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横幹連合ニュースレター
<<目次>> No.022 Aug 2010 |
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巻頭メッセージ |
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「ソーシャル・メディアと社会規範型の横断的研究」 * 横幹連合理事 太田敏澄 |
第26回横幹技術フォーラム |
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イベント紹介 |
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◆第3回横幹連合シンポジウム ◆これまでのイベント開催記録 |
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巻頭メッセージ
ソーシャル・メディアと社会規範型の横断的研究
太田敏澄 横幹連合理事
電気通信大学
「ソーシャル・メディア」(注1)と呼ばれる新しいメディアの台頭によって、インターネット利用者がダイレクトに問題を顕在化させたり、他の利用者の支援で、そうした問題が解決されたりすることも多くなってきている。企業や組織は、そのコミュニケーションをよりオープンなものとするために、このような新しい動きに注目してソーシャル・メディアを活用し、経営者と従業員との情報交換のみならず、顧客をも巻き込んだ形で、相互のコミュニケーションに存在するハードルを下げるための方策をもっと講じるべきではないだろうか。
ソーシャル・メディアの事例としては、インターネット通販サイトの電子掲示板でのユーザによる書き込みや、ブログ、Social Networking Service(SNS、注2)、Wikipediaへの書き込み、そして、YouTube など動画共有サービスへの動画のアップロードなどが挙げられる。こうした新しいメディアでは、個人を主体とした情報や知識の直接発信や情報交換が可能で、個人が直接に問題の解決に係わることが出来る。既に、現在の企業の顧客は、ブログ、SNS、YouTube などを使って、その企業や製品についての情報を語り合い、その評価や選択を行うようになってきた。更には、従業員からの直接の情報発信も可能になったことから、新製品の開発や顧客サポートにおける問題解決も、より直接になされるようになってきている。
このような実態に関して、米国リサーチ会社のJosh Bernoff らは、米国をはじめ、南アフリカ、韓国、フランス、カナダの100社以上の経営者や従業員にインタビューを行ってソーシャル・メディアを活用したマーケティング戦略の指南書をまとめ、その書名を「大きなうねり」(注3)と名づけることで、こうした新しい社会現象を表現しようとしている。
周知の通り、企業にとっての顧客は、重要な利害関係者である。経済学者ハーバート・サイモンがモデル化している通り、企業は、基本的には、経営者、従業員、顧客間の循環的相互作用によって成り立っている。ソーシャル・メディアを用いて、企業や組織が、経営者、従業員、顧客を巻き込んだコミュニケーションを活性化させることは、この循環的相互作用を促進させることとなり、新しい「大きなうねり」に対処する上での、必須の活動であると言えるだろう。
更に、企業内SNSのようなソーシャル・メディアの場合には、その効果を分析するために、技術規範型の研究というよりは、社会規範型の研究が有効であるだろう。情報技術に関する社会規範型の研究は、人間や社会システムに対する、広くて、かつ深い知見を追求する研究が志向され、情報技術の高度化に伴う成果を十分生かした問題解決のあり方を探求することになる。そこでは、人文・社会科学的な知見と理工学的な知見を「意識的に統合する」研究が必要とされるだろう。
最近、横幹技術協議会の支援を得て、企業内SNSの調査研究を行う機会に恵まれた。その調査の結果として、企業内SNSの導入に成功したとする企業では、導入以前には問題の解決に関与することのなかった人たちが、SNSを通じて関与者になったことで問題が解決したという事例を得た。更に、問題解決の過程で、選択肢の候補を得る洞察や解決策を得る選択の段階において解決がサポートされ、その結果として、素早い問題解決が可能になるなどの成果をあげていることが、明らかになった。このことは、企業内SNSが、従来の企業内メディアや情報共有ツールには、ほとんど存在しなかった日記機能やコミュニティ機能を備え、気軽な情報発信を支援していることが有効に作用している可能性を示している。これらの結果については、第20回の横幹技術フォーラム(注4)などで報告を行った。
企業内SNSを使った経営者と従業員との直接の情報交換や、従業員相互の情報や知識の受発信は、ボトムアップ的な問題の発見や解決の可能性を向上させる。この動向は、既に情報技術を活用している企業などの、組織のフラット化やネットワーク化における変化などとして表れている。このような社内の個人の受発信能力を、更に発展させるためには、さまざまな立場の個人が情報や知識の負荷に直接対処して意思決定や問題解決を推進できるように、その運用方法や支援環境を整備してゆく必要があるだろう。
また、企業の問題を超えた、社会的な問題の発見や解決においては、利害関係者間の意見や方策の違いを集約、ないしは統合するための新たな方法論を、今後探究する必要があるだろう。最近では、ソーシャル・メディアを、知識創造、協調学習、組織進化などに活用するための議論も展開され始めている。社会規範型の横断的研究は、人や社会を基軸とした問題解決の在り方を追究するという志向を持っている(注5)ことから、ソーシャル・メディアを基盤としたコミュニケーションのオープン化に対処できるよう、社会や企業についての深い理解の下で、モデル化などの手段を援用する社会規範型の研究が、いっそう盛んになることを期待している。
(注1) 「ソーシャル・メディア」:インターネットやウェブに基づく技術を用いて、個人を主体にした情報発信や情報交換が可能となるメディアの総称。 (注2) 「Social Networking Service(SNS)」:人と人とのつながりを促進、サポートする、コミュニティ型のWebサイト。友人、知人間のコミュニケーションを円滑にしたり、趣味や嗜好、居住地域、出身校などのつながりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供する会員制のサービス。企業内SNSは、SNSの仕組みを企業内に限定したサービスで、社内でのコミュニケーションの活性化や、情報の部門間格差の解消、あるいは内定者囲い込み、SOX法対策などの目的に使用される。 (注3) ベストセラーとなった書籍「大きなうねり」の原題は、Groundswell : Winning in a World Transformed by Social Technologies。Charlene LiとJosh Bernoffの共著。Harvard Business School Press刊、2008年。 (注4) 第20回横幹技術フォーラム(2009年6月3日)では、「SNSが切り開くバリアフリー・コミュニケーション」と題してこの問題が取り上げられた。例えば、損保ジャパンでは、居酒屋、タバコ部屋でノウハウを伝え合うか、つてを頼るしかなかったのが「先ず企業内SNSで聞いてみよう」という信頼感が生まれ、同じ仕事をする仲間同士の知識の共有が進んだことで、社内に「信じ合い、助け合う文化」が生まれたのだという。(http://www.trafst.jp/nl/019/report.html) (注5) こうした最近の研究動向に関心を持たれた方は、電気通信大学大学院情報システム学研究科太田研究室の論文などをその入門編として、ひもといてみられることをお勧めしたい。
http://kjk.office.uec.ac.jp/Profiles/0004/0000443/theses1.html
(注釈の文責は、編集室)