横幹連合ニュースレター
No.032 Feb 2013

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
 「文明崩壊」を考える
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寺野 隆雄 横幹連合理事
東京工業大学 教授

■活動紹介■
●第35回横幹連合フォーラム
■参加学会の横顔■
◆計測自動制御学会
■イベント紹介■
◆「第5回横幹連合コンファレンス」
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.032 Feb 2013

◆活動紹介


【活動紹介】  第35回横幹技術フォーラム
    総合テーマ:「エネルギーマネジメントの新しい局面 〜社会システムの構築段階を迎えて〜」
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第35回横幹技術フォーラム

総合テーマ:「エネルギーマネジメントの新しい局面 〜社会システムの構築段階を迎えて〜」
日時:2012年 7月11日(水)
会場:キャンパス・イノベーションセンター(JR 田町)
主催:横幹技術協議会、横幹連合
◆講演1「エネルギーマネジメントの新局面」
藤田 政之(東京工業大学)
◆講演2「スマートコミュニティにおける
     エネルギーマネジメントと技術課題」
飯野 穣(東芝 スマートコミュニティ技術部)
◆講演3「家庭部門における電力のデマンドレスポンス」
松川 勇(武蔵大学)
◆講演4「エネルギーシステムインテグレーション
     - エネマネによる需給調整の課題解決を超えて」
荻本 和彦(東京大学)
◆総合討論   司会:藤田 政之   (敬称略)

プログラム詳細のページはこちら

【活動紹介】

  昨年7月11日に「エネルギーマネジメントの新しい局面」と題する横幹技術フォーラムが、行われた。諸般の事情で、本稿の掲載が、2013年2月号となった。しかし、昨年12月に誕生した自民党安倍新政権は、エネルギー諸施策についての具体策をまだ発表しておらず(注1)、日本のエネルギー環境についても、昨年7月以降に大きな変化は見られない(注2)。従って、この時点での掲載にも、充分に意味があると判断した。また、閉会のあいさつで安岡善文横幹連合副会長が、「私の知る限り(この問題に関する)現在最高のメンバーです」と仰ったことも書き添えておきたい。

(注1)安倍晋三首相は、原子力発電所については、「新たに作って行く原発は事故を起こした福島第一原発のものとは全然違う。国民的な理解を得ながら新規に作って行くことになるだろう」と12月30日のテレビ番組出演中に述べている。野田政権下の国家戦略会議は廃止されたが、経済産業省、文部科学省などが予算付けをしたエネルギー関連の研究については執行中である。新政策の判断材料にもなると思われる。
(注2)ただし、ドル建てによる海外からのエネルギー輸入のコストは、安倍政権による円安誘導によって増加している。2011年3月の円ドルの交換レートは、約82円。本講演時の2012年7月は、約79円。2013年2月は、93円前後である。また、発送電分離については、経済産業省が「2017年〜19年度に実施する方向で調整に入った」と2月2日に発表しているのだが、産業界は反発していると報じられた。その他には、原子力規制委員会が、2月6日、原子力発電所の新安全基準骨子案を了承した。2013年7月から適用される。停止中の原発については、「新基準を満たさないものは再稼働を認めない」と明言している。新基準に関連しては、原子力規制委員会の有識者会議が開かれ、敦賀原発(福井県)の2号機の真下を走る断層について、活断層の可能性が高いとする報告書案をまとめた。また、東通原発(青森県)についても敷地内の断層の活動性について、「耐震設計上考慮すべき活断層である可能性を否定できない」と評価した。いずれも、将来予測に影響を与えるニュースであるため補記した。

  さて、最初に行われたのは「エネルギーマネジメントとシステム制御」と題する、藤田政之氏(東京工業大学教授)による講演であった。科学技術振興を目的とする文部科学省所管の独立行政法人、科学技術振興機構(JST)では、新技術の創出に資する科学技術に毎年、競争的資金を分配している。このJSTの「戦略的創造研究推進事業」のチーム型研究(CREST)の一プロジェクトとして、藤田氏が研究総括を務める「分散協調型エネルギー管理システム構築」の理論研究が、2012年度に採択された。平たく言えば、この研究は、電力などの「エネルギー」と、それに関連する「情報」を、双方向、かつリアルタイムに処理することによって、地域コミュニティの中に分散して点在する比較的小規模な発電設備(太陽光発電や風力発電など)から得られる電力を、停電なしに、効率的かつ経済的に利用者(主に同地域の住民)まで届けるための理論や、数理モデル、ならびにそのための基盤技術の新規創出である、という。ちなみに、従来のCRESTの当該領域である「エネルギー・環境・資源」という領域の中では、主に部品素材の開発技術が採択されており、理論・数理・モデリングの研究がCRESTの戦略目標に入ったのは、この2012年度が初めてで、実は画期的なことなのだという。氏は、エネルギーの素材技術ではなくて、そのマネジメントの研究であることを強調した。なお、本戦略目標の正式名称は、「再生可能エネルギーをはじめとした多様なエネルギーの需給の最適化を可能とする、分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論、数理モデル及び基盤技術の創出」 である。   ここでは、ゲーム理論的な協調分散制御を行うために、次のようなシミュレーション設定が行われている。(1)広域の電力を多数統合することにより、理想的な、ならし効果を実現する。また、(2)人口比に即した配分を心がける。(3)送電ロスの最小化を目指すが、これは、(1)とのトレードオフとなる。こうした制御を可能とするために、分散型のマイクログリッド(注3)が活用される。送電ネットワーク自体が最適化を学習して、自らフォーメーションを変えてゆくような数理モデルを考えているのだという。

(注3)「マイクログリッド」(Micro Grid):既存の大規模発電所からの送電には、ほとんど依存せず、電力エネルギーの供給源、および消費施設を、(主に)当該地域の中だけに持っている小規模なエネルギー・ネットワーク。供給源として、当該地域の中にある太陽光発電、風力発電などの分散型電源を想定していることから、供給特性が間欠的である。このため、住宅、オフィス、学校などでのエネルギーの需要特性と供給特性を適合させるために、ICT(情報通信技術)を利用した運転管理を行う。なお、良く似た言葉に「スマートグリッド」(Smart Grid)があるが、こちらは、もっと一般的に、スマートメーター(デジタル電力計)などの通信機能を持つ電力計を活用して、個別の施設の電力を管理する管理手法を指している。スマートメーターの活用によって、停電を防ぎ、送電調整を行うことができるので、「スマートグリッド」は、既存の大規模発電所からの送電網にも使用することができる。一般家庭の太陽光発電の余剰電力が電力会社に「売電」できるようになったことから、スマートメーターの存在が注目されるようになった。

  CRESTの本プロジェクトは、平均年齢も若く、ICT技術の専門家やビッグデータの専門家もいて、実務的に広く環境全体のエネルギー管理を試みるのだという。そのため、米国の大学などでの先行研究にも注意を払い、国際会議などの機会に、直接、研究者とディスカッションをしているそうだ。ちなみに、米国では、大学の研究者であっても実際の地域社会に電力を供給して、使って貰うことに非常に熱心であるのだという。このため、米国でのシェールガスの価格予想が自然エネルギーの市場に及ぼす影響などにも、彼らは注意を払っているという。講演後の質問も、米国の研究者と日本の研究者の研究目標の違いについて問うものであった。
Q「米国では、大学の研究者でも実現可能性を意識して研究しているということで、日本でも学ばなければいけない点ではないかと思うが、そのためには、どうすれば良いのか。単発的な研究報告だけでは、実現に結びつかないのでは無いだろうか。」
A「日本では、たとえ若い人であっても、論文が書けるかどうか、だけに意識が向きがちのような印象をどうしても持ってしまう。米国では、論文は最初の段階なので、それよりもプロポーザルを書いて大型研究予算(グラント)を取得し、そのお金で優秀な若い人を雇って研究論文が継続して出る仕組みを志向している。日本は、質量ともに、そこまでは届いていない。そういう意味では、CRESTのような形で競争的な資金が得られることは、米国に対抗できる方法でもあるので、良い方向に少しは向いているのではないかと考えている。」
  藤田氏は、このように質問に答えて講演を終えた。なお、CRESTの本プロジェクトは、2012年7月5日に行われた第6回国家戦略会議の中で、政府のグリーン成長戦略 5項目の内に「次世代のエネルギー制御プロジェクト」として掲げられており、7月31日に「日本再生戦略」として野田内閣で閣議決定された政府方針に沿う戦略的研究の一つであったことが、講演の冒頭で紹介されていた。

  続いて、「スマートコミュニティにおけるエネルギーマネジメントと技術課題」と題して、飯野穣氏(東芝 スマートコミュニティ技術部)の講演が行われた。飯野氏は、上記 CRESTのプロジェクトの領域アドバイザーのお一人でもある。「スマートコミュニティ」とは、街全体としての電力の有効利用や再生可能エネルギーの活用を組み合わせて(エネルギー消費の最適化から、交通システムや街の住民のライフスタイルの改善に至るまで)複合的に運用することのできる地域社会システムのことである。ここでは、最近話題の、HEMS、MEMS、BEMS、FEMS、CEMSについて、先ず簡潔な紹介が行われ、世界の潮流や国内における具体的な取組みが紹介された。EMS(エムス=エネルギー監理システム、Energy Management System)というのは、電力使用量の可視化や、節電(CO2削減)の為の機器制御、太陽光などの再生可能エネルギーの制御、そして、蓄電池の制御などを複合的に行うシステムの総称である。管理する対象によって、ヘムス、メムス、ベムス、フェムス、セムスという名前がそれぞれに付けられている。HEMSは住宅(Home)向け、MEMSはマンション(Mansion)向け、BEMSは商用ビル(Building)向け、FEMSは工場(Factory)向け、そして、CEMS(Community Energy Management System)は、これら全てを含んだ地域全体向け監理システムとなる。それぞれの管理対象は違うが、電力需要と電力供給のモニターを使ってエネルギーをコントロールする、という基本システムについては全て共通である。
  海外のCEMSの事例としては、オランダ・アムステルダム市のスマートシティ・プログラム(2009年から一部試行)や、UAEの「マスダール・シティ」プロジェクトなどが有名であるという。(注4)

(注4)アムステルダム市では、欧米の有力企業が参加して、地球温暖化の抑制に加えて、オランダ国内の電力インフラの刷新、運河の街ゆえの不便な道路の改良、大型自動車や船舶のディーゼルエンジンが排出する大気汚染物質への対策などが行われ始めているという。また、UAEのマスダール・シティでは、米国マサチューセッツ工科大学の支援で作られた現地の研究機関が技術を提供して様々な取組みが計画されており、すべての電力を太陽光や風力などの再生可能エネルギーでまかない、ガソリン車を完全撤廃した次世代交通システムによる「ゼロカーボン・ゼロエミッションの世界一持続可能な都市」を実現すると発表している。ただし、当初2015年からだったスタートの予定が先送りされている。

  日本では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局となり、経済産業省が旗を振って電力関連企業各社に参加を勧める「スマートコミュニティ・アライアンス」(JSCA)という組織があって、活動を始めている。2013年2月現在、約400社が会員となっており、東芝が会長会社を務めている。本講演の時点では、けいはんな学園都市、北九州市、横浜市、豊田市の4地区で、2014年までの実証実験が行なわれていることが報告された。また、パッケージ化して国際的に展開するための戦略が検討されており、日本の輸出競争力のある技術として、重要26アイテムの国際標準化の検討も進められているという。JSCAの海外展開の事例としては、例えばインドにおいては、デリー-ムンバイ間を結ぶ産業大動脈構想の一環として、マネサール地区やハリヤナ地区における物流・公的な安全管理・通信の3分野についての事業化調査を、JSCAが行なっているという。
  このような最近の動向に関連した技術として、東芝の業務用ビル管理(BEMS)のための「ニューロPMV制御」システムや、ホームITシステム「FEMINITY」(家庭内のエネルギー消費を「見える化」して、スマートフォンなどで制御できる技術、HEMS)などが紹介された。前者では、従来の半分のエネルギーで快適な条件が実現できる場合もあって、東芝のオフィスでは長年使って大きな省エネ効果が実現できているそうだ。 また、BCP(事業継続計画)の機能が、EMSにおいては重視されており、現在東芝では JR川崎駅前にスマートコミュニティ・センターを建築中(2013年10月稼働予定)で、ここは災害時の東芝の「事業継続性強化のための中核施設」として位置付けられているのだという。
  講演後の質疑応答は、次の通りであった。
Q「室内の環境を人間工学的に温かく感じさせることは、研究の対象になるのか。」
A「ニューロPMV制御は、正にその制御をしている。暑い、ちょうどいい、涼しいという人間の感覚は、(1)温度、(2)湿度、(3)輻射温度、(4)気流速度、(5)人の活動量、(6)人の着衣量の6つの要素によって左右されている。これを、Fangerの快適方程式に当てはめると、快適指数(PMV値)が導き出せるが、このPMV値が 0であるということが、95%の人が快適と感じるという意味である。その他には心理的な要因も、大きく影響するようだ。東芝では10年前から、これを導入しており、他社でも同様の技術が、研究されているところである。」
Q「日本では、研究室レベルで終わっている実験も多い。海外では、先ほどのインドの事例などで、工業団地に関連企業を集めて実現への駆動力を与えているように聞いている。日本で、社会インフラとして定着させるためには、どういった方法が望ましいのか。」
A「重要な課題だ。確かに、現在の国内の取組みでは、実証実験で完了してしまっているものが多い。しかし、例えば、社会インフラのパッケージ化という言葉があるが、こうしたシステムをパッケージ化して海外に売って行くことが新成長戦略の一つの目標にもなっている。我々も、JSCAのような動きに参加ができたことから、例えば、インドのプロジェクトでは、長期にわたっての成果を継続して出すことができるだろう。また、国内では、東北の震災復興のプロジェクトに注目している。先のインドの事例は、ゼロベースからの立ち上げで、新しい理想的な街を作ろうとする試みである。また、東北の震災復興で失われた街を再生するプロジェクトも(そのきっかけは、不幸な出来事からではあるが)ゼロベースから新しい街を作って行こうとするものだ。また、その他にも、既存の古いシステムの都市を、あまりお金を掛けずにスマート化するにはどうするか、といったアプローチで社会インフラを定着させる方法もあるのではないか。」
Q「事業化のスピードと効率を上げるためには、日本全体の構造を改革する必要があるのではないか。」
A「事業化のスピードと効率という意味では、我が国で遅れているのは、標準化ではないかと思っている。欧米では、標準化の考え方が進んでいる。米国の国立標準技術研究所(NIST)は、スマートグリッドの全てのインタフェースの標準化を世界を巻き込んで2010年から始めており、日本は、そこに食い込もうとして苦戦している。標準化ができれば、一気に世界での販売ができ、個々の部品であっても組み合わせて簡単にシステムが実現できるので、その点はメーカとしては重視しておかなくてはいけないと思う。ちなみに、横浜市でのJSCAのプロジェクトでは標準化の検討が行われており、ここでの成果を、どうやって国際標準化につなげるかを検討している。」
Q「CEMSの数理モデルについての話だが、地域住民とサプライヤー両方の Win-Win関係を実現するための数理モデルは可能か?」
A「これも非常に重要。一言で言うと、制度設計の問題。個々のプレイヤー、例えば電力会社の立場は、電力を高く売って利益を上げたい。一方、需要家は、安く電気を買いたいし、地方自治体はCO2を削減したい。個別の評価関数で皆が動いているために、目的関数が、ばらばらのままである。しかし、制度設計を上手くすることで、全体が上手く回りだす可能性はあると思う。良い例が、太陽光の買い取り制度で、広く薄く電気代からお金を集めて、太陽光発電に投資してくれた人に買い取りというインセンティブを与える。ドイツがスタートさせて、日本が後を追っているシステムだが、結果的にそれが全体の最適関数につながって社会インフラがどんどん良くなっている。こうした制度設計をどう作るかが、課題と考えている。今回のNEDOによる 4地区の実証実験でも、実際にやってみて需要家がどう反応するのか、などの感度モデル(数理モデル)を作って、政策として提言してみたい。」

  短い休息をはさんで、三つ目の「家庭部門における電力のデマンドレスポンス」と題する、松川勇氏(武蔵大学教授)の講演が行われた。
  「デマンドレスポンス」(Demand Response)とは、「卸市場価格の高騰時または系統信頼性の低下時において、電気料金価格の設定またはインセンティブの支払に応じて、需要家の側が電力使用を抑制するように電力消費パターンを変化させること」を指す。つまり、ピーク時の電気料金を高く設定するなどの方法で、需要家に節電して貰うための仕組みである。おおまかには、時間帯別料金などの電気料金ベースの制御(電気が足りない時間帯には価格を上げ、深夜料金などは下げる)と、需給調整契約などのインセンティブベースの制御(電気が足りなくなったら強制的に停電させて貰うが、その代わり普段の電気代は安くする)に分けられるそうだ。前者に関しては、夜間電力の料金を昼間の4分の1以下に下げること(ダイナミックプライシングと呼ばれている)などが、わが国で数十年前から行われている。後者に関しては、価格の設定やインセンティブの支払い方法が重要であるという。そのために、需要についての「価格弾力性」が注目されている。価格の変化率(%)に対する需要の変化率(%)が、価格弾力性である。
  氏は、この講演で、先駆的な米国での研究事例や、実際に自身で計測された北九州市の事例などについて、価格弾力性を中心に説明を行った。先ず、米国では、石油の半分を輸入に依存しており、石油価格の変動は経済への影響が大きい。このため、計量経済学者などによる研究が行われている。カリフォルニア大学サンディエゴ校のクライヴ・グレンジャー教授(ノーベル経済学賞受賞者)の実証研究などが有名であるという。実際に、米国オハイオ州などでは、電力の需給ひっ迫が予想されるときに「緊急ピーク時課金」が直前にアナウンスされており、「明日の何時から何時までの電力価格は、kW当たり幾らになります」と告知されるのだそうだ。米国各地の実験では(10年ほど前のデータではあるが)このようなダイナミックプライシングの方法で、12〜25%のピーク需要の削減効果が見られたという。国内に関しては、冷房で28度より低い温度設定をしている施設に対して一律に割高な別料金を課金する、といったいくつかの方法が実験されたという。しかし、個別には、老人や幼児を抱えているのでこの実験には参加できない家庭もあったそうだ。
  氏は、最後にこう付け加えた。「ところで、電力の購入者が、同時に市場に入り、電力の供給者にもなることができて、その価格を見ながら様々の行動をする、といったスマートメーターを活用する社会に即応した経済学は、これまで考えられたことがありませんでした。」従って、この問題に適切な数理モデルが確立するまでには、多少の時間が掛かるのかもしれない。氏は、「参考文献の経済産業省のWeb頁もご覧下さい」と言って、この講演を終えた。参考文献に挙げられた経済産業省のWeb頁は、以下の内容であった。
経産省 次世代エネルギー・社会システム協議会、第14回配布資料6(2012.02.01)
経産省 総合資源エネルギー調査会総合部会 電力システム改革専門委員会(第2回)参考資料1-1 39-44頁(2012.03.06)
経産省 スマートメーター制度検討会 第11回配布資料8(2012.03.12)
Q「価格弾力性だけではなく、倫理観、もったいないという気持ちからの家庭での節電効果は、あるのか。」
A「価格によるインセンティブだけではなくて、節電に協力しようという呼びかけも、日本では効果があった。推定だが、東日本大震災の後では、おそらく10%以上、もったいないので節電しようという気持ちから電力需要が落ちている。研究者との雑談ではあるが、こんなことはイタリアでは起こらないという。しかも、直接震災の影響を受けなかった地域の人たちも、自発的な節電に協力している。ご指摘は非常に正しいと思うし、私もそういう意識を持っている。アンケートなどの形で、需要のデータと意識をつなげて検証する方法があるのではないかと思う。今後、研究者からの論文が出てくることを期待したい」
Q「こうした国内の実証実験のための共同体を作るコーディネーションは、行政もやっているのか。そして、トータルとしてのコストは、安くなったのか高くなったのか。」
A「今回『経産省の引用』と断った事例以外は、すべて電力会社の協力を得ており、行政のかかわりは全くない。ダイナミックプライシングについては、経産省の次世代エネルギー・社会システム協議会、スマートメーター制度検討会などが資料を作っている。一般に、国の委員会が音頭をとって、メーカや学者が参加して作業が行われる。過去においては、需給のひっ迫があまり無かったことから、行政指導での研究などが行われた。アメリカの事例としては、石油危機の後に科研費が、こうしたエネルギーの実証研究に重点配分されて大規模な研究が行われた。二つ目のご質問については、全体の電気料金に大きな変化が生じないように設計するのが、デマンドレスポンスの大原則である。しかし、今後いろんな種類のプログラムが増えてくると、コストも含めてその結果は分からない。正に、これが課題になると思われる。」
Q「実証実験で、有益だという結論が期待できる家庭数(クリティカルマス)は、どのくらいと予想されるのか。」
A「けいはんな学園都市で行われた実証実験の公表資料では、千戸弱で行って一定の効果が確認できた。(新しい料金を適用される人とされない人を、取り混ぜての実証実験が行われた。)この他の実証実験でも、その規模は千戸程度ではないか。」

  最後に、「エネルギーシステムインテグレーション - エネマネによる需給調整の課題解決を超えて」と題して、荻本和彦氏(東京大学、エネルギー工学連携研究センター特任教授)による講演が行われた。「エネマネ」は、エネルギーマネジメントの略である。氏は、J-POWER(電源開発株式会社)から、数年前に現職に転じられた。氏の用意された講演の予稿は、パワーポイント55枚にも及び、ほぼ全ての頁に、びっしりと細かな図表が描かれていた。
  氏は、先ず、日本の2030年のエネルギー需給、そして、2050年の需給に関して、一次エネルギーの供給量の試算表を示して見せた。その頁に続いて、原発についての4つのシナリオを前提とした、いくつかの図表が示された。その4つのシナリオとは、(1)原発が震災前の増設計画通りに開発された場合、(2)原発の開発計画は遅れるが継続された場合、(3)原発の開発を中止して運転再開後40年で原発を順次廃止する場合、(4)運転再開後5年で廃炉にする場合、の4つである。それぞれのシナリオに対して、石炭、石油、天然ガス、水力、太陽光、風力などが、電力の安定供給のためにどのような割合で必要とされるのか、そのコストはどのくらいか、を予想した詳細な図表が続けて示された。  ここで、(1)の増設計画というのは、鳩山内閣で 2030年までに14基増やすと決められていた計画のことを指している。福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、その計画は挫折した。しかし、今後の様々な選択肢のための、議論の前提になるであろう、ここで行われているようなエネルギー予測の解析作業には、膨大な時間と労力の掛かることが、氏の講演から容易に想像される。
  ところで、氏の説明の中で、これらの図表における前提条件の幾つかが明らかにされた。鳩山政権で原発の推進が決められた理由の一つは、エネルギーの自給率を考えた時に、中東で交通の途絶が起きて石油が半年間ばかり輸入できなくなった、などの事態でも、原子力があれば安定供給ができると考えられた為であった。新興国のエネルギー需要増などによる化石燃料資源の高騰なども、予想された。その前提から(CO2削減の必要もあって)火力発電所への新規の設備投資が抑えられることになった。発電効率が30%程度と悪く、燃料費が高騰した場合には、経済性にも劣ると判断されたためである。このために、福島原発の5000万kWが急にゼロになった大震災による事故の後で、特に都内では「太陽光発電と風力がその穴を今後埋められるのか、いや無理である」(だから、原発の再稼働が必要である)という議論が行われてきた。事実、太陽光の発電能力は、昼と夜とでは発電量に大きな差が開く。更に、曇りの日が続いた場合などには、投資の抑制された将来の火力発電所では、やがて需給の調整能力が無くなることも明らかである。氏は、トータルな発電量が、議論の前提になるということを強調された。 理想的には、将来、高性能の蓄電池が開発された場合には、自宅や地域で作られた自然エネルギーを電気自動車の蓄電池に溜めて各家庭で消費することなどによって、かなりの需給調整の問題(ピーク時のエアコンの使用など)が解決できる。しかし、この案では、直近の状況の解決策には、ならない。
  そこで、氏は、集中(大規模発電所)と分散(再生可能)エネルギーの双方を協調させてマネジメントする方法を、一つの望ましい解として提案された。各家庭にあるスマートメーターが「エネマネ装置」の機能を持ち、気象庁からの日照時間のデータや電力会社からの電力価格の変動データ、その地域の電圧・周波数などを、その装置が直接外部から受け取って、自から判断し、家庭内のエアコン、給湯器、蓄電池、電気自動車などへの電力の配分量と送電時刻を決定する。このようにして、電力料金を最小化するようにスケジューリングを行うことにより、家庭単位の省エネが期待できるという発想である。一方、その家庭が所在している各地域単位のEMSでは、各家庭における電力消費パターンをとりまとめて、一括して電力会社に報告する。電力会社は、気象庁のデータと地域EMSからの需要予測を受け取って、発電所の(翌日の)運転計画を立てる。このような家庭が1万戸単位で増えてゆけば、需給が仮に相当きびしくなった将来でも、かなり乗り切れるのではないかという。氏は、個人的には、と断ってだが、スマートメーターに求められている様々な機能のうちで「エネマネ装置」としての役割が一番重要ではないか、と結論付けた。
  その「エネマネ装置」の役割のポイントは「どこまで太陽光や風力による発電を使い尽くせるか」という需給調整力の改善である。そう氏は解説した。従って、現在は夜の11時に自動的に動き始めている給湯器が、仮に昼間の電力が安ければ昼間も使えるというようになっていれば、都内全体で1000万kWくらいの需給調整ができるかもしれないそうだ。電気自動車についても、充電時刻の調整のみと言う厳しい条件での試算だが、同じく、1000万kWくらいの調整ができるかもしれないという。もちろん、(経済成長も見込んで)1億kWの電力をどうしようかということが全体の議論なのではあるが、その10%の調整能力と言うのは非常に重要であると、氏は指摘した。現在、500万戸にそうした給湯器があると仮定した場合の試算を行っているのだという。
  重要なことは、一つの選択肢にしがみ付く事ではなくて、集中と分散のエネルギーをどう組み合わせるかではないか、と氏は述べた。「最適化」と言う言葉があるが、家一軒の最適化なのか、地域EMSの最適化なのか、電力会社全体の最適化なのか。それを考えると、あまり「最適化」を突き詰めると、どこかに無理の出てくる可能性もあるのだという。最適化によって、例えば、その地域にどういう付加価値があるかを考える方が大切ではないか、と氏は指摘した。
  更に、太陽光や風力で、どれだけの発電が実際にできるかによっても、価格の予想が大きく違ってしまうという。発電量の予測が当たらないと、電力不足への余力の準備が必要になるので、トータルでの費用が、かさんでしまう。発電予測の精度によっては、将来の姿が大きく違ってしまうという事をご理解頂きたいと、氏は協調した。 最後に、国家戦略室の需給検証委員会(当時)についても、一言触れられた。氏は、当委員会の委員である。この委員会についての報道では、電力が足りるかどうかと言う内容ばかりが先行していたが、実際の問題は、燃料代にあるのだという。また、コストばかりではなく資源量も重要である、と氏は指摘した。福島原発が停止したことで、年間1兆円の燃料代が余分に掛かることになった。今後のエネルギー政策によって、更にどこまでの負担増を需要者が合意するかについても、需要者の側からのこの議論への参加が求められるという。なお、需給検証委員会でも、「エネマネ」「ダイナミックプライシング」などの仕組みについての議論が始まっていたという。同様の議論は、安倍政権でも続けられて行くことになるのだろう。
Q「火力発電所の熱効率は30%位だと思うので、65% 以上のエネルギーを大気中に捨てている事になる。ところで、石油危機のころに世界の発電所について調べていて、モスクワで85%という数字を見つけて驚嘆したことがあった。これは、火力発電の冷却水を水道と組み合わせて、廃棄する熱で水道水を温度20度に温めるシステムだった。特に、東北の豪雪地帯などで、こういった方式は使えないのか。また、札幌の融雪費も各家庭で1万円位掛かっているのだが。」
A「発電をカロリーで見ると、正にその通りだと思われる。実は、(先ほど、その説明を省いてしまったのだが)発電量の選択肢の中に15%、コジェネレーションによるエネルギーを見込んで図が描かれている。個人的には多すぎる気もする数字だが、方向性としてはそうなって行くと思う。ただ、全てのエネルギーが仕事に使われるかという観点から測ると、85%という数字は成り立たないと思う。トータルで考えなくてはいけない。」
Q「コジェネレーション以前に、行政の問題で、例えば、水道と地域の発電所の立地を一緒にすれば可能なのではないか。新潟電力は 400万kWの排熱で、信濃川を無駄に温めている。原発では水温が2度上がって、排熱による公害だと騒がれた。また、これから老人が多くなるのに、余った熱を融雪に使えれば、多くの人が恩恵を受けるはずだ。」
A「ご質問の意味を誤解していた。ご指摘の通り、行政の判断で、やれることはあると思う。」(注5)

(注5)この質問は、おそらく資料の次の頁についての説明が行われなかったことから生じたと思われる。萩本氏の資料には、「原子力や石炭火力、天然ガス火力などは経済性には優れているが、その特性を最大限に発揮するためには、ベース電源として一定出力の運転を行うことが望ましい」と書かれた頁があった。その頁の表題は、「再生可能エネルギー導入だけではない需給調整の課題」である。この頁に、一つの選択肢として注目されているガス・コンバインドサイクル発電の写真が掲載されていた。これは、排熱を利用して、もう一回タービンエンジンによる発電をやってしまおう、という方式である。熱効率が、60%を超える場合もある。更に、排熱を暖房などに使用するコジェネレーションのシステム(欧州では広く行われ、1893年のドイツが嚆矢とされる)が実現できれば、80%以上の効率が可能であるのだが、これは日本では電力の地域独占販売が災いして普及が遅れていると言われている。

  続いて、<総合討論>が、藤田氏の司会で行われた。初めに、松川氏と荻本氏が補論を述べた。
松川氏「デマンドレスポンスについては、他の人と話していてイメージが共有できていないと感じることが良くあります。それが正に、今開発中のシステムだからです。イメージが共有されていないので、何%節電できたという数字を単純に比較することができない。おそらく、ピーク値を抑えるという目標は一緒でも、手段が多様なのでイメージの違いが起きるのでしょう。しかし、そこが研究のしどころなので、ビジネス・公共部門を含めて、皆が考えて行かなければいけないと思う。ところで、私は経済の専門家ですから、価格の方ばかりを重点的に申し上げた。ご質問にもあったが、機器や情報だけでは無く、意識の問題がもっと重要である。人間の満足や生産活動をふまえて、意識まで踏み込んで節電という数字に結びつける必要があると思われます。」
荻本氏「駒場リサーチキャンパスの中に、新築一戸建てのスマートハウス『コマハウス』(COMfort MAnagementハウス)というのを、生産技術研究所とLIXILの共同実証実験住宅として建てて頂きました。まだエネマネ装置はなく、ネットワークと家電のみが入って準備中です。私自身は電力会社にいて電気屋で、電気の制御がしたいのですが、省エネするにしても、エアコンを効率的に使うよりも、エネマネ装置が『窓をあけたほうが良いんじゃないですか』と教えてくれる方が嬉しい。松川先生と同じ話になりますが、使っていて省エネもできて、うれしいと喜ばれる HEMSが、日本の、かゆいところに手の届く技術で開発できないかと考えています。」

司会「さて、今日の4つの講演には、共通項がありました。目指すべき方向は、ばらばらでは無いと感じられます。学術サイド、技術サイドが同じ問題意識で研究をして行けたら望ましい。 ところで、事前に書いて頂いた質問の一つは、技術の相互関係についてのものでした。質問者の方から、直接、インタラクティブなご質問をお願いしたいと思います。」

Q「どれも、大変重要な研究についてご報告を頂いたと思う。ところで、電気自動車の蓄電池などは、できるとできないとでは結果が違ってきて、理想的な技術が実現した場合には、他の技術が要らなくなる可能性もあると思う。このような、開発技術の相互関係といったものは、どなたか考えておられるのでしょうか。」
A「理想的な蓄電池が仮にあれば、ここ20年位に生じるであろう問題は、そこそこ、解決がつくと思います。ただし、備蓄についての対応はできないですが。ところが、そんなに都合よく技術開発は期待できないだろう。そうすると、どうすれば良いのでしょう。
  本日の講演の例で言えば、蓄電池に対しては充電する時刻だけが変化できると考えてみたい。それから、再生可能エネルギーがどのくらい入って来るのかを考えます。太陽光発電は、人のいる所で発電するので比較的予想が立ちやすい。風力は、風の吹くところに偏って作ってしまうと、例えば必要数の半分を全て北海道に置いたりすると、北海道は大変なことになる。全体で、どういうことが起きるのかということでニーズが決まって来て、それに対して、どういう対策がどのくらいのコストで立てられるのかという予測が必要になります。それを、20年分くらい時間軸上に展開して行く。これを仮置きする。それを、例えば手前の5年分くらいを手がけてゆく。というように、そういうことを繰り返し行なって行くことが重要ではないか。私は、そう考えています。」
A「古典的な経済学者としては、物とかサービスは相互に代替されるものであると考えました。機械Aも機械Bも、人間によるサービスも、等価に置いて組み合わせて精査をする。その際に、実現するかどうかの可能性を別にすると、要は、生産高が一番大きくなるような組み合わせを考えればいい。コストも当然大事です。昔は人間という労働力が安かったから、機械はなるべく使わずに、人力でやっていた。今は全く逆で、人間の労働コストが高いから、機械をなるべく使う。そのような単純な経済学の選び方であれば、需要のあるところで、発電をするんだったら、送電網はいらないよね。優秀な蓄電池があれば、送電網はいらないよね、という考え方もあるかも知れない。しかし、そういう事は当面は絶対にあり得ない。分散型電源を効果的に配置する場合にしても、各地で同時性を考えた上で、融通しあうようなシステムが必要です。それで、送電網や配電網が、やはり必要になるのだろう。つまり、これは私見ですが、代替(Substitution)という昔の経済学者が考えた単純なモデルではなくて、補完(Complementarity)をうまく行うことが必要ではないのか。同じようなことで、今後、再生可能エネルギーが、いくら大事だと言っても、太陽光ばかり風力ばかりでものが済むわけがない。100年後は、あるかも知れないが。従って今は、原発をどうするかという個別の話ではなくて、全体的に組み合わせる中で、考えることが必要です。太陽光があるんだったら、石油は全部すててしまおう、ということでは無いと思う。補完が必要であると、私は思っています。」

司会「次の質問。エネマネされる場合のコミュニティはどんなイメージか。どうぞ直接、お尋ね下さい。」

Q「これまでの議論では、コミュニティを定義したほうが良い場合があると感じた。最少単位の家庭とかビルであれば、利害関係の一致したステークホルダーがいるので、電力の最適化ができると思うが、地域ではどうなのか。いわゆる地方自治云々を含めて、例えば横浜市でのEMSなどの広域の場合、お金を払ってくれる受益者の組み合わせが想定できていないと、一般論のままでは、具体的に話を詰めていけないのではないでしょうか。」
司会「HEMSやBEMSは、確かにリミットがはっきりしています。しかし、CEMSと言った瞬間に、ぼやける気がする。デマンドレスポンスについて、何軒くらいで考えれば良いかも含めて、いかがでしょう。」
A「今まではどうしても実験と言うことで、小規模ごとの調査を繰り返していました。コスト、時間についての制約があり、コミュニティの実現ができていない。デマンドレスポンスのコミュニティについては、福岡県前原市地区での事例をお話します。前原市の中の一戸建ての世帯が集まっている地域で、集合住宅が余り無い所を選んだ。レスポンスが、平均的にそこでは、こうだったという調査を行いました。先ほども述べましたが、けいはんな学園都市で、1000戸弱。限られた地域での計測なので、最適化の議論をするには、まだ遠い規模だと思います。また、節電をこのコミュニティでやろうとか、10% 削減しようという目的ができたとして、実施範囲が、500軒1000軒というのであれば、とても市町村のレベルにならない。仮に投票システムなどで住民の合意を得たとしても、実際に実施するとなると、いろんな痛みやコストも生じる。反対意見が出たり、やっぱりいやだ、病人がいる、幼児がいるといった場合もあるでしょう。コミュニティをどう定義するかというのは、デマンドレスポンスを考える時には、難しい。正に、課題であると思います。」
A「いつも、答えに窮する所です。電力システムの需給だけから言えば、コミュニティに限る必要は、まったく無い。地域コミュニティで、電力の地産地消をしたほうが良い、といった話はあるが、電線がちゃんと繋がっていて、かつ、技術的な制約が無ければ、なるべく広いエリアでバランスを取ってやったほうが、全体がならされるし、色んな資源も有効に使えるはずです。すると、コミュニティに限る必要はない訳です。ただし、別の側面を考えると、電力需要についてはそれで良いけれど、街として上手く運営されるかどうか。トラブルのあった時には、全部は、まかなえなくても、例えば、普段の3分の1、4分の1に電力を制限して街全体が生き残るとか、交通システムを組み合わせるとか・・・。そういう話が出てくれば、ある地域でマネジメントする価値が出てくるように思います。今の話を別の角度から考えてみると、普段は、コミュニティを地縁であると考えています。しかし、BEMSの対象になっているのが、例えば、チェーン店の電力管理であったりしています。これは、地縁ではない。そういうクラスタリングがあるという事も一つのヒントになると思います。また、ビル一棟というのは、はっきりしているようにも見えるが、雑居ビルは例外です。導入補助事業で、中小ビルを対象にした予算が設定されましたが、チェーン店には入り易かったのだけれど、複数のテナントが入っている雑居ビルには、ほとんど入ることができなかった。どういう解で受益が出るのかを、考えなくてはいけないと思います。」

司会「CRESTを始めた事から強く思うようにもなったのですが、エネマネをしようと言った時に、誰がステークホルダーなのかが良く分からない。電源開発のような企業の方もいる。学術界の方もいる。学術界も、電気学会がある。計測自動制御学会がある。情報処理学会がある。正にビッグデータの時代で、中心を求めることがもう無理なのではないか。この人が 4番バッターで、エース。この人がホームランを打てば、すべてが解決する、という見方ができなくなっている。コミュニティのサイズの定量化も、そういう感じではないのでしょうか。そういう事を、日本中が困っているときに(周りから)一番やっていそうに見えるのが、システム科学の人たちと、私も含めて横幹の人たちだと思います。こうして講演を聞くこと以上に、発言をして行く時代ではないかとも思っています。ところで、時間が押しておりますので、次が最後の質問です。」

Q「先ほど、大学の研究者としてはここまでが限界、後は行政に任せるしかない、という趣旨のご発言がありました。横幹連合の皆さんの中には、政府の委員を務めたり、学術会議に関係されている方もいて、現行の制度の限界を感じる立場におられるのではないでしょうか。予算のつけ方や、実行する人材の選択、実行組織について、ブレークスルーが必要だと思っておられませんか。私は、ISO9000の審査員をしていますが、経産省や学術会議を問題解決のためのマネジメントシステムだと考えてみると、これは日本全体のマネジメントの問題であるようにも思う。自分の責任範囲を超えているからと、そこで発言を止めるのではなく、横幹連合としてどう問題をブレークスルーできるのかについて聞かせて頂けますか。」
司会「確かに、学術面、技術面、行政面について、その目的とするところが異なっています。行政面一つを取っても、経済産業省・文部科学省・環境省・総務省・国土交通省と、その立場は異なっています。ご質問者の仰るように、そこに、横幹連合として大上段にアピールして横串を通すことも、そろそろ必要なのではないか。もちろん、こうした技術セミナーを開くことも大切なことではあるのですが・・・。このお答えは、講師の方々よりも、安岡先生からお願いしたいと思います。」

<閉会のあいさつ> (最後の質問への回答を含めて、安岡善文 横幹連合副会長が閉会のあいさつを行い、会を締めくくった。)

  では、ご質問のお答えを含めて、閉会のご挨拶を述べさせて頂きます。本日講演をお願いした皆様は、私が知る限り、現在最高のメンバーです。そのお話が伺えました。本当に有難うございました。先週、横幹協議会の桑原会長とお話しする機会がありました。会長も、こう仰っていました。「横幹型科学というのが重要であることは、何年も前から分かっていた。それで、横幹連合を作り、横幹協議会を作ったけれども、この考え方を広めて行くことは、実際には、なかなか難しい。それでは、何をしなければいけないのか。技術フォーラムに関しては、これは、非常に良い。色んな意味で、引き出しを増やす機会だ。それを、これからどうまとめて行くかが課題だろう」と。おそらく、皆様も同じ気持ちでおられる事と思います。
  そこで、ここでは最近の動きからお話します。藤田先生が講演の中で紹介されましたが、7月5日の国家戦略会議で、国としてやらなくてはいけないことが話し合われました。要素技術から、最後に技術をまとめるところまで。どれも、システム化、パッケージ化することが必要である。実は、昨年の暮れに文科省と経産省が、エネルギー環境に関しての合同の委員会を作っています。合同で委員会を作ったのは、初めてです。もう 4回も会議があって、私も出席していますが、今度 5回目が開かれます。これは、産業界だけでは問題解決ができない。科学技術庁を担当している文部科学省だけでも、問題が解決しない。これからのエネルギー問題を考える上では、両省が合同でやらなければいけない。第1回の会議に局長が出て来られて、ものすごく熱く語った。これはやっぱり、日本が動いているのだ。そう思いました。このときにも、要素技術の基礎から、応用に至るまで全部が必要で、全体をシステム化してパッケージ化する。それを、日本から世界に売って行くんだ! 非常に重要な、そういう議論が行われた。委員は、産業界からが半分、学会が半分です。学会のメンバーも、私のような宇宙からの地球観測をやっている人間もいれば、ばりばりの太陽光発電の機構の先生もおられる。何でこういう人たちがつながるかというと、藤田先生が今日一番初めに言われたように、エネルギーマネジメントをやるには、長期的な気候変動や短期的な気象予測までの基礎になるデータが無いとだめだ。これがいま、様々に具体化しようとしています。
  学術会議でも、震災を受けて、スピードアップした活動が始まっています。2012年の3月に、報告書を首相に提出しました。ここでは、まちづくり、産業振興、放射線対策の3つについての分科会を作って、皆が倒れるほどに議論をして報告書を作りました。新年度になって、つい先月、それを補完・継続するために、更に3つの分科会が新設された。その一つが、エネルギー供給問題検討分科会(北澤宏一委員長)です。エネルギー政策のうち電力供給力に焦点を置いて、再生可能エネルギーを核にした地域社会のあり方について考察して提言を行います。ここでも、一つの学問分野じゃだめだ、ということが、共通の認識になっています。学術会議も、第3部会では、人文系から理学工学系まで全部つながっているのですが、ここが総力を挙げてやらないとだめだ。以上、3つの動きがありました。国家戦略会議、文科・経産省の合同委員会、学術会議ですね。
  こうした潮流を見ていますと、大きな流れが二つある。一つは、横につなぐ。ややシステム的な話です。一つの学問体系ではできない。もう一つは、変動ということ。これまでのエネルギー政策というのは、安定化を図るために、固定化してきた。できるだけ一か所に、制度的にも安定したものを作ろう、と。しかし、それでやってきて、それが破たんした。それで、いきなり変動の世界に移ってきた。変動が起こり始めると、何をしなくてはいけないのか。先ず、変動を測る。それから、変動の原因をモデル化する。最後に、変動を制御しなくてはいけない。最適化も必要である。こういうことも全部やるには、ステークホルダーが多すぎる。それを全部まとめるために、横につながろうという話が出て来た。
  いろんな、これまでは別々にやっていた人たちが集まって、知恵を出しあわないと、もう間に合わない。その一つの仕組みが横幹連合、横幹協議会だ、という風に思っています。役割は更に大きくなっています。
  今から10数年前に、横幹連合は発足しました。私も最初から参加していますが、横幹連合というのは、これからの学問を横につないで行くためには、どうしたら良いのか、という事で作り始めた。吉川弘之先生たちが、最初に考え方の基礎を示された。正直を言うと、いろいろな壁にぶつかっています。いろんな壁があります。際(きわ)を越えなくてはいけない。土俵際、瀬戸際・・・、「きわ」は、元々越えられないという意味です。際を超えると、世界が変わる。際は、越えたらもうだめだ、という意味でした。しかし、我々は、最近これを「さい」と呼んで乗り越えようとしています。国際、商際、学際、越えなければいけないものを、際と呼んでいます。横幹連合もその一つの仕組みです。もちろん、他にもいろんな活動がありますが、我々は学際を、歯を食いしばってやっていかないと、もう本当に沈没するかもしれない。そういった時代に来ている。横幹協議会と横幹連合が手に手をたずさえ、フォーラムをやってきた。今日は、第35回です。小さい努力ではありますが、横につなぐための一つの石になっている。
  そして、我々が、こうした小さな努力を続けていることが、現在の大きな潮流につながっているのです。その事をご理解頂いて、この流れを、皆で一緒につないで行きたい。そう考えている次第です。本日は、どうも有難うございました。(拍手)

【編集室後記】安岡善文横幹連合副会長の「横幹的アプローチの提案:データから情報、インテリジェンス、さらに戦略、施策へ」 が最近のニュースレターに掲載されております。是非ご参照下さい。

(文責編集室)   



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