横幹連合ニュースレター
No.010, Jul. 2007

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
タイトル
椹木哲夫 横幹連合理事
京都大学

■活動紹介■
【参加レポート】
●第15回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●日本時計学会
●プロジェクトマネジメント学会

■イベント紹介■
●第16回横幹技術フォーラム
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:

*  *  *

横幹連合ニュースレター
バックナンバー

横幹連合ニュースレター

No.010 July 2007

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本時計学会プロジェクトマネジメント学会をご紹介します。
     *     *     *     *     *     *     *     *     *

日本時計学会

ホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/hij/

会長 石坂 昭夫

(東海大学 教授)

 

 社団法人日本時計学会は、時計および時計応用技術に関する調査研究を目的に、1948年( 昭和23年 )に創設されました。50年以上の歴史を有する伝統ある学会です。98年度からは学会誌名を「日本時計学会誌」から「マイクロメカトロニクス」と改め、微小情報機器、ウェアラブル情報機器への分野へと大きく展開し、時計技術で培った微小化・省電力化技術をベースに、携帯情報機器のキーテクノロジーであるマイクロメカトロニクス技術を、基礎から製品化までカバーして活動しています。
この学会につきまして、会長の石坂昭夫先生にお話を伺いました。

Q  日本の時計産業は、第2次世界大戦中の軍需産業への転換、そして戦後の荒廃から立ち直り、70年代には飛躍的に精度のよい水晶腕時計が普及したことによって、大いに発展しました。現在では、実用品は水晶時計、高級品は機械時計という分化が、できつつあります。こうした時計業界の歴史から、他の学会にも教訓となることがございましたら、是非ご教示下さい。
石坂会長   69年末に、世界初の国産水晶腕時計が発売されました。この時計の電子回路は、一般に発振回路、分周回路、駆動回路から構成されますが、運針のための分周回路( 高い周波数のクロックを低周波のクロックに変換する回路 )のIC化されたことが大きなきっかけです。当時のICメーカーでは、稠密度は高いけれどスイッチイング速度の遅いMOS-ICへの関心が薄かったため、諏訪精工舎( 現セイコーエプソン )では自作に踏み切り、現在もIC製造は同社の主要製品に入っています。
   また、これも70年代に実用化された希土類磁石によって、より消費電力の少ない製品が製作されました。この磁石も、他の小型の電気製品に数多く供給されています。このように、自社での開発成果を学会という場で発表したことによって、技術屋のよい意味での競争が促され、時計は勿論のことそれ以外の多くの製品が生まれる原動力になった、と思います。

Q 石坂先生の時計学会との出会い、ご専門について、お教え下さい。
石坂会長   機械的な振子をもつ機械時計の研究から始まったのですが、水晶時計に移っていきました。今から思えば短い期間でしたけれど、機械的な振子と水晶振動子の中間の振動数をもつ「機械振動子」と呼ばれる時間基準素子を用いた時計が登場しています。水晶振動子のような高い振動数をもっていないので、分周段( プリスケーラ )が少なくて済み、電力消費が少なくてすみます。そこで、恩師の小瀧富雄中央大学名誉教授の下で、高品質( 高Q値 )が得られる機械振動子の研究を行いました。その後に、時計用の小型ステップモータの解析研究を行いました。
   現在は、それらの研究に加えて、振動計測や防振工学、弾性衝突の基礎研究なども手がけております。

Q 時計に関しては、マイクロメカトロニクス、ウェアラブル情報機器といった側面が注目されているようです。時計学会の今後について、横幹的な観点から、お話をお聞かせ下さい。
石坂会長   日本時計学会のように「製品」の名を冠した学会は、殆どないだろうと思います。製品を作るためには、常に最新の技術( 生産技術を含めて )が取り込まれてきました。今後もその点については、変わりがないでしょう。その意味でも本学会は、横断型の学会です。どの製品についても同じでしょうが、製品製造のためには種々の細分化された専門知識が要求されます。横断型の学会では、違う専門の領域からどんな刺激を受けて、自分の専門の幅を広げることができるか、役に立たせることができるかが、問われると思います。また、種々の領域で経験を積んだ方がジェネラリストとして活躍するには、横幹的な観点が、より必要となるでしょう。
   「時計」も、時刻を電波でコントロールし、電源はソーラーなどを利用することによって完成の域に到達してきていると思われます。しかし、ナノ(10-9 )技術の前に、産業的にも依然マイクロ(10-6 )技術の占める割合は大きく、製造技術としても他の分野の研究、応用の参考となる内容を多く含んでいるように思います。機械時計の再認識と、時計の開発、製造で培ったマイクロメカトロニクス技術を用いて、今後はウェアラブル情報機器の領域にウイングを広げようと考えております。
このページのトップへ


プロジェクトマネジメント学会

ホームページ:http://www.spm-japan.jp/

会長 大野 治

(日立製作所 情報システム事業部事業部長)

 【PMを発展させ、国際社会に貢献】

「プロジェクトマネジメント学会」は、実践的な学理体系であり方法論であるプロジェクトマネジメント( PM )を、整備・確立・発展させ、国際社会に寄与することを目的として、1999年に設立されました。様々な分野の会員により、常にオープン・中立的・協調的かつ学際的な活動を、活発に展開しております。
この学会につきまして、会長の大野治先生にお話を伺いました。

Q 最初に、日本のPMのデファクト・スタンダードとなっているPMBOK Guide( A Guide to the Project Management Body of Knowledge )の概要と、この学会の沿革についてお聞かせ頂けますか。
大野会長   PMは1950年代後半に、米国防総省が大規模プロジェクトのためにマネジメント手法を体系化したのが始まりとされています。PMBOK Guideは、米国のPMI( P M Institute )という協会がまとめたPMの知識体系です。建設、エンジニアリング、IT系などに共通する知識がまとめられています。プロジェクトの「立上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」の各プロセス群を9つの知識エリアが支えています。例えば、計画プロセスでは「プロジェクト計画書」を作成すること、実行プロセスで、実行のマネジメントを行うこと、監視コントロール・プロセスでは「プロジェクト・スコープ記述書」を参照しつつ、「コスト」「品質」「コミュニケーション」「リスク」などのマネジメント知識に基づいて、利害関係者のニーズに配慮しながらプロジェクトの監視コントロールをすることなどが、具体的にガイドされています。
   PMの知識体系には、ほかにヨーロッパのIPMAという団体のICBという体系もありますし、今年度からISO化の作業も始まります。ともあれ、こうした知識体系に即して日々の経験やノウハウを蓄積してゆくことによって、実学としてのPMの学問的検証が可能になるのです。こうして体系化されたPMは、特にモダンプロジェクトマネジメントとも呼ばれています。
   当学会は、1999年3月の創設以来、このようなPMに関する研究や普及活動を展開しています。春と秋の研究発表大会と研究フォーラムの開催、学会誌の発行、PM手法の入門書や解説書の出版などを行っており、産業界、官界、学界の様々な分野にまたがる正会員数は、2000名を越えています。法人会員が、156社あるのも特徴です。研究活動については、研究分野毎に7つの研究会を立ち上げています。また、九州、四国、中国に支部があり、活発に活動しています。2002年に、日本学術会議登録学術研究団体として第三部と第五部に登録されるなど、当初より文理の枠組みを超えた役割を目指してきました。

Q 大野会長が、実学としてのPMの必要性を感じられたきっかけ、ならびにこの学会とのかかわりについて、お聞かせ下さい。
大野会長   私は、日立に入社以来、官公庁、自治体の大規模ITプロジェクトのプロジェクトマネジャーを長く務めてきました。情報・通信グループのCIOに就任した2001年、PMO( プロジェクトマネジメントオフィス )の長を兼務しました。PMOは、数多くの開発プロジェクトを横断的に支援しますが、当社ではPMに関する施策の立案や技術開発も行います。当学会との係わりもこの頃できました。03年から理事を務め、本年度、会長に就任しました。
   体系化されたPMを知って、日立や日本に今まで欠けていたものは、これだと確信しました。日本は、自己流ながら万博などの巨大イベントを次々成功させてきた世界有数のPM力を持つ社会でしたが、バブルの崩壊やオープン化などの理由で、基幹システムを刷新するといった大型プロジェクトが激減し、今では日本のIT業界は自己流のノウハウすら伝承できなくなったと言われています。体系的なPMの考え方と実学としての「プロジェクトマネジメント学」を身に付けることで、もともとPMに向いている日本人のPM力は復活し、業界の発展にも貢献できると思ったのです。
   また、プロジェクトマネジャーは、完成させたときの達成感は大きく、やりがいのある仕事ですが、遂行中は大きなストレスを感じています。私は、頑張っている彼らの抱えるストレスを少しでも軽くしてあげたいのです。PMがプロジェクト環境の改善を促し、プロジェクトマネジャーの地位向上にも貢献することを、切に願っています。

Q 研究者、公的機関の実務家、民間の経営者・実務家、院生・学生のそれぞれの立場で、プロジェクトマネジメント学は、さまざまの分野に展開されてゆくことと思います。今後の展開を、横幹的な視点から、お話を聞かせて頂けますでしょうか。
大野会長   国際的な研究交流の場として、ProMAC( International Conference on Project Management )という国際会議を主催しています。2002年から隔年で開催しており、シンガポール、幕張( 855名が参加 )、シドニーで開催してきました。次のProMAC2008は、アラスカのアンカレッジで開かれます。環太平洋を中心としたこうした活動で、PM学会は優れた学術的成果や実践面での知見を体系化し、国際社会に寄与しています。
   また、PMBOK GuideをまとめたPMIでは、国際的な認定制度PMPを展開し、日本でも取得者が急増しています( 2006年12月現在日本で18000人 )。PM学会での活動は、この資格の継続学習のポイントとして認定されます。春と秋の研究発表大会では、研究者の方も現場のプロジェクトマネジャーの方もお互いの経験を発表し、学びあおうとしていますので、是非一度覗いて頂ければと思います。
   横幹連合の中で、関連学協会諸兄のご活動は大いに参考にさせて頂きたいと思いますし、PM学会も良いインパクトを与えられればと考えています。ところで、マネジメントを主としない学協会においても、創造のインフラとしてPMが貢献できる( 方法論として使える )ことをご提言させて下さい。その成果を、PM学会も一緒に学ばせて頂くことで、互いに独立性を尊重しつつマネジメント・インフラの横串を通す役割を、PM学会が担ってゆければと願っております。
 

このページのトップへ