてメカトロニクスと呼ばれる分野を生み出しました。また、生命科学の分野では制御が分子生物学や生理学、脳科学、生態学などに共通する「制御生物学」を構築する 共通項の役割を演じています。システム工学や設計学、ネットワーク論、ヒューマンインターフェイス、計算科学なども同じような役割を担った専門分野と言えましょう。 このような横断的・統合的な知の創造は、細分化による知の創出と比べるとどちらかというと地味で目立たない場合が多いのですが、社会と科学技術の関係が多くの切迫した 問題を生じ、その一刻も早い解決が望まれている現在、横断的な対象のとらえ方を通して基盤となるしっかりした新しい知を作り上げていくことの必要性は増しつつあります。 横幹科学技術の一翼を担って横幹連合に集まった学会は、上で述べた社会的な使命にこたえ、「社会のための科学技術」をさらに進めるために横幹的なものの重要性を社会に アピールし、それを学問研究に根付かせるために努力しています。
すでにコンファレンスを二回、総合シンポジウムを一回開催するとともに、雑誌「横幹」もすでに3号を発刊しました。第一回コンファレンスで発した「コトつくり宣言」は、 横幹連合の主張を分かりやすく表現したものとして評価を頂いております。横幹科学技術とは何か、をさらに深く知りたい方は、僭越ながら小生が「横幹1号」に寄稿した論考をご一読いただければ幸いです。
「横断的な視点で新しい知の創造を」をスローガンとして、連合は日本の科学技術に新しい潮流を作り出すべく努力する所存です。ご協力をお願い申し上げます。