横幹連合ニュースレター
No.021, Apr 2010
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
課題解決の舞台に立つ横幹連合
舩橋誠壽
横幹連合理事
横幹連合/(株)日立製作所
■活動紹介■
●第24回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔■
●行動経済学会
■イベント紹介■
●第24回横幹技術フォーラム
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
No.021 Apr 2010
◆活動紹介
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【活動紹介】
第24回横幹技術フォーラム
テーマ:「21世紀のモノづくり革新をめざして」
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第24回横幹技術フォーラム
テーマ:「21世紀のモノづくり革新をめざして」
日時:2010年1月29日
会場:文京シビックセンター
主催:横幹技術協議会、横幹連合
プログラム詳細のページはこちら
【活動紹介】
澤田一哉(パナソニック電工(株)先行技術開発研究所技監)
第24回横幹技術フォーラム「21世紀のモノづくり革新をめざして」が、1月29日(金)文京区春日の文京シビックセンターで行われた。世界金融危機の中で実体経済の落ち込みが目立った日本のモノづくり技術が、今後生き延びるために進むべき方向については、十分な議論が必要である。このような背景のもとに、製造業の「グローバル環境下」でのモノづくり、品質・信頼性からのモノづくり、人と環境にやさしいモノづくりに関連した講演と、今後の革新技術についての講演が行われた。私、澤田が、総合司会を務めたので、その立場から報告させていただきたい。
最初に、桑原洋横幹技術協議会会長が、日本製品の優秀さは「信頼性」や「材料や部品の優秀さ」に由来すること、モノづくりには「ユーザの視点」が不可欠であること、今後は「産業寄りの基礎研究」が必要であること、などを開会の挨拶の中で強調された。
さて、講演に入って、荒井栄司氏(大阪大学工学研究科教授、マテリアル生産科学専攻)は、「グローバル環境化におけるモノづくり革新」と題して、現在のグローバル環境(地域に合った製品を全世界で作る必要がある状況)を理解できる人材や、過去の弱点・失敗を理解して対処の出来る人材を育成できるシステムを構築することが必要であることを強調された。そこで、現状の製造プロセス・設計支援システム(CAD CAM CAE)の失敗事例(部品の用途の間違いや、機能統合における部品間の関係が変更されるような設計変更時に、それらを警告する機能がなかったなど)を事例として挙げ、これらに関する要素技術の確立が必要であり、このような「グローバル化」による落とし穴を理解できる人材育成が必要である、と結論付けた。
小畑外嗣氏(パナソニック電工(株)参与、生産技術研究所所長、常務執行役員など歴任)は、「21世紀も勝つモノづくり」と題した講演を行った。21世紀に入った企業をとりまく環境は急激な変化にさらされており、生産拠点と市場のグローバル化、新興国の急激な追い上げや、松下の家電ビジネスを支えてきた国内の「家庭」が少子化の影響で世帯主の半分がシングルになっているといった変化への対応を迫られている。こうした中で、海外との水平分業体制を計り、モノづくり力のアップ、高付加価値化に体質を転換し、企業のコア・コンピタンス(お家芸)を見据えた生産技術の革新が求められるようになった。そこで、特に商品の開発期間を従来の半分にすることを目指して、パナソニック電工では「金属光造形複合加工技術」を開発した。この方式においては従来避けられなかった弱点を克服することもでき、金型の製作期間を従来の3分の1に減らして、金型コストを従来の半分にできたことによって、この技術はモノづくり日本大賞・経済産業大臣賞(H19)などを受賞している。パナソニック電工は、工作機械や金型から利益を得るメーカではないことから、こうした技術をオープンにしている。このように生産システムを工夫し、将来を見据えた技術・技能教育によって企業体質を強くすることが必要で、資源の無い国日本の進むべき方向は「智力繁栄」、つまり智力が繁栄を実現する資産であることを強く訴えた。
中原俊憲氏(三菱自動車工業(株)、MiEV 商品生産化プロジェクト、プロジェクトマネージャー)は、「電気自動車の量産技術 -自動車におけるモノづくり技術の革新-」と題した講演を行った。先ず、今後の自動車の需要予測の中で、自動車を取り巻く情勢(地球温暖化・大気汚染・脱石油)からは排出ガスの減少が特に必要であることを指摘し、クルマ社会の次の100年の扉を開くパイオニアとして投入した電気自動車i-MiEV(アイ・ミーブ)についての技術の特徴と概要を詳しく述べた。さらに、三菱自動車の環境対応技術、電気自動車の量産技術(既存のラインに混流させて生産する技術)や、今後の展望(新しいモノづくりへの取組み)について講演された。
鈴木和幸氏(電気通信大学教授、日本品質管理学会会長)は、「品質と信頼性の観点から見たモノづくり革新」と題した講演を行った。先ず、優良メーカと、そうでないメーカとの大きな違いのひとつとして、「いかに故障を少なくするかという部分がしっかりと検討されているどうか」があることを指摘した。そして、経営トップが常にコミットして目的意識を現場に伝え、問題があれば現場に出向いて、製造コストの中で安全性を絶対に譲らないこと。さらに、部門・組織を超えて改善に協力し、問題が生じたときには問題をオープンにして透明性を確保し、失敗を共有財産にしてゆくこと、などの組織としての姿勢を強調した。そして、メーカ、ユーザ、社会・行政が三位一体となった「信頼性・安全性向上への活動」が必要であるとして、次世代品質の信頼性を作り込むための概念図「次世代品質信頼性情報システムQRIS」を提唱し、このシステムの監視メカニズムや具体的な検出方法などについて、詳しく解説された。
持丸正明氏(産業技術総合研究所、デジタルヒューマン研究センター、副センター長)は、「人間中心のモノづくり -デジタルヒューマン技術の 最先端-」と題し、ユーザの使用状況を計算機上の設計段階で再現し、ユーザの個人差を機能的に再現する「デジタルヒューマン技術」と、その最新成果について紹介された。これは、人間中心のモノづくりを支援するために開発された最先端の技術で、体型や全身の骨格構造についての膨大なデータベースが構築されつつあり、特徴的な瞬間についての動作予測を設計現場に適応させる技術や、デジタルハンドなどが、最新の成果として詳述された。
このあと行われた、パネルディスカッション(司会、杉村延広大阪府立大学大学院教授)では、フロアと講演者とが一体となって、時間が足りなくなるほどの熱い議論がなされた。
先ずフロアからは、「アジア諸国からの安くて性能がよくなりつつある製品と対抗できる、モノづくりの在り方は?」、「日本製品は優秀で多機能だが、使いきれない。むしろ、安くてそこそこの性能を持ったアジア諸国の製品を購入する傾向があるような市場で、日本製品をどう作るべきか?」など、グローバルな視点からの問いかけが多く出された。
これに関しての主な議論としては、先ず、産業界および大学における人材育成の課題が挙げられ、失敗例の経験を後輩などに伝達するプロセスがデジタル化で難しくなっている現状や、大学におけるCAD教育による図面の作成および読解能力の低下などについての指摘がなされた。
また、産官学連携についての課題が挙がり、中国や韓国では国を挙げての支援がなされているのに対して、日本では不足しており、技術立国を進めるために国のイニシアチブがもっと発揮されるように、このような会合が積極的に意見、提案を出すことが必要である、との議論が展開された。さらには、日本のモノづくりが生き残るには、今後は企業同士の「産産」連携が極めて重要になるとの意見も出された。
私も、バーチャルリアリティという最先端の分野で長年仕事をしているが、技術立国としての日本のコア・コンピタンスを見据えた上での産官学連携や、自社内での技術・技能の継承や「産産」連携について、それらが必要であるとの指摘に深く共感した。
最後に、閉会の挨拶として、舘暲横幹連合副会長は、モノづくりに関しては、産官学を挙げた協力が必要であり、今後も日本のモノづくり力の強化を図るためのフォーラムを企画してゆきたい。さらに、横幹連合として、ニーズとシーズの有機的な融合を図ってゆくために、いろいろな企画を実行したい、との希望を述べられた。
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