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横幹連合ニュースレター
<<目次>> No.025 Apr 2011 |
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巻頭メッセージ |
活動紹介 |
参加学会の横顔 |
「実問題に求められる 異分野知識の統合利用」 * 横幹連合理事 千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター副所長 平井 成興 |
第29回横幹技術フォーラム |
【横幹連合に参加している 学会をご紹介するコーナー】 ◆日本セキュリティ・マネジメント 学会 |
イベント紹介 |
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◆横幹連合緊急シンポジウム ◆これまでのイベント開催記録 |
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巻頭メッセージ
実問題に求められる異分野知識の統合利用
平井 成興 横幹連合理事
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター副所長
このたびの東日本大震災により被災された皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。東日本の一日も早い復旧復興を、お祈り申し上げます。
筆者の専門分野はロボット工学であるが、一時期、人工知能の分野で仕事をしたことがある。どちらも総合的な知識とその利用法が要求される分野であるのだが、その経験は、最近行われた「第29回横幹技術フォーラム」(注1)の企画を立てるにあたって、少なからず役に立った。
特にロボット工学は、ロボットを「作る」ための知識や技術に加えて、ロボットを「使う」ための知識や技術が必要で、そのどちらにおいても、他の分野の知識や技術の統合的利用が、幅広く要求される。とはいっても、それらを漫然と寄せ集めたとしても意味が無く、ロボットが、与えられた仕事や与えられた課題解決を行うために必要な、さまざまな知識を効果的に連携させることによって、初めて統合的利用が可能になると考えられる。ここでは、この点を、もう少し細かく述べておきたい。
基礎分野と応用分野との体系的な違いは、ロボットの分野に限ったものではないのだが、特にロボット分野で顕著となるようである。というのも、ロボットあるいはロボットシステムに与えられる仕事や課題自体は、いわゆるロボット工学の体系の中の事物ではなく、広く社会一般、産業から家庭まで、ありとあらゆる事物が多種多様に含まれたものであるのが通常だからである。多種の事物が多様な形で含まれており、そこにロボットを使うことがまた、さまざまな作用を及ぼす、というきわめて複雑なシステムが、どのように振る舞うかを分析したり、このシステムの上で所与の目的を達成するための手順を計画するときに、まさに専門分野を超えた、知識の「統合的活用」が求められるのだ。この統合的活用というのは、簡単なようで意外と難しいように思える。加えて、最近のように科学・技術分野の専門化が高度に進むにつれて、専門家は皆、それぞれの分野で扱わねばならない知識が微細化、かつ増大しており、分野を超えた統合的知識の利用は、ますます難しくなってきているように感じている。
例えば、介護にロボットを利用しようという場合、単にロボット工学の知識で適当にロボットを作ればよいという話にはならない。被介護者にとって好ましい生活状態を作り出すために、ロボット技術がどのように有効に利用できるのか、という視点で、全体を設計する必要があるのだ。そのためには、被介護者の身体の状態や、生活の目標、住環境や、生活している街の環境条件などを適切に評価して、活用するための知識の「統合的」利用が求められる。そこには、医学や、人間工学、リハビリテーションといった介護にかかわる知識、住宅のリフォームに関する知識であるとか、被介護者の通院や外出にかかわる道路の知識、ショッピングなどの屋外活動にかかわる知識、さらには機器利用のための費用にかかわる保険など社会制度についての知識、またその他にも、様々な知識を動員することが必要となるであろう。異分野の知識をどのように融合させ、利用するかについて、合理的な手法の開発が望まれている所以である。
今回、第29回フォーラムの企画を預かり、ちょうど良い機会になると考えて、異分野知識の融合手法についての筆者自身の日頃の疑問や、知りたかったことについて、その先端をゆく研究者から話を聞かせて頂こうと思った次第である。知識の整理、その異分野間活用のイメージを、理論から実践まで、重層性かつ具体性、実例をもって示したいと考えて今回のトピックを選び、それぞれの講師の皆様に講演をお願いした。
まず、知識の多面性の有効な実施例として、産業技術総合研究所(産総研)デジタルヒューマン工学研究センターの西田佳史氏による「日常生活インフォマティクスの研究」(注2)を、また、合理性を持った知識の整理・活用のための理論として、人工知能を専門とされている溝口理一郎教授(大阪大学産業科学研究所)による「オントロジー工学の研究」(注3)を、そして、ロボット工学における多面的な知識活用の将来的な発展方向として、産総研サービスロボット研究グループ、松本吉央氏による「生活機能構成学の研究」(注4)を選び、これらお三方に講演をお願いした。
そして、講師の皆さまの素晴らしい講演のお陰で、大変に盛り上がったフォーラムとなった。特に、溝口先生のオントロジーには会場からの質問が相次ぎ、聴衆の関心の高さに驚いたものである。
今回のフォーラムをこのような形で企画した理由を、また別の観点から述べると、横幹連合がめざす異分野融合の実現には知識の有効な利用法が欠かせない、と考えたことがきっかけとなっている。当たり前のことであるが、分野ごとに使う知識は異なるし、知識の体系も異なっている。それらの知識は言葉で表現されるが、同じ言葉でも分野が異なると違った意味を持つことが多く、異分野同士の専門家の間で話が通じにくくなる。このように知識は多面性を持っており、しかも文脈依存性が強い。そのため異分野融合の実現には、お互いが利用する知識をきちんと整理しておき、合理的に利用できるということが有効な手段となるだろう。そのための方法論を確立して行くことが、横断型基幹科学技術の基盤構築の目標の一つとして、必要不可欠なのではないか、ということを常々感じていた。
おかげさまで、横幹技術フォーラムについては、大変好評をいただいたが、知識融合利用手法の研究開発は、ようやっと始まったばかりであると感じている。今後、横幹連合と横幹協議会が連携しながら、その母体となって、さらなる発展をさせていくことを期待したい。
(注1) 「第29回横幹技術フォーラム」の記録は、本ニュースレター(4月号)の「活動紹介」に詳しく掲載されている。(注釈の文責は、編集室。以下同じ。) (注2) 日常生活インフォマティクス:子供の怪我のデータといった、日常生活の情報の管理やそのデータ処理を行うこと。また、概念的または理論的な情報の統合などを、研究すること。 (注3) オントロジー工学:「コンピュータ」(ソフトウェアエージェント)と「人間」という知識を扱う主体としての二種類のエージェントが、「知識」を共有し、様々な目的のためにそれを再利用するために、「オントロジー」(存在に関する体系的な理論=「存在論」)という哲学を用いて、多様な知識源に潜在する知識を、両エージェントにとって操作可能な形に抽出、変形、組織化する技術(「知識メディア技術」)。 (注4) 生活機能構成学:「生活機能」という考え方を導入することにより、現状の生活を記述し、そこに必要な支援の分析を体系的に行う新しい学問の枠組み。
(注釈の文責は、編集室)