横幹連合ニュースレター
No.011, Oct. 2007
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
異分野融合-共鳴と破壊
木村忠正 横幹連合監事
電気通信大学
■活動紹介■
【参加レポート】
●第16回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔■
●日本バーチャルリアリティ学会
■イベント紹介■
●第2回横幹連合コンファレンス
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
No.011 Oct 2007
◆活動紹介
●
【参加レポート】
第16回横幹技術フォーラム
「知の統合と横幹技術は産業活性化にどのように活かせるか
-日本のイノベーション力強化策を探る-」(9月4日)
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第16回横幹技術フォーラム
テーマ:「知の統合と横幹技術は産業活性化にどのように活かせるか
-日本のイノベーション力強化策を探る-」
日時:2007年9月4日
会場:キャンパス・イノベーションセンター 国際会議場(東京・田町)
主催:横幹技術協議会、横幹連合
プログラム詳細のページはこちら
【参加レポート】
中西敬一郎氏(株式会社日立製作所
技術戦略室統括主幹)
9月4日に行われた、第16回横幹技術フォーラムの内容を報告いたします。
今回は「イノベーション力の強化」に関して横幹連合と横幹技術協議会が対話を行うということで、非常に興味を持って参加いたしました。
最初の講演は、黒川清先生(内閣特別顧問、政策研究大学院)の「イノベーション25戦略の概要と今後の作戦」でした。本講演は、今回のフォーラムのキーノート的位置付けを持ち、イノベーションを推進して行くにあたっての日本の強みと課題を分かりやすく説明されました。
まず、「イノベーションこそが一国の国際競争力の源泉であり、豊かな将来を約束する」という世界的な認識(注)に基づいて、科学技術への投資、「人財」(人材)への投資(育成)を行い、起業家精神の醸成を図り、「強み」を伸ばし「弱み」を認識することにより、持続可能な社会を実現してゆくことが課題である、と指摘をされました。
具体的な内容に触れると、日本の「強み」を伸ばすためには、世界の一流大学が海外からの優秀な留学生を受け入れて人材育成の国際貢献を行い、人材ネットワークのハブになっているように、日本の大学も、日本人、留学生を問わず優秀な人材を育成して日本への国際的な期待に応えることが重要である、との指摘がありました。また、国内の人材だけでは解決のできない「弱み」を克服するためには、日本の大学が海外からの優秀な留学生を大勢受け入れて、彼らと一緒に問題を解決する「国際村」に進化できるよう、日本の大学の国際的なブランド価値を高めることが重要だと、強く訴えておられました。
講演の最後にも強調されていましたが、世界中どことでも会話できる「人財」の育成が基本であり、そこに立ち戻って始めなければ日本再生の道はないという言葉に、強い感銘を受けました。日本の政治と産業が構造的に抱えている要因を的確に示され、学ぶべきことの大変多いご講演でした。
次の講演は、木村英紀先生(横幹連合副会長、理化学研究所)の「『知の統合-社会のための科学技術に向けて-』と社会・経済価値創造への展開」でした。イノベーション力の強化のためには、新しい学術の体系が必要になると提案され、その実現に向けての基本的な考え方を示されました。先の黒川先生のご発言にもありますように、教育改革はイノベーションの実現に向けて非常に大きな役割を担っていると思いますが、そのためにはまず木村先生が提案されたような新しい学術の枠組みの検討が大切になると感じました。暗黙知、形式知に加えて、標準知を科学技術の知の形態のひとつとして位置づけられるなどの重要なご研究で、学術の枠組みの検討が更なる進化を遂げることが期待されます。また、その新しい学術の体系に基づき、現行の教育システムの改革が展開されるならば、それは産業界にとっても大変ありがたいことであると感じました。
三番目の講演は、出口光一郎先生(横幹連合理事、東北大学)の「『イノベーション戦略に係る知の融合調査』報告と産業活性化への展開」でした。平成18年度の内閣府科学技術総合研究委託にて進められた研究で、産業界におけるイノベーション実現に関し知の融合がどのように寄与したかという点を、実際の企業活動に入り込んで採取された多数の聞き取り調査に基づき詳細に分析されたものです。今回、知の融合が具体的に寄与したケースとして、①高い資質を持つリーダが具体的な目標設定を行うこと、②異分野間での効率的なコミュニケーションが可能になるツールを持っていること、③各分野が背景に持っている高度な要素技術を積極的に展開していること、などが紹介されていましたが、貴重なご指摘だと思いました。もし更なる分析が可能であれば、企業内の活動の実際と現在の横幹連合の活動とのマッチ・アンマッチの状況が可視化・定量化されれば、大変有用なデータとなるのではないかと思います。もちろん、アンマッチが悪いということではなく、横幹技術の活動として変えてはいけないものと変えていくべきものについての議論が重要であり、そのような議論の中から、産業界との真剣な対話に結びつくものが生まれてくるように思いました。
最後は、横幹技術協議会の柘植綾夫先生(横幹技術協議会副会長、三菱重工)がモデレータとなり、パネリストとしての上記3名の先生方に加えて、コメンテータとして協議会から、岩橋良雄先生(新日鉄ソリューション)、中村道治先生(横幹技術協議会理事、日立製作所)が参加されてパネル討論会が行われました。フォーラムの主題である「知の統合と横幹技術は産業活性化にどのように生かせるか -日本のイノベーション強化策を探る-」について幅広い議論が行なわれました。このパネル討論会では、残念なことに横幹技術(知の統合)に対する横幹連合の学術的な取り組みと、横幹技術協議会の期待するイノベーション創出に向けての実践的な活用の間には、まだ大きな開き(谷間)があるということがわかりました。
新しい学術の体系を教育の改革として実践的に展開し、また産業界における実例の分析を横幹連合の活動に具体的にフィードバックしてゆくためには、横幹技術に対する互いの期待と役割を一層明確にしていくことが重要でしょう。そのためにも、是非今回のフォーラムのような対話が今後も続いて欲しいと思いました。また、産業界の立場からは、さまざまな機会を活用して横幹技術への期待をさらに分かりやすく、引き続いて発信して行くことが重要であると感じました。
以上
(注)“Innovation Power almost equals National Competitiveness.”という認識は、EUの「リスボン戦略」(2000年)における「knowledge-based economy」や、バルサミーノIBM会長を中心にまとめられた米国競争力評議会の「イノベート・アメリカ」(04年)を通して世界の共通認識になりつつあるという。日本でも、政府の長期戦略指針として「イノベーション25」がイノベーション25戦略会議(座長黒川清氏)によりまとめられ、戦略的に重要な内容であることから、平成19年6月1日に閣議決定された。 是非、ご一覧いただきたい。 http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/index.html (注釈文責:編集室)
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