【協力】 横幹連合 広報・出版委員会 * * * ■横幹連合 ニュースレター編集室■ 武田 博直室長(VRコンサルタント、日本バーチャルリアリティ学会) 小山 慎哉副室長(函館工業高等専門学校、日本バーチャルリアリティ学会) 高橋 正人委員(情報通信研究機構、計測自動制御学会) 中田 亨委員(産業技術総合研究所、ヒューマンインタフェース学会) 岡田 昌史委員(東京工業大学、ロボット学会) ■ウェブ頁レイアウト■ 金子 貴美委員(お茶の水女子大学) |
横幹連合ニュースレター
<<目次>> No.039 Nov 2014 |
||
巻頭メッセージ |
活動紹介 |
参加学会の横顔 |
静かなる平成維新と横幹総合シンポジウム * 六川 修一 横幹連合理事 東京大学大学院工学系研究科 教授 |
第41回横幹技術フォーラム |
Future Earth |
イベント紹介 |
ご意見はこちらへ |
|
◆第5回横幹連合総合シンポジウム ◆これまでのイベント開催記録 |
ニュースレターへの ご意見・ご感想を お聞かせください。 * E-mail: |
巻頭メッセージ
静かなる平成維新と横幹総合シンポジウム
六川 修一 横幹連合理事
東京大学大学院工学系研究科 教授
私の大学の周辺では、どちらを向いても、国際化、グローバル化を意識させる出来事が目立つようになった。正に、グローバル化のオンパレードである。冬学期がスタートとしたので、久しぶりに集まった研究室の学生たちに、夏休みをどう過ごしたのか聞いてみた。
一人目の男子学生は、欧州で、リュック一個を背負った気軽なバックパッカー旅行を試みた。この時に、次の3つの制約を自分に課したのだという。一つ。ホテルには、泊まらない。二つ。公共機関の利用に徹し、タクシーには乗らない。三つ。日本人とは、話しをしない。
次に、2人目。彼女は女子学生で、米国に在住中の友人に会うため一人で渡米し、レンタカーを借りたのだという。しかし、不慣れな運転で路端の立ち木に衝突して、自走不能に。レンタカー会社に連絡して車を牽引してもらい、機械的におこなわれた事故処理の後で、代替の車のキーを渡されて、一件落着。良い社会勉強には、なったが、「車はもう、こりごり」とは当人の弁。若い学生たちの「たくましさ」に感嘆するとともに、国内旅行と同じような感覚で海外に出かけられる事からの旅のトラブルもまた、珍しいものでは無くなったことを感じた。
私自身はどうかと言えば、8月にバンコクに招かれ、防災に関する講演を不慣れな英語でおこなった。そこまでは良かったのだが、最後のホテルのチェックアウトで、何度やってもクレジットカードがはじかれて、結局は現金決済。手持ちの資金がぎりぎりで、はらはら、どきどき。空港の土産店でも同様にカードが使えずじまいで、みやげは無し。後でクレジット会社から電話があり、私自身の消費行動から、かけ離れたカード使用があり、「何者かによる不正の疑いが濃厚」であったためにクレジットカードを無効にした、とのこと。(後で、私の知らない店舗でのカード番号使用が知らされた。)こうして、海外旅行でも国内同様のトラブルが体験されるという現実を、図らずも、私も実感することになった。
一方、国内に目を転じてみれば、静かなる国際化、グローバル化が、急速に進展していることが分かる。10月に滞在した別府のホテルでは、バイキング式の朝食堂の様子から推し量って、宿泊客の7割は韓国人と中国人の観光客であった。ホテルの表示はすべて、トリリンガルを超えた「日韓中英」(この順番)表記である。また、街中の飲食店やコンビニエンス・ストアの接客は、大半が外国人の店員になっており、日本人の方が圧倒的に少ない。中には、日本語に不慣れな外国人従業員による接客を売りにしているという、たくましい居酒屋もある。
テレビでは、日本の弁当箱(弁当では無い)を海外に売って成功している外国人ビジネスマン(京都大学に留学経験が有るという)の語る視点を採り上げていた。おかずの性質毎に分離されている弁当箱は、まさにミラクル。こんな機能的なものは、日本にしか無いそうである。改めて身の回りを見てみると、日常生活における国際化にも目を見張るばかりだ。まさしく、「静かなる平成維新」と言っても過言では無い。
明治維新は、(個人の理解としては、)学術的な分析はさておき、西洋に追いつけという国家の大号令の下、“外国人から見て日本人はどう見られているか”を強烈に意識した、ものの見方についての大転換であったように思われる。一方で、(私が勝手に名付けた)「静かなる平成維新」というのは、外国人から日本の良さを気付かせてもらう、あるいは“我々の視点を意識的に外におくことによって日常の価値を認識する精神活動“では無いだろうか。何度か外国に足を運んだ感覚から言えば、わが国の「注目に値する日常の資源」は多様で、奥が深い。また外国人にとっても、(まだまだ階級社会が色濃く残る外国と違って) ある程度の日本語力を身につけさえすれば、彼らにとっての日本は、とても過ごし易い場所のように見える。非正規雇用のアルバイト化が進んだせいもあるが、日本人どうしでも職業に対する偏見は少なく、貧富の差も少なく、これでは事実上の社会主義を実現させた唯一の国は”資本主義国”の日本だったのではないか、という皮肉な論調まで、あるほどだ。近年の国家による大号令に目を転ずれば、ものづくり大国の復活、海外展開力の強化などの言葉が踊っているのでは、あるけれど、主張の立ち位置があまりに自国本位に過ぎるように思う。ミニ幸福を達成した(と皆が思っている)わが国の目標喪失感こそが、わが国の抱えている問題の本質では無いだろうか。
横幹連合では来たる11月29日(土)、30日(日)の両日、東京大学で、“日本発:モノ、コト、文化の新結合”と題する第5回総合シンポジウムを開催する。(筆者は、実行委員長を務める。)既に述べた、「静かなる平成維新」によるわが国の国際化が、議論の最大のテーマである。一般に聞かれる日本の海外展開論においては、少子高齢化や工場等の海外移転に伴う産業空洞化を背景にして、「日本は今後、何を柱にして生きるのか」という論調が多く、「日本の売りになるものを発掘しよう」という議論が多い。しかし、本シンポジウムにおいては、わが国の日常の文化・生活様式などの利点を生かした要素技術・研究成果を「日本発の価値」として展開し、世界に発信することを目指している。こうした”コトづくり”については、横幹連合においても、これまでに理念の形成から実行まで並々ならぬ努力が払われてきた中心課題の一つでもある。本シンポジウムに多くの方々が集い、わが国の今後の進むべき道に対する意義深い議論が展開されることを、心より期待したい。