ETASモデル

概要

ETAS(Epidemic-Type Aftershock Sequence)モデルは、地震、特に大地震により引き起こされる余震の時間発生パターンを説明することを目的として提案されたモデルである。これはあるイベントが別のイベントを誘発する「自己励起過程」のモデルに相当し、地震に限らず同様の特徴をもつ現象に適用することができる。ETASモデルは1980 年代末に尾形良彦氏により提案された。地震研究においては、時間・時空間に対する地震活動の標準的モデルとして国際的に受け入れられている。さらに地震以外の分野でも、例えば感染症伝播、犯罪発生、SNS投稿や株式注文の履歴、外来種拡大といった種々のデータに対する分野横断的な適用が行われている。

コトつくりにおける訴求点

地震国・日本で蓄積された豊富なデータをもとに開発されたETASモデルは、日本発で世界で活用されている統計モデルである。事象の本質となる「自己励起過程」は余震に限らず様々な分野で見られる現象で、ETASモデルの応用範囲は幅広い。日本の地震研究が分野を超えて世界に貢献している好例といえる。

参考URL

推薦論文

ETASモデル:クラスター性を表すための点過程モデル

 推薦学会

日本統計学会

講評

大地震の発生に伴い続発する地震(余震)の発生頻度は時間が経つにつれベキ減衰をすることが経験的に古くから知られており、現在では「大森・宇津公式」と呼ばれている。この公式は、余震を発生させる地震が最初の大地震(本震)のみとしたモデルであるが、実際の余震発生時系列においては、規模(マグニチュード)の大きな余震が発生すると、その余震による余震(二次余震)が引き起こされることがある。二次余震が顕著である場合、大森・宇津公式の実データへの適合性は悪くなる。これに対してETASモデルは全ての余震が二次余震を励起し得るという仮定のもと、ベキ減衰式を多数重ね合わせたモデル構造になっている。2016 年に起きた熊本地震において、4月14日に起きたマグニチュード6.5の地震を本震として余震確率を気象庁は公表したが、翌々日の16日にマグニチュード7.3 の地震が発生した。これにより多数の二次余震が生じた事象はETASモデルで適合性が良く、モデルの予測精度が裏付けられた結果となった。ETAS モデルは、元々は地震活動のモデルとして提案されたものであったが、その有効性から地球科学以外の分野でも適用されており、応用範囲の広さがうかがえる。地震に加えて、犯罪発生予測、金融市場の分析といった多方面での社会的貢献実績がある。
地震大国である日本から発信された統計モデルが、地震分野での優れた貢献はもとより、分野横断的に社会で活用されている実績はすばらしく、横串機能を持つコトつくりの事例といえる。

コトつくりに特に寄与した要因

1.大地震によって引き起こされる余震を高い精度で予測
2.イベントがイベントを誘発する「自己励起過程」のモデル化
3.地震というコトを基軸にして社会で起こるコトを広く扱えるようにした汎用モデル

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