横幹連合ニュースレター
No.011, Oct. 2007

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
異分野融合-共鳴と破壊
木村忠正 横幹連合監事
電気通信大学

■活動紹介■
【参加レポート】
●第16回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●日本バーチャルリアリティ学会

■イベント紹介■
●第2回横幹連合コンファレンス
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:

*  *  *

横幹連合ニュースレター
バックナンバー

横幹連合ニュースレター

No.011 October 2007

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本バーチャルリアリティ学会 をご紹介します。
     *     *     *     *     *     *     *     *     *

日本バーチャルリアリティ学会

ホームページ: http://www.vrsj.org/main.html

会長 岸野 文郎

(大阪大学 教授)

 

 「バーチャルリアリティ」(VR)という言葉は、1989年に生まれました。CGなどの計算機科学、ロボット技術や計測制御、通信工学、情報システム科学、さらには生体工学、認知心理学、医学、芸術などにその基礎を置き、応用分野としては、ヒューマンインタフェース、ロボット制御、アート、エンタテインメント、医療などの幅広い領域にまたがるVRは、科学と芸術が統融合する学問分野を形成しつつあるようです。
 96年設立のこの学会について、会長の岸野文郎先生(大阪大学)にお話を伺いました。

Q サイバーワールド(注1)と呼ばれる人工現実空間は、文科系の学問領域からも、近年大きな注目を集めています。例えば、ある社会情報系学会の前会長から、独自にご考察をされた結論として、「バーチャルは仮想と訳されていますが、間違いではありませんか」というお尋ねを頂きました(注2)。このように、VR学会は工学系ばかりでなく、社会情報系やメディアアート、エンタテインメントの世界からも注目されている極めてユニークな学会だと思います。日本バーチャルリアリティ学会(以下、VR学会)について、ご紹介を頂けますでしょうか。
岸野会長  バーチャルリアリティの研究では、3D映像などによる高度な臨場感やインタラクティブ技術を使いこなすことによって、(コンピュータの作る)サイバーワールドと人間を、双方向、シームレスにつなごうとしています。VR学会では、世界最先端を目指した技術開発が行われています。例えば、米国の権威あるCGに関する国際会議兼展示会SIGGRAPHにEmerging Technologies(Etech)というVR技術の展示コーナーがあって、超難関をくぐり抜けた約40作品が毎年展示されるのですが、そのほぼ半数が日本勢で占められています。そして、そのほとんどがVR学会員か、関連の深い学会の会員の作品なのです。ヨーロッパを代表するメディアアート祭Ars Electronica(オーストリア、リンツ市)のCenterに、学会員のアート作品が常設展示されることも珍しくありません。また、ICAT(人工現実とテレイグジスタンス国際会議)など、VR学会が主催や共催する国際学会も大変盛況です。IEEE-VRなどの権威ある国際学会との交流も、長いですね。
会員数は約1000名で、漸増しています。学会誌の特集内容も領域の広さを反映して毎号面白く、最近の特集「SFとVR」も一般の雑誌に負けない充実した内容でした。その学会誌の表紙は、毎号CGアーティストでもある河口洋一郎先生の個性的な絵で装丁されているのですが、そうした意味からも、設立当初から文理融合が志向されている学会です。

Q 岸野先生のこの学会との関わりについて、お聞かせ下さい。
岸野会長   NTTの研究所の画像通信研究部で、テレビ電話、テレビ会議の研究をしていたことが、この分野に携わったきっかけです。テレビ電話は、大阪万博の迷子センターで使われたのが国内での最初の使用例ですが、音声の千倍の帯域が必要で高価でした。それで、その後のテレビ電話の研究は、圧縮符号化などによる経済化と、3D化や多地点化などを志向する高機能化の二つの実用化研究に分かれます。わたしはATR(国際電気通信基礎技術研究所)に出向してその後者の研究を続け、臨場感通信会議システムの研究を行っていた時に、初代VR学会長の舘すすむ先生(注3)が「これはVRの通信への応用ですね」と指摘されたことから、VR分野の方との交流が始まりました。会長には、06年度に就任しました。

Q  大阪大学では、岸野先生のご研究を含めどのような取り組みが行われているのですか。
岸野会長   ここ大阪大学には、2000年にサイバーメディアセンターができました。ここでは、先端的な大規模計算や、情報通信、マルチメディアコンテンツ、教育に関する多様な知識や成果を集積して、学内外の教育研究組織、および、企業、地域に開かれた全国共同利用施設として運営されています。e-Learningの環境基盤や、新学務情報システムを整備して提供したり、スーパーコンピュータの更新やクラスタ型計算環境の提供も始めました。VR学会で活躍されている先生方も多く関わっておられ、私の研究室だけではなく、こうした施設からも、VRを活用したヒューマンインタフェースが生まれて欲しいと願っています。
 それから、最近、大阪大学コンベンションセンターでVR学会共催のエンタテインメントコンピューティング2007(EC2007)が開催されましたが、今回のテーマが「場を読む、空気を知る」というもので、そのテーマに添って、場の空気を象徴するように大量の羽毛が会場中に敷き詰められ、人が歩くとそれが舞い上がって、とても評判が良かったです。ロボットと人のインタフェース技術などにも、期待させるものがありました。私の研究室からは、アートにも転用できる多人数共有型協調作業用ツールや、ブロック型インタフェースを用いた「AuraCube」など5作品を、この機会に出展しました。
 大阪大学には、この他、05年にできたコミュニケーションデザイン・センターという全国的にもユニークな組織があるのですが、ここではアーティストやWebデザイナーなども加わり、難解な「専門の知識」を一般の人に対して分かりやすい言葉で伝えるという、大学院生向けの共通教育を始めています。EC2007の運営にも関わっていただいて、羽毛のアイデアもこのセンターから提案されました。

Q  最近、i-tokyoや国際学生対抗VRコンテスト(IVRC)など、国内のVR作品の展示会が好評です。また、アジア全域のVR研究者や作品が交流するアジアグラフが昨年から開始され、SIGGRAPHのアジア版としてのSIGGRAPH ASIAも、いよいよ来年から始まります。このようなVRに関連する動きを含めて、今後のVR学会の活動についてお聞かせ下さい。
岸野会長  SIGGRAPH Etechに展示された日本人の作品は、もったいないことに、これまで国内でまとめて見ることはできませんでした。そこで、05年からi-tokyoという最先端のVR作品展をVR学会が中心に進めているのですが、ここで、Etechのほとんどの日本人作品が凱旋展示されるようになりました。また、国際学生対抗VRコンテスト(IVRC)という、学生が素晴らしいVR作品を開発するコンテストがあるのですが、超難関のEtechに毎年いくつかの作品が採択されて展示されたり、Ars Electronicaに常設展示される作品がここからも出ていたりと、学生の作品ながらもその質の高さは、海外からも注目されています。IVRCでは、フランスの大規模なVR展示会Laval Virtualでの学生VRコンテストの優秀作品とのシード交流も行っていて、VRを通じた国際的な交流を、若いうちから経験できます。言葉は通じなくても、操作してみれば言いたいことを分かりあえるのが、VR作品の強みです。こうした活動の中で、VR学会を設立された先生たちに憧れてVRに進んだ学生たちが、今度はi-tokyoやIVRCを推進していて、彼らに憧れてまた新しい学生たちがこの道に進もうとしています。すばらしい事ですね。
 それから、VR学会では、「デバイスアート」と呼ばれるデバイス自体にアートの面白さを発見しようという新しい運動を、支援しています。さらに学術展示の分野でも、国立科学博物館での巨大スクリーンを使ったVRシアター展示は、大勢の観客を集めて大変好評です。アジアグラフやSIGGRAPH ASIAでは、アジア全体という枠組みの中での日本のVR技術の高さや個性を、来場された方に感じ取って頂けるだろうと思います。このようにVRは、いろいろな領域で実際に使われて、着実に成果を挙げています。
 先日、九州大学大橋キャンパスで大会が行われましたが、このときも「VR学会の大会は、非常に楽しい」と多くの参加者に好評でした。大会には非会員の方にもご参加頂けますので、VR作品を介して、お互いを刺激しあう体験を是非持てればと願っております。


(注1)サイバーワールド:小説「ニューロマンサー」のCyberspaceに触発され名づけられた、主にインターネット上の電脳世界。Cyber-は、Nobert WienerのCyberneticsからの引用で、「ある目的への舵取りが可能な」といった意味。可視化やシミュレーションができるので便利だという側面だけでなく、ネットの中を見て廻る行為自体が誰かのマーケティングに利用されたり、ネット上のバーチャルな金融が現実の貨幣価値に影響を与えることなどが、社会情報的な文脈からも注目されている。
(注2)「バーチャルは仮想と訳されていますが、間違いではありませんか」:「Virtual Image」は、日本語にVirtualに近い言葉がなかったことから明治21年に、真逆の意味の「虚像」と訳されてしまった。バーチャルが「虚構や仮想」であれば現実の世界に影響を与えないのだが、例えば、バーチャルマネーは実質的に貨幣と等価である。Virtualが「本質的あるいは効果としては現実」であること(舘すすむ先生が99年に気付かれた)は、VR学会では多くの会員が理解している。ここでは、情報文化学会前会長の増田祐司先生から最近質問者(VR学会理事)に寄せられたご質問の内容を、紹介させて頂いた。
(注3)舘すすむ:初代会長舘先生のお名前の表記は、正しくは次をご参照頂きたい。http://www.star.t.u-tokyo.ac.jp/~tachi/tachisusumu-j.html
(注釈文責:編集室)

このページのトップへ