横幹連合ニュースレター
No.012, Jan. 2008

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
横幹連合に期待するもの
〜横幹科学技術の深掘りと見える化を〜
柘植綾夫 横幹技術協議会副会長
芝浦工業大学

■活動紹介■
【参加レポート】
●第2回横幹連合コンファレンス
●横幹ロードマップ委員会WG3合宿

■参加学会の横顔■
●日本感性工学会
●可視化情報学会

■イベント紹介■
●国際計算機統計学会
第4回世界大会・第6回アジア大会国際合同会議
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.012 Jan 2008

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本感性工学会可視化情報学会をご紹介します。
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日本感性工学会

ホームページ: http://www.jske.org/main_jp.html

会長 椎塚久雄

(工学院大学 教授)

  【心を豊かにする感性を横断的に科学する】

  産業革命以来の近代科学技術は、物を大量に作り出し、人々に物質的な豊かさを提供してきました。しかしその結果は、画一的な工業製品を生み出し、個々人の生活を没個性化させ、地域の文化を崩壊させ、人々から創造性をも奪いかねない状況をもたらしました。
 こうした混沌から脱出し、人間を取り巻く自然環境や社会環境と親和する豊かな社会生活を実現するために、「感性」が源泉となる感性工学が成果を上げています。日本感性工学会では、1998年の設立以来、感性の計測と定量化に関する手法の開発や、揺らぎ・ファジィ・フラクタル・複雑系というような新しい解析方法の導入、情報工学・人間工学・認知科学・心理学・デザイン学などの諸領域にわたる学際的研究、さらにはこれら成果の事業化の検討や産業化など、既存の工学や境界領域で取り上げにくいテーマに積極的に対応してきました。
 この学会について、会長の椎塚久雄先生(工学院大学)にお話を伺いました。

Q 第10回横幹技術フォーラム(06年3月、東京大学山上会館)は、日本感性工学会が企画を担当されましたが、ここに参加したとき、感性を源泉とした非常に広い領域を感性工学がカバーしておられるように感じました。ロボティクスや、感性工学を応用した自動車設計ばかりではなく、価値創造型のビジネス戦略についての講演もありましたが。
椎塚会長  感性工学は、たしかに非常に幅広い領域をカバーしています。当初は、マツダのオープンカー「ロードスター」のデザインコンセプトや、ワコールの肌着の「美しさ」の分析などに応用されて、例えばワコールの事例では通常の15倍もの販売数につながったことなどが、元広島大学の長町三生先生のご研究などを通じて、たいへん注目されました。また、信州大学繊維学部の繊維の清涼感や快適さに関する研究も有名です。デザイン、コンテンツ、可視化などの、とらえどころの難しい感性の領域にツールを提供してゆくことが、特にこれからの感性工学でやらなければならないことだと思います。
 ところで、これから感性工学が、もっと広く社会に認知されるためには、広げるばかりではなく、コアとなる領域が必要なのではないかと感じています。更に、「この感性領域にはこの手法を使う」といった適切な感性工学のツールの体系化が必要です。
 ちょうど来年は、当学会が設立されて10年目にもあたります。その節目にあたり、私はまず「感性工学ならではの色を持つ」こと、すなわち差別化を行うことが、最も重要ではないかと日頃から考えています。そのためには、いま日本感性工学会が取り組むべき課題を明確にしておく必要があると思います。
 私は、当面次のような7つの諸事項の実現に向けて進むことが必要ではないかと考えており、これを「感性ジャンプセブン」と呼ぶことにします。

  1. 感性工学ハンドブック(仮称)の刊行(感性工学の体系化への指針)
  2. 感性工学のコア領域の確立(“工学”とうたうべきか否かの分岐点)
  3. 感性工学の周辺領域の位置づけ(特に文系領域との連携)
  4. 感性システムの確立(個別議論からそれをシステム的視点からとらえた統合議論へ)
  5. 文系と理系の交流を盛んにする感性工学という架け橋の建設(横断型科学技術)
  6. 感性の定量化技術の促進(科学としての感性《工》学の確立)
  7. ものつくりの現場への応用技術の促進(感性工学のさらなる市民権の獲得)

 特に、この感性ジャンプセブンの中で最初に出てくる感性工学ハンドブックの刊行は、私のかねてよりの懸案事項でありまして、ハンドブック刊行編集委員会も立ち上げたところです。実は、この感性ジャンプセブンの要となるのが感性工学ハンドブックと言ってもよいかもしれません。それだけに、豊富な内容が含まれているわけです。
 ここで一番問題になるのは、どの切り口から感性工学をとらえるかということですが、私が提唱している「感性システム」の視点から見るのも一つの方法ではないかと思っています。それは、次のような2次元平面を第I象限から第IV象限に分けてマッピングして考えれば分かりやすいのではないかと思います。

第I象限:
 感性表現論(デザイン、エンタテインメントなどの分野への応用が考えられる)
第II象限:
 感性認識論(ソフトロボットでスマートエージェントを構築し、例えばインターネットの中を自由に動き回って必要な情報を収集したり、その情報の信憑性をランク付けしたりすることができる。一方、そのロボットが人間と会話をして、例えば認知症の方の反応を分析することができるようになれば治療に役立てられるなど、介護の現場に近いレベルでの社会貢献ができる)
第III象限:
 認知システム(従来から感性工学が多く扱ってきた研究領域)
第IV象限:
 モデリング (ソフトコンピューティングや多変量解析等の手法による人間の感性の分析・分類など)
 これらを感性工学のコア領域として、とらえにくい「感性」をとらえるためのツールを構築していければ良いと考えています。
 平成19年5月には、日本人の豊かな感性を活用した「感性価値創造イニシアティブ」が経済産業省によって提唱されました。また、熟練工と呼ばれる職人がいなくなったら失われてしまう「熟練工の技術」を定量化することも急がれています。こうしたことも、「感性」の重要性が広く社会に認知される追い風になっています。

Q  椎塚先生の研究分野とこの学会の関わりについて、お聞かせ下さい。
椎塚会長   私は、もとはファジィ関連の研究をしていました。ニュースレター009号にも紹介されていますが、ファジィは既に、いろいろなところに応用されている研究分野です。ところで、日本感性工学会を立ち上げるときに(私はその発起人の一人でもあるのですが)、改めて感性工学の分野を見てみると、非常に広い応用分野が手付かずになっていることに気が付き大変驚きました。
そのことに非常に大きな関心を抱き、現在では感性表現論や感性認識論をはじめとして、モデル化、定量化、感性コミュニケーション等についての研究を専門とするようになりました。

Q  学会員の方々の学問分野も、感性工学の領域の広さに対応して、哲学、心理を含めた人文科学系から、医学、化学、材料、システム、情報などの自然科学系まで、多岐にわたっておられます。部会の多様な活動を含めて、今後の学会の活動についてお聞かせ下さい。
椎塚会長   一般企業の現場で、感性工学が要請される機会が増えてきました。市場調査のアンケート分析でも、従来のYES、NOの単純な調査では感性面を把握できず、どうしてこんなことが起きているのだろうという原因が分からない場面も多く生じています。
 ところで、日本感性工学会では、一つの研究部会が30名以上の会員で構成された場合に、そこから一名の理事が出せるというシステムになっています。現在、部会の数は40以上あり、それぞれの部会はユニークな活動を行っています。最近注目されている「感性ロボティクス」も、そうした部会の一つとして知られるようになりましたが、多くの部会は人間と社会の両面にまたがる研究領域を扱っています。最近のユニークな部会の一つとして、価値創造型のビジネス戦略に関わる部会もあります。
 そうした感性工学のコア領域で、ツールを整備してゆきたいというのが、最初にお話しした感性ジャンプセブンの背景です。特に、文系の方々と共同で研究する機会をもっと増やし、心理学関連の会員がもっと増えて欲しいと願っています。そうしたことからも、ハンドブックの出版などを通じて「感性の可視化」を図り、文系の方たちにも感性工学についてもっと知って頂いて、現在の会員数1800名を更に伸ばしてゆければと考えているのです。

Q  最後に、横断科学としての感性工学の今後のありかたについて、一言お願いします。
椎塚会長   感性工学は、心理学、認知科学、神経科学、社会学、経営学、教育、精神生理学、価値中心デザイン、倫理、そして工学とコンピュータサイエンスにおける専門的技術の統合を目指して、歩む必要があるように思っています。ここで問われるのが、「技術的+芸術的+協調的精神の能力」のコンビネーションです。これが大きな成果を、今後生むことにつながると確信しているのです。

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可視化情報学会

ホームページ:http://www.visualization.jp/

会長 松本 洋一郎

(東京大学教授)

 【「情報」の可視化-視る技術・視えた情報-】

 可視化情報学会は、1981年に「流れの可視化学会」として創立されました。
 流れの可視化とは、「流れ場の速度」や温度などの「熱物質移動」について、非接触そして定量的な方法で多次元計測をすることです。現在では、機械・造船・航空・宇宙・土木・建築・海洋・気象などの理工学分野に加え、医学・農学・環境学などの様々な分野においても、有力な研究・開発手段として活用されるようになりました。流れの可視化技術に関して世界をリードしてきた可視化情報学会ですが、近年は「情報の可視化」に関する研究・発表にも積極的に取り組んでおり、ビジネスや製造分野、文化の保存やe-learningなどにも、その分野を拡大し続けています。
 この学会について、会長の松本洋一郎先生(東京大学)にお話を伺いました。

Q  可視化情報学会Webサイトのトップページの「今月のFlash」とそのバックナンバー ( http://www.visualization.jp/flash/index.html )の映像は、多くの皆様にご覧になって頂きたいと感じました。正に「百聞は一見にしかず」ですが、どの映像も素晴らしいですね。
 複雑な地球環境の大気や海洋の循環などの理工学の分野が、学会の研究成果として目立っているようですが、医療分野などでも実際に可視化技術が活用されて効果を挙げているようです。また、会社のマネージメントでも、「見える化」が流行語となりつつあります。「100万枚/秒のビデオカメラ」が2001年に開発された、ですとか、大英博物館で古代エジプトのミイラをCTスキャンにかけて年齢や性別を調べた、といった賑やかな話題も豊富ですけれど、可視化情報学会の歴史とその研究領域について、ご紹介いただけますでしょうか?
松本会長   本学会は、当初は「流れの可視化学会」として創立されました。様々な流れを扱う機械、航空、造船などの工学分野から、この学会は始まっています。私が学生の頃には、線香の煙や染料などを流し、その様子を写真に撮って流れを観察していましたが、コンピュータの発達によって、解析手法やその応用範囲は飛躍的に広がりました。
  人間の理解力は視覚情報として物事を可視化することによって飛躍的に向上します。可視化というコミュニケーション手段によって、さまざまの因子を視覚的に評価することで、ある判断が本当に正しいか、次にどうすれば良いのかが容易に理解できるようになります。例えば、地球大気の流れといった複雑な現象に関する「数理モデル」についても、シミュレーション結果を可視化し、観察結果と比較して見ることにより、数理モデルの評価が出来ることになります。計算結果と実験結果の詳細な比較などは、可視化情報学会の最も得意とする領域です。
  最近では「見える化」という言葉が、産業界でも使われるようになってきました。これによって、ビジネス上の問題点を早期に発見する方法も工夫されています。このような文系の領域も広く研究範囲に含めることを目指して、「流れの可視化学会」は、その名称を1990年の社団法人化を機に、「可視化情報学会」と改めました。
  医療の分野でも可視化は診断の重要な手段となっています。MRI、X線CT、超音波診断など、様々な可視化手法が活用されています。昨年話題になった大英博物館のミイラのCTスキャンはその応用です。包帯を取らないでも内部の観察が出来、年齢や性別などが推定できるということから行われた研究です。また、1秒間に100万駒の高速度で撮れるビデオカメラなどが開発されており、現在ではさらに高速度のものが研究されているようです。近年、気候の温暖化といった全地球レベルの問題や、生態系の問題など、一般の方々の理解を得て対策を進める必要のある問題も増えています。可視化情報学会Webサイトでは、地球大気の流れといった複雑な計算結果や、ナノメートル単位の細菌のふるまいなども可視化して紹介していますが、可視化によって、一般の方も専門家と理解を共有することができるようになりました。可視化情報学会の役割は、ますます重要なものになってきていると感じています。

Q  「流れの可視化」という言葉は1970年代から使われ始め、この学会の歴史も25年を越えていますが、松本先生のこの学会との出会いやご専門の領域について、お聞かせ下さい。
松本会長   「流れの可視化学会」は、最初は研究会のような形から発足してきたのですが、その立ち上げの頃は、私はまだ大学院の学生でした。大学院では、表面張力によって駆動される流れの研究を行っていましたが、大学に勤めるようになってからは、キャビテーションや気泡力学の研究をはじめました。このような流れを研究するに当たって、様々な可視化手法が役立ったことは言うまでもありません。その後、連続体スケールの流れから、希薄気体流れなど、ミクロな量子・分子レベルの現象にも興味の範囲が拡がりました。詳細な実験とマルチスケールモデリングを用いた数値解析を行ない、両者を融合することにより、様々な流れを研究対象として、研究を進めています。
  昔から続けてきた気泡力学、キャビテーションの研究は、船舶の乱流抵抗の低減や、浄水場の水質浄化システムの効率化などに応用されています。また、希薄気体流れの研究は、半導体の製造プロセスにおける流れ解析などに応用されています。この他、超音波とマイクロバブルを組み合わせて、そこで起きる熱流体現象を医療に応用する研究も医工連携の立場から進めています。

Q  特に、「情報の可視化」などに関して、可視化学会のこれからの方向を、横幹的な観点からお聞かせ下さい。また、英文論文集JOV(Journal of Visualization)が国際的にも高く評価されていることなど、国際的な交流につきましても、教えて頂ければと存じます。
松本会長   「可視化」という方法を介して、異なった領域の人間同士の理解しあえる可能性が高まってきたように思います。科学や技術といっても人間の理解の上に成り立っているものですから、その分野の人がどのように理解し、他の分野の人からどのように理解されるかは重要なことです。自分の研究分野だけを深掘りしていれば良いという事には、決してなりません。
  理系と文系という異なった領域の融合の一例になるかと思いますが、先ほどからお話している「ビジネスの可視化」においては、「見える化」によって情報が共有され、ビジネス上の新しいアクションがとられる環境が醸成されると期待されます。また、医療の分野でも、人体をフルスケールでモデル化して数値解析を行い、血液の循環などの「生体内流」を可視化し、健康態と病態を比較した上での治療計画を立てるといった、これまでとは違う治療のできる可能性が広がっています。今後可視化が注目される、新しい分野であると思います。
  東京大学では、異なった領域の融合による学術創成として「知の構造化とその活用」を進めているのですが、もっと多くの文系の皆さんに学会に参加して頂くことを、今後、是非進めてゆきたいと考えているところです。
  ところで、会員が国際会議に参加して発表することも多いのですが、英文論文集のJOVには海外からの投稿も多く、「流れの可視化」において世界の研究をリードしてきました。そうした伝統をふまえて、文系の研究領域においても、今後成果を出してゆきたいと考えています。
 

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