横幹連合ニュースレター
No.040 Feb 2015
<<目次>>
>■巻頭メッセージ■
お茶とコーヒー -日常生活から横幹的アプローチへのヒント
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庄司 裕子 横幹連合理事
中央大学理工学部 教授
■活動紹介■
●第42回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔 ■
「第5回横幹連合シンポジウム」 開催のご報告
■イベント紹介■
◆2015年定時総会
●第6回横幹連合コンファレンス
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:
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横幹連合ニュースレター
No.040 Feb 2015
参加学会の横顔
毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーですが、
今回は、特別に「第5回横幹連合総合シンポジウム開催のご報告」をご紹介します。
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第5回横幹連合総合シンポジウム開催のご報告
イベント記録: http://www.trafst.jp/sympo2014/index_sympo2014.html
「日本発:モノ・コト・文化の新結合」
( 2014年11月29日~30日 於:東京大学 本郷キャンパス )
2014年11月29日(土)~30日(日)に、東京大学 本郷キャンパスで「第5回横幹連合シンポジウム」が開催された。
今回のシンポジウムのテーマである「日本発:モノ・コト・文化の新結合」に関して、実行委員長の六川修一氏(東京大学/日本リモートセンシング学会)は、基調講演の前に次のようなエピソードを会場の聴講者に披露された。それは、欧州を六川氏が旅行中のこと、移動に利用した寝台車が一つの空間を多様に利用していて非常に使いやすく、機能的で、とても素晴らしくできている事に、六川氏はたいへん感銘を受けたのだという。そこで、車掌にその気持ちを伝えたところ、車掌が、にこりと笑って一言。「日本製です。」このとき、六川氏は、日本では当たり前の「茶の間」という一つの空間が、応接間や寝室などの多くの目的に活用されていることに改めて気付かされたのだという。
このように、我々の視点を意識的に外に置くという操作によって、日本の日常文化・生活様式には外国とは異なる特色・工夫のあったことが改めて発見できる場合がある。あるいはまた、外国から指摘されて、日本の有する科学技術基盤の良さに気が付く事もあるだろう。だとすれば、そんな環境から生まれた、わが国の特色ある要素技術や研究成果を、意識的に、コトつくりに展開できる「日本発の力」として世界に発信することができるのではないか。六川氏は、今回のシンポジウムのテーマである「日本発:モノ・コト・文化の新結合」を、このような挿話によって的確に紹介した。本シンポジウムは、そうした基礎科学における分野横断的活動の場でもあり、社会全体との連携・融合を考える機会として位置づけられていた。(注1)
さて、今回のシンポジウムでは「学会融合セッション」として、異なる学会からの推薦講演どうしを一つのセッションに配置するという初めての試みが行われた。
「学会融合セッション (1)」(司会は兵庫県立大学 有馬昌宏氏)には、経営情報学会、スケジューリング学会、システム制御情報学会、計測自動制御学会の 4学会が参加して活発な討議が行われた。「ハザードマップの情報品質」「離島などにおいて災害等に対応する自立分散エネルギーシステム」「防災情報の情報インフラの有効活用」「災害・事故への備え・回復力・対応力」などの話題が提供され、統一テーマの「モノ・コト・文化の新結合」に関しては、「結合には、物理レベルのカップリング、情報レベルのカップリング、人レベルのカップリングが考えられるが、それぞれのレベルで横串的に、さらに各レベル間では縦串的に結合できるように、横幹参加学会が文理融合的に研究をして行かなければならない」ことなどが確認された。
日本バーチャルリアリティ学会と日本リモートセンシング学会が参加した「学会融合セッション (2)」(司会は「安藤ハザマ」笠義博氏が務めた)では、通常の学会とは異なる視点での有意義な討議が楽しく行われた。「触覚インターフェイスに関する現況」「臨場感の再現、力覚提示に関する研究動向」「リモートセンシング・データの北極海航路での活用」などが紹介され、リモートセンシングの実利用に向けては、国の継続的な取り組みや、他分野の学会・産業界や海外との協力、価値の顕在化や産業化の視点などが不可欠であることが議論された。参加者からは、今後も幅広い分野の学会との意見交換を行ってみたい、という希望が多く聞かれた。以上の「学会融合セッション」の他に、「特別企画セッション(人工物工学の将来展開について)」「オーガナイズドセッション」「一般セッション」が行われ、合計 17セッション、73件の講演でシンポジウムが構成され、2日間で 148名の参加者があった。
「オーガナイズドセッション」においても、文理の学会の垣根を越えた活発な議論が行われた。一例として「『カワイイ』文化は新技術・新産業を創出するか」というセッションをご紹介すると、その中では、昨年度の「木村賞」(横幹科学技術の発展に寄与する優れた研究に与えられる)を受賞された大倉典子氏(芝浦工業大学、注2)が、感性工学の手法を用いて「感性価値としての『かわいい』の可能性」を、日本やインドでの聞き取り調査を通じて詳細に論じた。また、周東美材氏(東京大学)は「カワイイ文化を理解する枠組み、としての未熟さ」について論じ、日本の近代都市住宅に(1916年頃から)登場した「茶の間」という工夫された空間が「消費生活の中心的な担い手としての子供」を確立させたと共に、同時代のメディア技術が「価値意識としての未熟さ」を定着させたのではないか、という魅力的な仮説を披露した。(六川氏の注目された「茶の間」は、ここではマスメディアとの接点だと意識されていたようだ。)そして、このセッションのオーガナイザーである遠藤薫氏(学習院大学)は、「可愛い」は「可哀そう」にポジティブな意味(哀しみの美学)を見出していることを指摘し、興福寺の阿修羅像や、伏見稲荷大社みやげの神狐の人形、竹久夢二の作品などを例に、日本における通時的な「可愛い」の系譜を紹介した。なお、招き猫(土人形)の起源は現在も特定されていないが、上記の神狐の土人形から着想された可能性を遠藤氏は新たに指摘した。同様に、出口弘氏(東京工業大学)は「日常性の再構築のメディアとしての日本型コンテンツ ~その歴史的意義と世界への拡散~」と題した講演で、2000年以降の異類婚姻譚の漫画(神々や人でないものとの共生の日常を描いた漫画)では、非常に顕著に、結末がすべてハッピーエンドになっているという注目すべき傾向を指摘し、これは、人類が「神」という大きな物語に頼る時代の終焉の始まりを意味しているのではないかと論じた。つまり、日本発のこうした漫画が今後、海外で、Cool Japan として翻訳・出版されることなどによって、外国の絶対神や唯一神といった「大きな物語」が希薄化され、日本的なシンクレティズム(神仏混淆)が海外の原理主義的な先鋭な宗教をも相対化させてゆく可能性が出てきたのだという。(ただし、百年単位での時間は掛かるだろうが。)
このような、通常の単一の学会大会では決して一つのセッションの中で出会う事のない多様な視点からの話題提供は、すべてのセッションで行なわれ、学会の壁を超えた熱い議論が展開された。例えば「国際競争力強化:国際競争力を高める仕組みや枠組みとその鍵は?」(セッション・オーガナイザーは産業技術総合研究所/筑波大学の神徳徹雄氏)では、「鉄道、宇宙、建築、ロボット」という異なる分野からの話題が一堂に提供されていた。このセッションでは「国際標準化や認証」という国際的な取り組みを通じた市場開拓を行なう事によって、わが国の特色ある要素技術や研究成果が海外に展開される可能性があることに、参加者の全員が賛同した。
また、「地域活性化:多様な地域資源が生み出す新結合」という学会融合セッション(オーガナイザーは、香川大学の板倉宏昭氏)では、地域活性化についての「コンテンツ」だけではなく「コンテクスト」「創造的な過疎」などを複眼的に考慮したモデルが紹介され、ここでは国内の喫緊の課題である持続可能な地域活性化がその理論面から活発に論じられた。文系と理系で使用する「言葉の違い」などに配慮して、登壇者が説明図やモデルなどの発表形式を分かり易く工夫する講演も多く見られた。
また、今回のシンポジウムでは基調講演として、「日本の国際協力 ~日本発:モノ、コト、文化の新結合~」と題する田中明彦氏(国際協力機構 JICA 理事長)の興味深い講演を聞くことができた。日本の国際協力/政府開発援助(ODA)は、1954年に始まって以来 60年の歴史を有するが、日本はその時代に応じた様々な国際協力を実施し、現在は「モノ、コト、そして人と人とのつながり(技術協力)」を軸とする日本ブランドともいうべき特色ある国際協力を行なっているという。具体的には、高度なインフラ技術や科学研究分野での取り組み、そして「KAIZEN」などに代表される日本型のマネジメント技術を生かした人材育成に力をいれており、これからも「人間(どうしの相互理解)による安全保障」を ODAは担い続けることになるのだという。
そして、全セッションが終了した後に、パネルディスカッション「コトづくりへの転換と日本の力」が行なわれ、それに続く、各オーガナイザー・司会者からの「セッション報告」が全体を締めくくった。パネルディスカッションでは、行政、産業界、学術界の識者から本シンポジウムの統一テーマについて、「例えば、シャワートイレの普及、電車の定時運行、駅のバリアフリー化といった日本で普及した独自の文化については、逆ガラパゴス化という発想でこれらを世界へ輸出することができるだろう」「日本の技術者には、自分が持っている技術が世界に対してどのような恩恵をもたらすか、という視点・発想こそが必要である」「横幹連合には、縦割りの技術分野に横串を通せる技術(横幹技術)を身につけた人材の育成が期待されている」といった意見が述べられた。なお、紙面の都合でここに記せなかった他のセッションの報告を含めた詳しい「第5回横幹連合総合シンポジウム開催報告」が 2015年4月刊行の会誌「横幹」に掲載される。是非、ご参照頂きたい。(注3)会誌掲載の開催報告には、実行委員として運営に携わった川中孝章氏(東京大学)が「横幹連合総合シンポジウムの醍醐味とポテンシャルの高さを改めて確認することができた」とその感想を記している。
そして、次回の「第6回横幹連合コンファレンス」は、2015年12月5日(土)~6日(日)に名古屋工業大学で行われる。その詳細は、横幹連合ホームページに、適宜公開される予定である。
(注1)「第5回横幹連合シンポジウム」の記録は、こちら。そして、六川修一実行委員長による本シンポジウムのねらいが、横幹ニュースレター前号の巻頭メッセージに掲載されている。
(注2)これまでの「木村賞」の受賞者は、伊呂原隆氏(上智大学)、キャロライン・ベントン氏(筑波大学)、大倉典子氏(芝浦工業大学)、鈴木和幸氏(電気通信大学)の 4名。また、大倉氏の受賞理由は、会誌「横幹」第8巻第1号(2014年4月)の「木村賞第二回授賞報告(2013年度)」に掲載されており、大倉氏自身による「感性価値としての『かわいい』」の詳細は「第5回横幹連合総合シンポジウム 予稿集」p.202 に掲載されている。
(注3)「第5回横幹連合総合シンポジウム開催報告」は、次号会誌「横幹」の刊行後に横幹ホームページ「第9巻第1号」の目次にタイトルが掲載され、1年後に Web上での記事の閲覧が可能になる。
(文責:編集室)