■横幹連合 ニュースレター編集室■ 武田博直室長(セガ、日本バーチャルリアリティ学会) 大倉典子委員(芝浦工業大学、日本バーチャルリアリティ学会) 高橋正人委員(情報通信研究機構、計測自動制御学会) 【協力】 横幹連合事業・広報・出版委員会広報WG |
横幹連合ニュースレター
<<目次>> No.006, May 2006 |
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巻頭メッセージ |
活動紹介 |
参加学会の横顔 |
「私の技術者人生と 横断型科学技術」 * 江尻正員 横幹連合 副会長 |
【参加レポート】 ◆第10回横幹技術フォーラム 「感性工学が拓く新時代の商品」 ◆第11回横幹技術フォーラム 「安全安心システム実現への挑戦」 |
【横幹連合に参加している 学会をご紹介するコーナー】 ◆日本バイオフィードバック学会 |
イベント紹介 |
ご意見はこちらへ |
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◆第1回横幹連合 総合シンポジウムの 開催日程が決まりました! ◆第12回横幹技術フォーラム(企画中) ◆これまでのイベント開催記録 |
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巻頭メッセージ
「私の技術者人生と横断型科学技術」
横幹連合 副会長 江尻 正員
(産業技術コンサルタント、元 日立中央研究所)
私的なことでニュースレターの巻頭を汚すようだがお許しいただきたい。実は私には、聞かれると返答に窮する質問がある。「あなたの専門は何か?」である。これに類する質問が今回の執筆にあたり編集者から寄せられたのである。専門は出身学科から言うと「機械工学」であり、その中でも主流の「流体工学」の筈であった。ところがこの分野、少し古臭い印象もあったし、偉い先生もたくさんおられた。その中で頭角を現わすのは大変だし、きっともっと面白い分野がある筈だ。そういう不純な理由で、まだ黎明期にあった「自動制御」に転身した。企業への就職直後のこの軽さが、その後の私の命運を決定付けることになった。まっすぐ前にではなく、好んで縦横ジグザグの道を歩み始めたのである。当時、日本にはまだなかった実験用原子炉の建設に向け、その制御装置の開発や、のちに「ロボティクス」の源流ともなったサーボマニピュレータなどを手掛けた。
これらの研究の中心は今で言う「メカトロニクス」であって、そこには常に「位置検出」という課題があった。そして、やがて生じた産業オートメーションの機運で、必然的に半導体の自動組立という位置検出の難題に出会うことになった。人間が顕微鏡下で行う作業を機械に置き換えようと、人間の目に代わる光学式の自動位置検出装置を試作したがうまく行かず、いとも簡単に作業をこなす人間の目の機能の不思議さに心を打たれた。そこで米国に留学して「生体工学」を勉強し、猫の目を使って視覚の研究を行った。帰国後、計算機にTVカメラをつなぎ、初めて視覚を持った人工知能ロボットを作り、「画像処理」、「パターン認識」の分野を開拓した。そして「位置検出」を「位置認識」へと高め、懸案の半導体組立に再挑戦し、今度は成功させた。最初の失敗から10年が経過していたが、それでも幸いに世界最初となり、成果は瞬く間に世界に広がった。
その後も視覚情報処理を中心に「ロボティクス」技術を磨き、多種多彩なシステム・装置を開発した。生産自動化、オフィス自動化に加え、社会の自動化も主たる戦場になった。このころからは自ら手を下す場面は少なくなり、もっぱら研究リーダとしての活動となった。「必殺仕掛け人」を自称し、要請があればどんな分野の難題にも挑戦することを標榜した。その結果とうとう自分の専門がわからなくなった。
そして、波瀾万丈の技術者人生に一応の幕を下ろし、ここ数年は、過去の経験を生かしつつ横断型科学技術推進の「必殺仕掛け人」を目指して活動してきた。横断型科学技術の研究者に必要な資質は、理想的には、各分野にまたがる広範な知識を持つことであろうが、それは不可能に等しい。むしろ、ある課題に出会ったとき、その課題を解くためにはどういう知識が必要かをすばやく察知する感性が重要である。そして必要とされる知識を早急に自分のものにしようと努力する才能もまた重要であろう。自分の専門すら明確には返答できず、横断型と呼ぶにはまだはばかられる私のジグザグ技術者人生45年の結論である。いずれはやってくる「横幹全盛の時代」を、いかにして感性を衰えさせずに迎えられるかが、今の私の最大の関心事となっている。