横幹連合ニュースレター
No.022 Aug 2010
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
ソーシャル・メディアと社会規範型の横断的研究
太田敏澄
横幹連合理事
電気通信大学
■活動紹介■
●第26回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔■
●日本シミュレーション学会
■イベント紹介■
●第3回横幹連合シンポジウム
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:
* * *
横幹連合ニュースレター
No.022 Aug 2010
◆活動紹介
●
【活動紹介】
第26回横幹技術フォーラム
テーマ:シンポジウム「『知の統合』に向けて 〜社会的役割と具体的事例〜」
* * * * * * *
第26回横幹技術フォーラム
テーマ:シンポジウム「『知の統合』に向けて 〜社会的役割と具体的事例〜」
日時:2010年5月21日
会場:日本学術会議 講堂
主催:日本学術会議 総合工学委員会「工学基盤における知の統合分科会」、
横幹技術協議会、横幹連合
プログラム詳細のページはこちら
【参加レポート】
木野泰伸(筑波大学大学院准教授)
5月21日、「『知の統合』に向けて 〜社会的役割と具体的事例〜」と題したシンポジウムが、日本学術会議講堂に於いて開催された。主催は、日本学術会議、総合工学委員会 「工学基盤における知の統合分科会」(委員長、舘ワ氏)であり、横幹連合と横幹協議会は共催として参加した。
シンポジウムは第1部と第2部に分かれており、第1部(座長、舘ワ氏)では4名の講演者が「知の統合」について、それぞれの視点からの考えを紹介された。金澤一郎氏(日本学術会議会議会長)の開会のあいさつに続き、最初に講演された横幹連合会長の木村英紀氏(工学基盤における知の統合分科会委員)は、横幹連合の設立の背景や活動の紹介を交え、「『知の統合』と横幹科学技術」と題して、このテーマを論じられた。木村氏は、実世界で起きている問題を解くためには現在の細分化された知(科学技術)が不向きである、という課題を提示され、横幹連合の進めている横断型の科学技術が、異なる研究分野での共通概念・手法・構造を抽出し、より普遍的な知の体型を生成するという点で重要であることを述べ、更に「知の統合」が、従来の物質科学(法則性)の領域だけではなく、脳科学などの生命科学や人文社会科学にも推進可能であることを論じられた。木村氏は、こうした知の統合は、あるべきものを探求する「設計科学」を通して可能である、と述べられ、その言葉は非常に印象的であった。
2番目に、東京大学教授の笠木伸英氏(工学基盤における知の統合分科会委員)が、「『知の統合』のためになすべきこと」と題して講演された。日本学術会議の「科学者コミュニティと知の統合委員会」や「工学基盤における知の統合分科会」から、対外報告「提言:知の統合‐社会のための科学に向けて‐」(2007年3月、注1)などが出されており、また、「日本の展望‐学術からの提言2010」(特に「日本の展望‐理学・工学からの提言」「総合工学分野の展望」、注2)などにも提言や報告として「知の統合」が要請されていることを、笠木氏は最初に紹介された。そして、それらを具現化するために、@新たな学術の構築、と、A課題解決のための「社会のための科学の実践」「イノベーションを誘導する研究開発を可能とする循環」などの知の統合、の二つが必要不可欠であることを述べられた。更に、知の統合のために具体的になすべきこととして、大学や研究機関、産業界、学協会などにおける意識改革と連携、ファンディング(資金援助)の課題、基礎研究から応用開発研究までの連携と、若者にも開かれた協働の場の開拓などについて論じられた。
3番目に、総合地球環境学研究所長の立本成文氏が「社会のための科学としての『知の統合』」と題して講演された。立本氏は、単にあるもの(認識科学)を統合するということを目的とするのではなく、問題群に対して、人間の健康な生活(Well-being)に貢献する視点から、あるべきものを設計(design)する人間科学的統合、すなわち社会のための学術でなければならないことと、そうした統合の出来る人材を養成する総合工学のカリキュラムが必要であること、などを主張された。
4番目に、愛知工業大学教授の架谷昌信氏(工学基盤における知の統合分科会委員)が、「知の統合」は、人間活動の中で決して特別なものではなく、日常的に行われているものであるにもかかわらず、細分化された科学技術の21世紀的風景の中では、その方法論も得られる成果の有効性も未知のことだとされてきたことを指摘した。そこで、まず(今日では細分化されている)化学工学も、石油産業の勃興と共に新産業の要請に対応して、化学と機械の知の統合として誕生したことなどを例に挙げてその成果を強調され、これからも産官学が連携することによって、例えば、高効率のソーラーパネルや資源制約のない蓄電システムといった、従来の方法論では発見することすら出来なかった新しい社会的課題に、一点突破型の成果を与え得るのではないかという可能性を示唆された。国家横断型のわが国のプロジェクト型研究が、新エネルギー開発機構(NEDO)などを先行例として社会設計と不即不離の国家事業として定着し、わが国の明日を担う重要なメカニズムになりつつあるという現状からも、「知の統合」の理念は、わが国のプロジェクト型研究の展開の経緯から「必然の結果」として誕生しつつあるものであると述べられた。
以上、第1部では、発表者により視点の違いがあるものの、社会の要請として、課題志向で横断的に解決を図るための新しい学問体系が重要である、との認識が共通していた。また、「設計科学」という言葉もたびたび登場しており、重要なキーワードであることを再認識した。続く第2部(座長、萩原一郎氏)では、具体的な2件の事例発表が行われ、更に、本分科会の2つの小委員会の総括と今後の展望が紹介された。
(注1) 「提言:知の統合‐社会のための科学に向けて‐」
(注2) 「日本の展望‐学術からの提言2010」
♯編集室より:
第1部の「『知の統合』の社会に果たす役割」に引き続いて、第2部では「『知の統合』に向けての具体的な取組み」について、4つの発表が行われた。座長は、 萩原一郎氏(東京工業大学大学院教授、日本学術会議連携会員)が務められた。
初めの2講演では、「創薬」と「持続可能な開発のための教育」という具体的な分野における「知の統合」の事例が紹介され、留意点についての貴重な指摘もあった。
後半の2講演では、「制御理論」や「ナノ・マイクロ・エンジニアリング」「情報技術を用いた人文学(デジタル・ヒューマニティーズ)」「ロボティクス」といった多様な学問分野における実例として、課題解決や知的興味から「知の統合」が行われ、体系化されてきた歴史が詳細に検証された。そして、こうした成果を推進するために、トップダウンやボトムアップの多くの研究の領域で「知の統合」の評価ができる人材の育成が必要とされていることや、科研費申請の研究種目に「統合研究」(仮称)を設けることなどが策定されており、議論の深められていることが紹介された。
○ 「国家基幹技術を含めた最先端研究基盤の統合による創薬実践」(バイオ研究から見た「知の統合」)西島和三氏(持田 製薬医薬開発本部専任主事、東京大学農学生命科学研究科特任教授) ○ 「環境問題解決に向けた知の融合・統合」(持続可能な社会作りに向けた「知の統合」)鈴木克徳氏(金沢大学フロンテ ィアサイエンス機構特任教授) ○ 「『知の統合体系化』に向けて」川村貞夫氏(立命館大学総合理工学院・理工学部教授、工学基盤における知の統合分科 会委員、知の統合体系化小委員会委員長) ○ 「『知の統合推進』に向けて」原辰次氏(東京大学大学院教授、工学基盤における知の統合分科会委員、知の統合推進小 委員会委員長)
最後に、矢川元基氏(東洋大学大学院教授、総合工学委員会委員長)が閉会のあいさつをされ、シンポジウムが締めくくられた。
(文責:編集室)   
▲このページのトップへ |