No.063 Nov 2020
目次
TOPICS
1) 第57回横幹技術フォーラム 開催のお知らせ。
日時: 2020年12月3日(木) 15時00分-17時30分
オンライン(ZOOM)による開催。先着100名。今回は 一般の方(通常2000円)も 参加費無料。
事前登録締切 : 11月30日(月)17時まで (以降は当日も含めて申し込み不可) 配布資料なし。
テーマ: 先端医療(医用生体工学・行動神経経済学・医療経営学)研究の現状とその活用による北海道の地域・医療イノベーション
開催案内は、こちら をご覧ください。
2) 日本学術会議に関する緊急声明を掲載いたしました。
詳しくは、こちら をご覧ください。
COLUMN
第11回横幹連合コンファレンスが開催されました
執筆・構成 武田博直 ( 横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャルリアリティ学会 )
◇ 第11回横幹連合コンファレンス
大会テーマ:「サステナブル・イノベーションに向けて ‐ 横幹知による深化と創発 ‐ 」
期日: 2020年10月8 – 9日 会場: 統計数理研究所(オンライン開催)
第11回横幹連合コンファレンスが、2020年10月8日、9日の二日間、統計数理研究所を拠点とするオンラインにより開催された。予稿集は、J-Stageでの公開が予定されている。ここでは、今回の予稿でコロナ・ウィルス(COVID-19)について言及された講演を選んでご紹介したい。
今回の大会テーマは、「サステナブル・イノベーションに向けて ‐ 横幹知による深化と創発 ‐ 」である。大会テーマの解説と 昨年の大会テーマ(SDGs)からの継承性については、横幹ニュースレター8月号 に既報した。ところで、3月25日にWHOが全ての国に「ロックダウン」(都市封鎖)を導入するよう要請したことによる状況の変化などを受けて、本コンファレンスもオンラインでの開催に急遽 変更された。併せて、オーガナイザー、プログラム委員らの尽力により、コロナを直接のテーマとする講演が多数、用意されることにもなった。
そこで、本ニュースレターでは、横幹コンファレンスという学際的な議論の場で「コロナに言及した どのような講演が行なわれたのか」を記録の意味も含めて紹介しようと考えた。もちろん、大会テーマに沿ったコロナに言及しない優れた発表が多数行なわれている。(企画セッションの一覧頁を後に記した。) しかし、疾病のパンデミック(世界的大流行)という異常事態に、諸専門家が異分野の研究者にも理解できる発表形式でコロナについて言及されたことは特筆に値すると思われる。
なお、原稿締め切りが8月29日だったことで、発表時には予稿に更にデータを補って最新の知見を講演スライドで意欲的に発表された講演者が多かったのだが、大変に残念ながら 本稿では J-Stageで確認できる内容に紹介を限らせて頂くことにした。もちろん、全ての講演がコロナ禍によるオンラインであったことから、ほとんど全発表者のスライドにコロナに関する興味深い知見が多く報告されていたことを特記しておきたい。 なお、いくつかの講演では暫定のデータ集計であると口頭で断られていた。引用をお考えの際などには、著者に直接 問い合わせされることもお勧めしたい。それから、本稿での掲載は 企画セッションの番号順に並べているが、内容としては順不同である。
【以下の講演内容の要約は、全て文責編集室】 (8月29日以前のデータに基づくことに ご注意頂きたい。)
A3-1「ポストコロナ未来社会と横幹知」(遠藤薫 : 学習院大学)
ポストコロナの未来社会と SDGs / 社会倫理についての考察。公衆衛生(健康)・経済活動・プライバシーは相反する事象では無い、ということが強く指摘され、個々人が正確な知識にもとづいて自律的に行動変容することが第三の道であることを論じた。
A3-2「ポストコロナ未来社会へ向けた行動神経経済学の応用」(高橋泰城 : 北海道大学)
コロナ感染症の予防、および制御のためには、行動神経経済学の双曲割引(hyperbolic discounting)、負の外部性(external diseconomy)という概念モデルが有効ではないかとの提案が行なわれた。
A3-3「新型コロナウィルス感染症の社会的注目に関する心理的要因 ‐ 感染者数の加速度と速度の検討 ‐ 」(竹村和久 : 早稲田大学、玉利祐樹 : 静岡県立大学、井出野尚 : 徳山大学)
COVID-19 に関連する単語のGoogle検索数に着目して、実際の患者数・新聞の記事数などを分析したところ、その値だけではなく速度と加速度、つまり 情報の提供のされ方やパターンによっても影響を受けていることが分かったという。
A3-4「観光地における新型コロナウイルス (COVID-19) 感染予防策(倉橋節也・永井秀幸 : 筑波大学)
観光地における新型コロナウイルスの蔓延を防ぎ、地域経済を持続可能にするための賢い感染予防の対策の検討。感染プロセスをエージェントベースのモデルで実装して、複数の対策の有効性を比較してみたところ、定期的に感染者が流入する観光地では 観光スタッフへの優先的PCR 検査に大きな効果が見込まれる事などが分かったという。
A3-5「ポストコロナ未来社会に向けたシステム制御の役割」(永原正章 : 北九州市立大学)
感染症拡大を抑える方策について、数理モデルを作り、システムの最適制御(ネットワーク化制御など)を行なう方法についての考察。ただし、制御のための社会的なアクチュエーション(発動)に先行事例が無いことから、人間行動や経済学などに関する幅広い学際的研究が要請されるという。
A3-6「DICE モデルを用いた COVID-19 の気候と経済への影響に関する 一考察」(松井知子 : 統計数理研究所、Pavel V. Shevchenko : Macquarie University、村上大輔 : 統計数理研究所、Tor Andre Myrvoll : NTNU)
DICEモデルは、地球温暖化の統合評価のために、2018年のノーベル経済学賞受賞者WDノードハウス教授により開発された気候と経済の動的統合モデルであるという。このモデルによるシナリオを設計し、COVID-19によって生じる「GDPや社会的割引率などの変化」からの気候と経済への影響を予測している。
A4-1「COVID-19 流行下における社会・家族関係と感情変化の検討」(瀧川裕貴 : 東北大学。稲垣佑典 : 統計数理研究所。呂沢宇 : 東北大学、中井豊 : 芝浦工業大学、常松淳 : 慶應義塾大学、阪本拓人 : 東京大学、大林真也 : 青山学院大学)
CVOID-19による感染の恐れなどの直接的な心理的ストレスに加えて、social distancing 政策の間接的影響も 私たちの精神的幸福に影響を及ぼしていることについての検討。Ecologically momentary assessment methodsによって日本のsocial distancing 政策についての調査を行なったところ、家族や社会との相互作用(interaction)に顕著な感情的状態(emotional status)の変化が見られ、外出やオフラインでの会話などによって その改善効果が見られたという。
A4-4「COVID-19流行下での プレプリント ツイートに関する予備調査」 Preliminary analysis of Twitter users sharing preprints during the COVID-19 pandemic (吉田光男 : 豊橋技術科学大学)
論文の無料公開(オープンアクセス)が広まっており、Twitterユーザーの査読前論文(プレプリント)へのアクセス数が被引用数の先行指標になることが報告されているという。主要なプレプリントサーバの 3 サイトに着目をして、その基礎的な調査が行なわれた。
A4-6「COVID-19下の情報拡散」(鳥海不二夫 : 東京大学)
「新型肺炎・コロナなどに関するツイート数 及び リツイート数、PCR 検査陽性者数」をデータに取り、現在の情報化社会における情報の投稿と拡散についての調査が行なわれたという。トピックに、「怒」や「怖」の感情が含まれるツイートが多く共有され、 ポジティブな感情の共有は通常よりされにくかった という傾向などが見られたそうだ。
A5-3「コミュニティ・レジリエンス醸成方策に関するレビュー : コロナ禍社会への示唆」(豊田祐輔 : 立命館大学)
コミュニティのレジリエンス(社会システムが災害に対応し 回復する能力)へのアプローチをレビューするために、 Web of Science Core Collectionの書誌から2478 本の文献を抽出したという。コロナ禍においては、3 密を避ける多様な避難生活という新しい内容(転換性)だけでなく、誰のためのレジリエンスかを考え、その強化(回復と安定性)と同時に、準備や情報収集(適応性、転換性)の公平性にも留意が必要であるそうだ。
A5-5「新型コロナウイルス感染拡大時における大学生の行動変容 ‐ 緊急事態宣言下におけるアンケート調査から ‐ 」(中西晶 : 明治大学)
2020年4月7日、日本政府はCOVID-19の蔓延に対応して、7都道府県で 5 月 6 日までの 1 か月間に限定して「緊急事態宣言」を発令した。また、4月16日、この宣言の対象地域は全国に拡大された。 その間強調された「行動の変化」について、本レポートでは 大学生のWeb調査657件(4月20日~ 5月7日)を通じて、その現実を探ったという。 結果として、特定警戒区域と 特定警戒区域以外では 顕著な「行動の変化」の差異が見られたそうだ。また、本アンケートの回答者の大学生にとっては、「三密」を避けるなどの行動変容に対する抵抗性は少ないと思われるという。更に、テレビ離れが指摘されているが、本調査期間の情報入手経路として テレビの(ニュースの)利用に80%を超える回答があったそうだ。
A5-6「都市封鎖の外出抑制効果に関する調査研究」(廣井悠 : 東京大学)
4月7日の政府の非常事態宣言では、感染者が増大した諸外国で行われた公共交通機関の制限や外出者への罰則を伴う社会統制的な移動制限は行なわれず、拘束力のない自粛の要請によって住民のモラルや判断に訴えかける外出の抑制が実施されている。本レポートでは、2月中旬から 6月初旬の外出の抑制効果や人との接触の割合を調べたという。4 月の緊急事態宣言には 通勤目的の外出を減らす効果などがあったが、食事や観光目的の自粛については宣言の発表される以前から多くの人が既に控えていたことなどが明らかにされたそうだ。
C1-1「信頼・安心へのスキームとリスク未然防止への源流管理」(鈴木和幸・加藤進弘 : 電気通信大学)
信頼性・安全性へのスキームと未然防止体系として、筆者らは 上流管理を含むシーソー・モデル7視点(C1-2参照)を従来から提唱していた。これをふまえて COVID-19への社会システム的な対応を考えると、平時の防疫体制の確立が必要であると思われ、これについては台湾の取った(目的への ぶれない)姿勢と、12月31日夜からの武漢直行便の検疫開始、1月 2日の伝染病防止諮問委員会設置、1月5日の中国の原因不明肺炎対応専門家諮問会議設置などの上流管理への(す早い)対応が注目されるそうだ。本研究では、上流管理の実施、汚染と感染とを区別すること、そして、ガイドラインの設定が望ましいことを提案している。具体的には、3 密・社会的距離の確保・マスク着用・肌 / 服への消毒・手洗いに定量的なデータを加え、これらに基づいて、買い物・通勤・職場・食堂・ジムなどの各シーン毎のガイドライン・作業標準書(SOP)を作成することが望ましいと考えられ、またそのPDCAの遵守が必要であるという。
C1-2 「信頼・安心へのシーソー・モデル7視点 ‐ 未然防止の観点から ‐ 」(加藤進弘・大石修二・鈴木和幸 : 電気通信大学)
信頼と安心は、安全性を確保する期待や確信として、ユーザーと供給者との共感のうえに成り立つものであるという。ここでは,発生防止~発見〜影響防止(緩和)〜安全文化に係る信頼性・安全性へのスキームと未然防止体系として、筆者らはシーソー・モデル7視点を紹介している。合理主義・義務論・功利主義をはじめ、経験論・超越論・存在論・生の哲学・現象論、老荘思想・陽明学・禅・西田哲学などを参照して、相反する要素を うまく機能させる方法を決定するのに役立つ東西の視点についての図形的展開を試みたそうだ。効果が大きい技術は、一方では大きな副作用をもたらすことが懸念されるという。IoT・自動運転車・ロボット・AI に関わる設計者や管理者(経営者)は、行政と共に、ニューノーマルにおける未然防止と信頼・安心を新に構築しなくてはならないことが ここでは提唱されている。ニューノーマルにおける未然防止と信頼・安心は、哲学・倫理と深く結びついているが故に必要な提言であるのだという。
C1-3「安全問題と信頼・安心」(伊藤誠 : 筑波大学、山仁雄介 : Old Dominion University)
COVID-19のパンデミック下で、人々は負担を回避し、不確実な状況による不安の解消を求めるために、根拠の明確ではない他者の意見や、見慣れない技術への信頼を強制される場合があるという。 しかし、人と機械とが関係を構築する ごく初期において、信頼感を生む要因が何で、それらがどのような役割を果たすのかは ほとんど分かっていないそうだ。このため 筆者らは、コロナ禍において機械・技術システムへの信頼がどのように変化しつつあるのかをウェブベースの質問紙調査を国際的に同時並行で行うことによって分析することに取り組み始めたという。
C4-3「ウィズ・アフターコロナ時代における モバイルビッグデータの活用可能性」(斧田佳純・浅野礼子・鈴木俊博 : (株) ドコモ・インサイトマーケティング)
COVID-19によって引き起こされつつある変化を正確に理解し、適応するための、ドコモのモバイルビッグデータ(サンプルサイズは国内居住者約 8,000 万台、訪日外国人約 1,200 万台)を活用することについての提案。モバイル空間統計に利用できる運用データは 基地局から得られたデータで、携帯電話の電源が入ってさえいれば、全ての携帯電話の 1 時間に 1 回以上の位置情報を取得できるという。また、GPS データと異なり、アプリケーションに依存しない事から統計的な信頼性は高いそうだ。任意の日付・時間帯を指定して分析できる柔軟性もあるという。COVID-19による人々の生活様式の変容(人の流れや商圏の変化)を把握するデータとして活用が期待できることを紹介した。
C5-1「with コロナ時代の商店街振興政策の提言 ~ 商店街の歴史分析と新たな商店街政策の在り方検討会の議論から ~」(木佐谷康・桑田倫幸・近田裕子・BATUER JULAITI・森岡友紀・山口明・信田勝美・板倉宏昭 : 東京都立産業技術大学院大学)
COVID-19時代以降のニューノーマルと呼ばれる大きな変化の中での商店街政策についての考察。ここでは、先ず1910年の黎明期から現在に至る商店街の歴史を分析し、それに併せて 中小企業庁が開催した「新たな商店街政策の在り方検討会」(2016 ‐ 17年)と 「地域の持続可能な発展に向けた政策の在り方研究会」(2020年)の議論の両方をふまえて考察している。本稿では、家商分離と地域コミットメントの観点から「内部力強化のための魅力的な個店の商店街内での創業を支援すること」と、withコロナ時代の行動変容で求められるデジタル化の観点から「商店街の内部力強化のためのツールと してのIT化の推進」の二つを施策として提言している。
最後に本稿をまとめていて気付いたことを記すが、コロナ禍に関しては、次の3つの視点からの議論が夫々の分野で今後 深められる必要があるように思われる。
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- (with コロナ時代の)日常生活の各場面においての住民の「行動ガイドライン」に係わる推奨案。
- 行政による(住民のプライバシーを尊重した)諸施策。特に観光地などでの検査支援方法。
- (with コロナ時代の)大規模災害時における行政と住民の防災準備。
(このまとめのためのヒントを頂きました オーガナイザのお一人 有馬昌宏先生に感謝申し上げます。)
〔 第11回 横幹コンファレンス 概要 〕
大会テーマ:「サステナブル・イノベーションに向けて ‐ 横幹知による深化と創発 ‐ 」
期日: 2020年10月8 – 9日 会場: 統計数理研究所(オンライン開催)
実行委員長 宮里義彦(統計数理研究所)
プログラム委員長 橋本秀紀(中央大学)
特別講演 「我が国の科学技術・イノベーション政策について」
文部科学省 文部科学審議官 松尾泰樹氏
プレナリー講演 「日本古典と感染症〜古典籍から未来への問いかけ〜」
国文学研究資料館長 ロバート キャンベル氏
木村賞受賞論文紹介 「社会問題の解決とシミュレーション」
東京大学教授 古田一雄氏
第11回横幹コンファレンスは上記の内容で開催され、盛会裏に終了した。繰り返してのご紹介になるが、前回の横幹ニュースレター8月号 に、大会テーマの解説と 昨年の大会テーマ(SDGs)からの継承性を記した。特別講演(松尾泰樹氏)と プレナリー講演(ロバート キャンベル氏)の内容についても、そちらを ご参照頂きたい。それぞれ、大変に時候を得た心に残るご講演を頂いたことに感謝申し上げたい。そして今回も、企画セッション、一般講演を含めて どの講演も大変に充実した内容であった。その概要は、企画セッションの一覧をご覧頂きたい。開催に向けて ご尽力された、宮里義彦実行委員長 はじめ統計数理研究所の皆さま、 橋本秀紀プログラム委員長 とオーガナイザの皆さま、登壇者の皆さま、安岡善文会長、横幹事務局の皆さまに感謝申し上げたい。
講演予稿集のJ-Stageでの参照が可能になった暁には、是非とも ご一覧頂ければ幸いです。
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