横幹連合ニュースレター
No.026 Jul 2011

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
統計科学の研究者の
横断型科学との関わり
田村 義保
横幹連合副会長
統計数理研究所副所長

■活動紹介■
●第30回横幹技術フォーラム

■参加学会の横顔■
●日本シミュレーション&ゲーミング学会

■イベント紹介■
●横幹連合緊急シンポジウム
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.026 Jul 2011

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本シミュレーション&ゲーミング学会 をご紹介します。
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日本シミュレーション&ゲーミング学会

ホームページ: http://www.jasag.org/

会長 兼田 敏之 氏

(名古屋工業大学大学院 教授)

 
【現実の複雑性を未来から省察する】

(以下、H:編集室、K:兼田敏之会長)

H(編集室): 先ず、本学会のウェブサイト を拝見して、トップページなどから引用します。

 日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG: Japan Association of Simulation And Gaming)は、シミュレーションとゲーミング、それらに関連する分野の学際的な学協会です。1980年代後半からのICT(情報通信技術)の革新は、地球的規模でシミュレーション&ゲーミングの分野にも極めて重要な影響を与えています。 人文科学における心理、教育、学習のゲーミングから、社会科学における(社会問題の解決策を探索するためや社会経済システムの挙動を理解するために)人間が参加するシミュレーション、自然科学や工学における(モデルに基づくコンピューターによる)数値シミュレーション、そして、アミューズメントゲームにいたるまで、本学会には、これらに関連する多様な人々が参加しています。日本全国のシミュレーション&ゲーミングの研究者、 開発者、実務家、教育者、実践家、社会事業者、学生、そして関連する法人などで構成され、その学際的手法と、関連する科学技術の飛躍的発展をはかることを目的としています。これにより、この分野における国際組織・国内研究者のネットワークを形成しています。

K(兼田敏之会長): 設立当初の、意気込みの高さが伺われる文章ですね。
 JASAGは、1989年に設立され、登録団体時代の日本学術会議では、経済政策研究連絡委員会に所属していました。1991年7月には、国際シミュレーション&ゲーミング学会(ISAGA: International Simulation And Gaming Association)京都会議を、また2003年には、国際シミュレーション&ゲーミング学会千葉会議を開催しております。(共催は、両会議とも日本学術会議。)
 その後、20周年を迎えた2009年にNPO法人格を取得して、JASAGは新たな出発に到っております。
 ISAGAを初め、NASAGA(北米シミュレーション&ゲーミング学会)、ABSEL(米国ビジネスゲーミング学会)、DiGRA(国際デジタルゲーム学会)などとも、緩やかに連携しています。

H: ゲーミング(gaming)というユニークなキーワードが、この学会の特徴ですね。兼田会長は、本学会を非会員にご紹介されますとき、どんな風に説明をしておられますか。

K: ゲーミングという言葉を英英辞典で調べてみると、第一に出てくるのは、ギャンブリング、つまり賭け事という意味です。しかし、大き目の辞書を引くと第二の定義に、ビジネス・軍事などについての訓練のためや問題解決のために作られたゲームを実施すること、と出てきます。本学会のゲーミングは、主にこちらの意味で用います。訓練ツールとしてのゲーミングには歴史がありまして、近代軍隊を創始したプロシアが、18世紀の末には将校訓練のツールとしての「Kriegspiel」(まさしく、ウォー・ゲーミングです)を開発していた記録も残っているほどです。
 その後、第2次大戦中には「オペレーションズリサーチ」(OR)の一部に組み込まれ、1958年の「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌でのアンドリンガー博士による「ビジネス・ゲーム」の発表、そして、60年代からのオフィスコンピュータの普及とともに、ゲーミング技法には、国際政治・社会変動・都市問題といった社会システムの構造理解や問題解決への「適応放散」、つまり、多様な形態の分化が生じました。
 70年代には、ISAGAの機関誌である「Simulation & Gaming」誌 の刊行(Sage Publisher Co.Ltd)が始まるなど、現在に至る骨格が出来上がってゆきます。80年代からはパソコン・ゲーミング、90年代からはネットワーク・ゲーミングを経て、(教育・医療訓練などの)シリアス・ゲームやソーシャル・ゲームが登場します。余談ですが、第一の定義でもいいんですよ。意思決定の例題は、たいてい賭け事なのですから。ここでは、実際にやってみる(体験から学ぶ)ということが重要なのです。

H: ゲーミングというのは、古くて新しい技法なんですね。

K: そうですね。リチャード・デュークという重鎮の研究者(ISAGA創立者)は、「モデルのコミュニケーション」技法という表現をよく使っています。ただし、ここで言うモデルとは、多主体系、すなわち「社会」のモデルについてですね。そこに参加してシミュレーションを体験し、「振り返り」「気づき」、理解を深め、問題解決への糸口を探る。そんな意味合いが込められています。
 JASAGは、まさに文理融合なのですが、研究者コミュニティとしてみると、研究者の三分の二は、(科学研究費の分野でいう)「複合新領域」の社会システム工学のなかに包含されると思います。ただし、ゲーミング技法のファシリテーション(ゲームの「正しい」進め方)や、デブリーフィング(参加者でゲーミングを事後検討し、含意を整理すること)を担う教育学、心理学、コミュニケーション論、メディア論の研究者とのコラボレーションも、欠かすことができません。例えば、秋田大学教育文化学部では、ゲーミング・シミュレーション型授業の構築というテーマで、文部科学省から特色GP(Good Practice、教育の改善に資する特色あるプログラム)が採択され、実施されたほどです。本学会では、年2回全国大会を開催し、年2冊の学会誌「シミュレーション&ゲーミング」を発行して、新しい時代にふさわしいクリエイティブな会員活動を促進しています。また、課題別・地域別研究部会活動をサポートし、会員による優れた成果に対する表彰を行っています。

H: 兼田会長のご研究の概要と、現在関心をお持ちの内容を、ご説明下さい。また、会長はどんなきっかけで、この学会に入会されたのでしょう。

K: 私は、都市計画領域にかかわる研究者です。東京工業大学社会工学科で、アーバン・ダイナミクス(数理モデルによる都市計画のシミュレーション)を研究されていた熊田禎宣(くまだよしのぶ)先生の研究室にいるとき、1984年の夏に、当時ミシガン大学で教授をしておられたリチャード・デューク先生を知りました。
 学位では、AppleⅡパソコンを使って、都市計画の「地区計画制度」の研究として、住環境保全効果のシミュレーションゲームを作成したり、「法定再開発プロジェクト」の(利害関係者間の)合意形成ゲーミングなどを作成しました。この学会が誕生したのは、私が1988年に学位取得をした直後です。こうしたことから、当初からいろいろの関わりを、本学会と持っておりました。
 名古屋工業大学では、都市計画学研究室を持って16年目になります。来たるべき「まちづくりの時代」を予見して、都市計画・計画行政分野における「問題解決実務指向」のシミュレーション&ゲーミングの設計・開発を手がけてきました。2001年からは、歩行者エージェント・シミュレーションにも力を入れており、この分野は、建築学を履修してきた研究室の学生とも相性が良いように思います。現在、回遊行動の観点から、中心市街地再生のアセスメント技法の確立を目指しているところです。また、今回の大震災では、東京の帰宅困難者が問題になりましたが、まだ起こっていないことを想像するイマジネーションが都市の計画行政には必要だということを、今回の帰宅困難者問題は教えてくれたのではないか、と考えています。

H: 今後の本学会の向かわれる方向について、お尋ねしたいのですが。

K: シミュレーション&ゲーミングという手法は、様々な問題状況に「接近」し得る自由度と柔軟性を有しています。そのことから、我々が生きる社会システムを対象とした問題状況の、解決策を単に模索するだけではなく、問題の発生を未然に防ぐ、あるいは、ある問題状況において望ましい制度や、共有し得る未来ビジョンをデザインできる可能性を持っているのです。
 しかし、それゆえに「本学会でしか語ることのできないテーマとは何か」についての新たな確認も、また重要になります。そこで、今年の秋期全国大会では、「そもそもシミュレーション&ゲーミングとは何か?~原点に返る」をテーマにした開催を予定しています。
 このように、社会・人文・自然科学の境界にある方法論の一つである「シミュレーション&ゲーミング」の手法を、学術的に発展させ、重要な礎石にする活動を、学会として今後も続けてゆきたいと考えております。

H: 大変面白いお話しを、どうもありがとうございました。


 

 (本文・注釈の文責:編集室)   

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