No.065 May 2021
TOPICS
〇 コトつくりコレクション公開のお知らせ
コトつくりの見える化と社会への働きかけを目的に、優れた事例を顕彰する「コトつくりコレクション」の第3回目選出内容を公開しました。詳細はこちらをご覧ください。推薦へのご協力をよろしくお願いいたします。お問い合わせは、横幹事務局まで。
COLUMN
第11回横幹コンファレンス予稿集の再読。 「汚染回避・汚染除去」の新常態についての考察
執筆・構成 武田博直 ( 横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャルリアリティ学会 )
「第11回 横幹コンファレンス」
大会テーマ:「サステナブル・イノベーションに向けて ‐ 横幹知による深化と創発 ‐ 」
期日: 2020年10月8 – 9日 会場: 統計数理研究所(オンライン開催)
実行委員長 宮里義彦(統計数理研究所)
プログラム委員長 橋本秀紀(中央大学) 【予稿集:J-Stage】 【セッションスケジュール】
第11回 横幹連合コンファレンスでは、「サステナブル・イノベーションに向けて ‐ 横幹知による深化と創発 ‐ 」をテーマに多くの発表が行なわれ、活発な議論が交わされた。今回の「横幹ニュースレター 65号 Column」では、その中から C1-1「信頼・安心へのスキームとリスク未然防止への源流管理」(鈴木和幸・加藤進弘 : 電気通信大学)に、再度、注目して お届けしたい。その予稿は J-Stageで閲覧可能になっている。(C1-1)【横幹コンファレンス予稿集】
鈴木和幸氏らは(C1-1)の講演において、製造システムの高度な品質管理である「信頼性・安全性へのスキームと未然防止管理」の成功事例を論拠に、COVID-19の「汚染回避・汚染除去」についての 説得力に富んだ対応策を提言された。鈴木氏は、以前からこの分野で『未然防止の原理とそのシステム – 品質危機・組織事故撲滅への7ステップ』(日科技連出版社、2004年)という事例豊富な著書を著され、品質危機についての応急対策と再発防止に多くの知識を有されている。
「COVID-19への平時からの防疫」という未知の「新常態」に向けての新しい提言ではあるが、その内容は具体的かつ根底的であるため、横幹ニュースレターでは独自の判断で再掲を計画した。なお、この提言は、2020年8月までの(変異株出現前の)COVID-19の出現データに基づく。
さて、本講演では、
行程 社会(経済)システム
検査・不適合品 検査システム
市場クレーム 医療システム
という対応づけによって、効果的な「防疫体制」の考察が試みられた。
その前提として、かねてより 製品の製造過程に起因する品質危機についての市場クレームを「顧客の信頼を失い、安全を脅かす」ものと捉える具体的な取り組みが 既にモデル化されているという。ここでは そのモデルが、COVID-19を未然に防止して「感染者数・死亡者数」を減らす対策の参考になると提言されているのだ。なお、このうちの「検査システム」「医療システム」については、医療機関や行政の役割になるため、ここで鈴木氏らは「社会(経済)システム」(社会的ニーズ)についての具体的な提言を行なった。
ここで鈴木氏らの本予稿の結論を、先に記しておきたい。
〇(台湾などの防疫事例を参考に)上流管理を徹底すること。
〇 汚染と感染を区別すること。
〇 シーソー・モデル7視点(C1-2を参照)を参考に、生活の各シーンでのガイドライン・作業標準書(SOP)を作成することが望ましい。具体的には、買い物・通勤・職場・食堂・ジムなどなどの各場面で「汚染回避・汚染除去」のガイドラインを作ることが推奨されており、そこには 3密・社会的距離の確保・マスク着用・肌 / 服への消毒・手洗いに定量的なデータを加えた行動指針が記されて「汚染回避・汚染除去」が図られることになるという。
なお、先にも述べたが、「感染」した後の対応については医療機関の管掌となる。
さて、講演(C1-1)の最初に、鈴木氏らは(台湾などの事例を参考に)「平時の防疫体制の確立」が必要であることを強調した。
台湾では 2019年12月31日から空港における検疫体制が発動して、未然防止のための「上流管理」が徹底されたという。これについて(C1-1)には、12月31日の武漢から台湾への直行便の機内に検疫官が乗り込んで検疫が開始された、と記されている。こうした平時の防疫体制には、トップリーダーの ぶれない積極性と 強いメッセージが必要であるという。(注1)
(編集室による注1: ここでは 製造業と同じ「上流管理」という用語が使われているが、台湾の国際空港や、北海道を例として挙げれば 各空港・JR改札・青函トンネルの出入り口などを通過しているのは「プライバシーを持った人間」である。従って、彼らが、仮に未発症の感染者であったり 気づかずに汚染されている可能性があったとしても、その防疫体制には 本人の自発的な同意を得ることが必要だと思われる。考察モデル作成時の「管理」という用語に監視のような意味を含めることを、執筆者は意図されていない。ちなみに、「上流管理」の成功例として挙げられている台湾の人口は、約2360万人。面積は、九州よりもやや小さい位である。Reutersコロナ感染者数 2021.5.10現在の報道では、台湾の感染者の累計は 1188人、死者12人、回復者1089人であった。)
そして、汚染回避・汚染除去によって感染を予防する方法について、鈴木氏らは 生活の各シーンでの「ガイドライン・作業標準書(SOP)」を作成することを強く提唱した。このことは「新常態における社会システムの確立」という意味を同時に持つという。ただ、予稿においては「誰が何を参考にしてガイドラインを作成するか」の言及は なかった。(注2)
(注2: 誰が何を参考にガイドラインを作成するか、について、本ニュースレターの文責で追記させて頂く。瞥見の範囲だが「厚生労働省のホームページ」の「分野別の政策一覧 Employment Policy for Foreign Workers」「がいこくじんのみなさんへ しごとやせいかつのしえんについて」に記されている「関連情報(かんれんじょうほう)」「■ 感染症かんせんしょうの予防よぼうについて」《やさしい日本語》が大変 参考になった。これは、ふざけて言っているのではなくて、他の類似情報の頁と比較すると「一瞥しただけで 内容が理解できる」頁であったからで、待ち受け画面などから直ぐに参照できるようにしておき、帰宅時に参照するガイドラインとされることをお勧めする。「手洗い後は自分専用のタオルで拭く」「使い終わったマスクやティッシュには、他人が触れないように注意する」などの項目は、帰宅の都度の、自分への注意喚起が望ましい内容だからである。なお、職場のリーダーや 販売店のフロア主任などが「各職場での汚染回避・汚染除去のための作業標準書」を作成するためのヒントを、本稿の文末に添えた。)
さて、本 Columnが 鈴木氏らの講演(C1-1)を再び取り上げた理由を ここで改めて述べておきたい。
地震・台風・水害などで広域避難が必要になるという事態は、幸い 2020年度には例年よりも少なかった。しかし、防災学術連携体からの発表などにもあった通り、こうした災害の避難所において、たまたま コロナの集団感染や 熱中症などとの同時対応に追われる可能性は十分に予想できるだろう。正に こうした際に、鈴木氏らの述べるリスク未然防止のガイドラインが必要とされるように思われる。
また、(繰り返しての指摘になるが)講演(C1-1)で 鈴木氏らは「社会(経済)システム・検査システム・医療システム」を「行程・検査・不適合品・市場クレーム」に対応づけた考察を行なっている。ここで、特に「トップリーダーの ぶれない積極性と 強いメッセージ、そして、情報を隠さないこと」を鈴木氏らが強調しておられることは注目に値する。これは、鈴木氏の著書『未然防止の原理と…』でも品質管理の最重要事項の一つに挙げられる項目だが、いわゆる「PDCA」の観点からシステムが効果的に機能するためには、「情報を隠さないこと」が何よりも重要だからである。そしてこれが COVID-19への対応としても重視されていることは、講演(C1-1)における上記の対応づけが妥当であったことが傍証されているのではないだろうか。
なお、ここでは詳しく触れないが、講演(C1-2)では、鈴木氏の かねてより提唱されている「信頼性・安全性へのスキームと未然防止体系のシーソー・モデル7視点」という品質管理モデルが、合理主義・義務論・功利主義をはじめ、経験論・超越論・存在論・生の哲学・現象論、更には、老荘思想・陽明学・禅・西田哲学などを図形的に展開したものに(モデルとして)合致していることが紹介された。なお、(本稿による要約で 大変に恐縮であるが)「未然防止への基本7ステップ」とは「① 未然防止への動機付け ② リスクの事前抽出 ③ リスクの事前評価 ④ 事前の安全確保 ⑤ 事前対策の策定 ⑥ 未然防止の仕組みの さらなる改善 ⑦ ステップ1~6の定着化と安全文化の確立」であるという。本稿では、人間社会の「防疫システム」を 製品(人工物)の品質保証モデルに対応づけて考察しているのだが、ここでは哲学的・論理的(図形モデル的)な類比を経て考察されていることからも、現実社会に適応して意味のある施策であることが傍証されているのではないだろうか。
ところで、講演(A3-1)「ポストコロナ未来社会と横幹知」で 遠藤薫氏(学習院大学)は、「ポストコロナの未来社会と SDGs / 社会倫理についての考察」について発表された。氏は ここで、公衆衛生(健康)と 経済活動、そして、プライバシーは「相反事象では無い」ということを強く指摘されている。個々人が正確な知識にもとづいて自律的に行動変容することが、第三の道であるという。 遠藤氏の発言は、直接、鈴木氏らの発表に言及したものではないが、汚染回避・汚染除去が適切に行なわれることによって「新常態」としての日常生活が回復されることを期待させる内容であったことを最後に述べておきたい。
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以下の内容は「編集室からの注釈」とさせて頂くが、各職場のリーダーや 販売店のフロア主任などが「職場での汚染回避・汚染除去のための作業標準」を作成するためのヒントを記しておきたい。例えば、地震の際の避難所を家族間で決めておくことと同じように、以下の ウェブ頁などから必要な情報を得て「職場の同僚の私たち」が情報共有しておくことや「地域の商店を利用する私たち」を広く含めた職場のルール作り(例えば、商店の店頭に掲示される「お客様へのお願い」作成など)を行なうことが効果を挙げるのではないだろうか。
「関連情報(かんれんじょうほう)」
「■ 感染症かんせんしょうの予防よぼうについて」《やさしい日本語》
「新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~」
「どうやって感染するの?」「一人ひとりができる新型コロナウイルス感染症対策は?」
「国民の皆さまへ(新型コロナウイルス感染症)」
「一般的な感染症対策について」(「最低15秒以上の 手洗い」「咳エチケット」「マスクのつけ方」)
「新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために」
「新型コロナウイルス感染症の”いま”に関する11の知識」(※2021年4月15日掲載)
「新型コロナウイルス感染症を考慮した清掃と消毒 暫定ガイダンス(WHO)非公式日本語訳」
「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)」
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