No.76 Feb 2024
TOPICS
〇会誌『横幹』第17巻第2号が発行されました。 詳細は、こちらをご覧ください。
〔執筆者(敬称略)安岡善文、廣井悠、三村恭子、加藤裕二・武富香織、星野宗義、武重伸秀、伊東明彦、伊藤誠〕
〇J-STAGE月間アクセスランキングが発表されました。詳細は、こちらをご覧ください。
COLUMN
第14回横幹コンファレンス E2 「一般セッション」記録(2023年12月16日)
文責:横幹ニュースレター編集室 武田博直(日本バーチャルリアリティ学会)
第14回横幹連合コンファレンスは、2023年12月16-17日に東京大学本郷キャンパスを拠点として(オンラインでも参加可として) 開催された。今回も多彩に、プレナリー講演、特別講演、コトつくり至宝特別セッション、企画セッション、ポスターセッションなどが組まれ、大変に盛況であった。ここには、No.072 Feb 2023 に引き続き、「一般セッション」予稿に記されたAbstractとIndex termsを(拙訳で)掲載した。掲載した意図については、No.072をご参照頂きたい。
【プログラムE-2 一般セッション】オーガナイザー:稗方和夫 (東京大学)
E-2-1 「自動運航船の社会実装に向けたマルチレイヤシミュレーション」
E-2-2 「商品の概念構造 ~現象学の視座から商品を理解する~」
E-2-3 デザインイノベーションを生み出すデザイナー育成のメカニズム
E-2-4 需要変動に対応するシミュレーションベースのビジネスプロセス設計手法
E-2-5 「人間中心のAI社会原則」の決定に至る議論の過程
E-2-1 「自動運航船の社会実装に向けたマルチレイヤシミュレーション」
○ 中島 拓也(東京大学)、村山 英晶(東京大学)
Abstract — 本予稿では、システム・オブ・システムズ(SoS)、システム、および サブシステムの性能同士の関係性を定量化することにより、ターゲットシステム(航行シミュレータ)と周囲の(産業レベルの意思決定)システム(産業シミュレータ)を統合する「自動運航船」の社会実装のための設計アプローチを提案する。設計アプローチは、マルチレイヤシミュレーション【注:異なる時間スケールのシミュレーションを段階的に用いたアプローチ】ベースによる。ここでの産業モデルは、政策決定者、製造者、船主などの間の(自動化のための)適切な意思決定を変化させて、自動運航船の導入に向けたロードマップおよび技術開発のマイルストーンを提示するために提案されている。 運用モデルは、自動運航のための航行システムとその周囲のインフラの性能を評価することができる。(注釈の文責:編集室。以下同じ。)
Index terms — システム工学、自動運航船( autonomous ship )、システム・オブ・システムズ( SoS )、シミュレーション
【注:ここでSoSは、含まれる複数のシステムが互いに影響を及ぼしながら独立して運用・管理され、全体の性能を高めている統合された・巨大システムのこと。このシステムの中で ① 「搭載される自動運航技術」(離着桟・航法・船体+機関監視)と ②「産業シミュレータ」(補助金や規制緩和など外部の影響を受けながら、この技術を社会実装させる)が互いに独立して運用されており、システムの全体とサブシステムの関係性が高まり合いながら、性能指標の向上(船員タスクの削減)につながっていることが明確に示された。シミュレーション分析のSoSによる手法が効果的に活用できる分野は豊富にあるので、読者の皆さまにも是非、ご検証頂きたい。なお、ここからは編集室(本記録執筆者)の私見であることにご留意頂きたいのだが、例えば、吉川名誉会長が書籍(1999年)で提唱された『逆工場』も、「設計・生産・使用・廃棄」の通常の工程の「廃棄」に替えて「回収・分解・選別・再利用」のサイクルを別システムとして組み合わせたもので、「使用」後の流れを考慮した製品設計・製造手順の改変が全体の性能指標を向上させているSoSの事例の一つであると考えられる。】
E-2-2「商品の概念構造 ~現象学の視座から商品を理解する~」
○ 甘利 康文(セコム株式会社 IS〔インテリジェントシステム〕研究所)
Abstract — 商品は concept(概念)であり、自然界に物理的に存在するものではない。このため、一般の科学的と考えられる方法で商品の本質を解明することはできない。 この問題を解決するために、私たちは現象学によって、ある人が「これは商品であると感じる」とき共通する「そう感じさせている構造」を、商品の分野や種類を特定せずに抽象化することを試みた。 人が、(a)「それ」が何であるかという「それ」の「存在」についての知識を持っており、(b)「それ」の所有権、すなわち支配する権利は「売買や交換」という手段で人々の間を移転できるという知識を持っており、さらに、(c) 人が想定するその人の将来は、その人がその「それ」に関係することでよりいっそう快適になるだろう、という知識を持っており、そしてこれらの知識または信念がその人の意識の中に同時に存在する場合に、「それ」はこれらの知識から構成され、その人の意識の中に「商品」という構造として現れる。この新たな視点は、新商品の創出・開発や販売など、生産物に関連するディシプリン(研究領域、特にその授業法や 訓練)や実際の業務においてパラダイムシフトを起こす可能性がある。
Index terms — 商品、構造、概念(concept)、一般化、現象学
【注1:世界の名著51「ブレンターノ・フッサール」月報「現象学の復興」
木田元氏と細谷恒夫氏の対談から木田氏の発言の一部を以下に引用する。(…)は 中略。
僕はこんなふうに考えています。ハイデッガーの『存在と時間』の(…)現象学の定義を(…)定義めいた部分だけを取り出しますと「おのれを示すものを、それが自己自身から現れてくる通りに、それ自身のほうから見えるようにすること」と(これがフッサールのいう「事象そのものへ」の形式的な意味だと)いっています。(…)つまり、現象学とは、世界というものの存在や自己自身の存在をも含めて、一切の存在に関する先入見を斥けて、あるいはそれに関するいっさいの既成の概念構成を斥けて、「事象をそれにふさわしい経験において現われるがままに受けとり、その与えられた事象の意味を解読してゆく、そういった方法論的態度だ」というわけです(…)。】
【注2:また、「現象学的還元」に関して1975年刊行の坂本賢三著『機械の現象学』を、ここでご紹介しておきたい。
(岩波書店による 本書の紹介)
機械は、人間にとってどのような意味をもつか、科学理論の方法的限界を超えて、人間の意識に直接働きかけるものとしての機械を現象学的に記述し、その意味を改めて問う。機械の時代における新しい機械の哲学。
(以下には、目次と内容の抜粋を掲載した。)
●序論「機械を哲学することの意味」
これまで、「科学」や「技術」あるいは「手段」については哲学的考察が行なわれてきた。しかし、「機械」について哲学的に扱われてきたことは、ごくわずかしかなかったといってよい。機械というものは、はたして哲学の対象たりうるものであろうか。
● 第一部「機械の内包的構造」(「力行の風景」「手と目の構造」「はかりごと」「器と機」「力と世界」「外骨格の形成」)
● 第二部「機械の外延的構造」(「人間」「自然」「時計」「機関」「計算機」「人造人間」)
●結論「機械の意味」「87 機械の本質」
問題は、われわれにとっての機械の意味であった。機械は量的にも質的にも人間にとって無視しえない大きな存在となり、それに向かい合っている人間も機械化されつつあり、そのなかで「人間らしさ」とりわけ自由意志が失われつつあることが問題であった。(…)そして第一部においては、われわれの意識に機械がどのように現象するかを見、第二部では、人類の歴史において機械がどのように現象してきたか、を見たのであった。
「88 機械の運命」
機械を主体として扱うことは、機械を霊的存在とすることではない。利潤追求のために、寿命があるのに殺されたり(陳腐化による廃棄)、死体が遺棄されたり(再生されないままに錆びさせられたり)、はじめからすぐ殺されるものとして生み出されたり、病気になればすぐ捨てられたりしているのが、現在の機械の運命である。これはこれからの人間の運命になりつつある。そうではなく、長い寿命をもつものとしてつくられ、修理保全も周到に行なわれ、古い型のものはそのようなものとして生かされ、摩耗したものは再生に回される等々によって、機械も充実した生を生きうるように扱われなければならない。それが資源の浪費と汚染の拡大を阻止する第一歩である。だから、機械を被支配の地位から解放することをぬきにして、人間が解放されることはありえないであろう。機械と人間は運命をともにしているのである。】
E-2-3「デザインイノベーションを生み出すデザイナー育成のメカニズム」
○ 古川 翔大(東京理科大学大学院)、岡本 育実(東京理科大学大学院)、古川 順一朗(株式会社ホンダアクセス)、品尾 博子(株式会社ホンダアクセス)、大江 秋津(東京理科大学)
Abstract — この研究では、デザイナーの特性がデザインの革新にどのように影響するかを示した。ここでは、2万5385人の設計者を対象に、1990年から2018年までの自動車産業の意匠権データについて個人ベースでの重回帰分析を採用した。この分析により(自動車などの工業デザインの)デザインチームで「すごい」デザインイノベーションが創出されることに貢献する可能性が高いのは、単独創作で苦労して意匠権を獲得したデザイナーがデザインチームをまとめる筆頭デザイナーとして参加した場合である、ということが明らかになった。 この研究は、デザイン研究や製品開発の理論となる。 さらに、デザインイノベーションを促進する企業の人材育成戦略を【注:本考察の結論として、デザイナーには単独での創作とチームでの創作両方の経験を持つことが重要と分かったことから、チームメンバー → 単独 → チーム筆頭 という順に経験を積むように育成することが望ましいと】提案して、実践的な洞察を提供する。
Index terms — デザインイノベーション、意匠権、自動車産業
E-2-4「需要変動に対応するシミュレーションベースのビジネスプロセス設計手法」
○ 鈴木 陽一郎(東京大学)、稗方 和夫(東京大学)
Abstract — 本研究では【注:「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」の観点から職務・業務のフローなどを抜本的に見直す一環として】最初に、ビジネスプロセスが処理するリクエストの元となるデマンドの種類を 次の2つに分類した。計画されたスケジュールに従ってデマンドが発生する周期的デマンドと、非周期的デマンドの2つである。デマンドの生成は確率的かつランダムとした。 次に、これら2つの異なる要求を処理するためのビジネスプロセスを、先行研究で提案されているシミュレーションベースのビジネスプロセス設計手法を用いて検討した。
Index terms — 【注:最適化を期待される】ビジネスプロセス、周期的需要、非周期的需要、シミュレーションベースのビジネスプロセス設計、リクエストのソース
E-2-5「『人間中心のAI社会原則』の決定に至る議論の過程」
○ 丸山 雅貴(筑波学院大学)
Abstract — 本研究では、2019年に統合イノベーション戦略推進会議で決定された「人間中心のAI社会原則」が決定されるまでのプロセスを分析した。2018年の「人間中心のAI社会原則検討会議」の8回の議事録(から出席者の発言に出現したトピックの単語をすべて抽出し、表形式)のデータを用いた計量テキスト分析を実施して【注:議論の全体の過程を考察して】いる。「人間中心のAI社会原則」の策定にあたっての経緯は、議事録から各セッションで議論されたトピックの推移を考察することによって解明された。
Index terms — 人工知能、計量テキスト分析、共起ネットワーク、対応分析、コロケーション統計
なお、第14回横幹コンファレンス 企画セッションの一覧は、J-STAGE「第14回横幹連合コンファレンス プログラム」に公開されている。各テーマは会誌「横幹」に掲載される場合がある。予稿はJ-STAGEを参照して頂きたい。また、特別講演(東京大学 副学長 森山工氏)プレナリー講演(東京大学教授 松尾豊氏)特別企画「コトつくり至宝特別セッション」が行なわれた。その概要は、こちらをご参照頂きたい。
【最後に、横幹ニュースレター編集室の個人的な注目点を付記させて頂く。松尾氏の講演「領域融合の実現へ向けた人工知能の可能性」では、100億以上のパラメータサイズの LLM(大規模言語モデル)の「最適なモデル構造」を発見する必要性が明瞭に解説された。今後の取り組みについては、松尾・岩澤研究室のホームページに順次公開されるようだ。また、森山氏の「東京大学における領域融合の試みとUTokyo Compass」では、大会テーマの「対立・矛盾を克服する横幹知イノベーション」を文化人類学の視点から考察し、人間社会の対立・矛盾の克服では「片方が不変で、片方だけが立場を変える」という結論はあり得ず、常に双方から「相手の個性・知性を味わい尽くす」必要のあることを強調されたのが特に印象的であった。】
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【予告】特別記事 ”新しい「横幹図」が作成されました”の「連載4」は次号に掲載されます。
新しい「横幹図」作成の詳しい経緯は、会誌『横幹』16巻2号 (企画・事業委員会)をご参照下さい。
◎ 横断型基幹科学技術(「横幹科学」)は、科学技術分野を横断する束ねる知として「異分野を俯瞰する事実知」「統合する使用知(構成知)」「社会的期待を発見する意味知」に関わる知見を追究します。
◎ 横幹科学は、既成概念にとらわれない持続可能な社会に向けたイノベーションを生み出す「知のプラットフォーム」の形成を目指します。
◎ 横幹科学は、知のプラットフォームを社会実装することで スマートシティ、健康・医療などの具体的な社会システムの構築に寄与し、持続可能な目標(SDGs)の達成 と Society5.0の実現などに貢献します。(Society5.0ロゴは内閣府ホームページより)
EVENT
【これから開催されるイベント】
横幹連合ホームページの「会員学会カレンダー」をご覧ください。
また、会員学会の皆さまは、開催情報を横幹連合事務局 office@trafst.jpまでお知らせ下さい。