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横幹連合ニュースレター

<<目次>> No.029 May 2012

巻頭メッセージ

活動紹介

参加学会の横顔

 
「横幹的アプローチの提案:
データから情報、インテリジェンス、さらに戦略、施策へ」
*
横幹連合副会長
科学技術振興機構
安岡 善文
 
 第33回横幹技術フォーラム
 
【横幹連合に参加している
 学会をご紹介するコーナー】
 
日本行動計量学会

イベント紹介

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巻頭メッセージ

横幹的アプローチの提案:データから情報、インテリジェンス、さらに戦略、施策へ

  安岡 善文 横幹連合副会長 

科学技術振興機構

  去る4月25日、横幹連合の総会が、東京大学山上会館で開催されました。日本学術会議副会長、春日文子先生の印象に残る特別講演(「放射性物質汚染の把握と健康被害防止のための提言―日本学術会議による事実探索の試み」)、また横幹連合における東日本大震災に向けたプロジェクトの報告(「横幹連合会員学会の震災克服調査研究の連携による強靭な社会の再構築に向けた横断型基幹科学技術の展開」)を伺い(注)、横幹的なアプローチの必要性を今更ながらに感じました。ここでは、巻頭言の場をお借りして、「横幹的アプローチとはどのようなものか」についての私見を披露したいと思います。この考えの一部は、総会における上記プロジェクトの報告(ワーキンググループC の報告)においても説明をさせて頂きました。

  何らかの施策を考える上で、「必要なデータを収集すること」が第一歩であることは間違いありません。しかし、実際には、必要とされるのはデータそのものではなく、情報であることが多いのです。データから情報への変換は、どのように行われるのでしょうか。ここでは、情報 = データ * 知識 という仮説を提案したいと思います。この仮説の骨格を、下図に示しました。情報は、データと知識が融合することにより生まれる、という仮説です。同じデータを渡しても、持っている知識が異なることにより引き出される情報が異なることは、良くあります。例えば、地震による揺れのデータを渡しても、持っている知識により、それがどこで発生したのか、また津波を伴うものか否か、という情報は異なります。結果的に、その知識によって、「どのような退避行動をしたら良いか」の判断が異なることになるのです。この仮説に関連しては、もう一点、知識を記述することで、対象のモデル化が可能となる、ということも付記しておきます。図の上段を、ご参照下さい。

図
データ収集から戦略構築、施策立案までの横幹的アプローチ(筆者私案)

  上述したように、何はともあれ、データと知識を結合した「情報」の獲得が不可欠になるのですが、それだけでは不十分です。ここでは、一歩を進めて、インテリジェンス = 情報 * 推論 という仮説を提案します。インテリジェンスは、情報と推論の統合により生まれます。インテリジェンスという言葉が適切かどうかは自信がありませんが、ここでは、「情報と推論の統合から得られるもの」という意味で使用しました。例えば、「どこでどの位の規模の地震が発生した時に、どんな程度の被害が予想され、またどこで交通網の切断といった不都合が生じるのか」、「どれだけの救援部隊や物資を、どこに投入することが必要になるのか」を推論することが、インテリジェンスです。これを把握するには、地震そのものに関する情報に加えて、様々な想定に基づいた推論が必要になります。推論を得るには、モデルを用いたシミュレーション予測や評価の技法が不可欠なことは、言うまでもありません。図の上段をご参照下さい。 今日、我々の周りで発生している災害や環境問題、また経済的な問題を見ると、予測・評価に基づいた推論の重要性、そして、推論に基づいたインテリジェンスの重要性が、十分に認識されていないのではないかと感じます。昨年3月11日の震災では「想定外」という言葉が多用されましたが、これは推論の弱さから生まれた、といっても良いのではないでしょうか。実際の防災戦略の構築や施策立案にどこまで盛り込むかは別としても、今回の震災のような事態が発生する可能性があることは推論しておくべきであったと思います。これは科学技術に身をおくものとして、大きな反省点です。
  さらに一歩を進めます。インテリジェンスの獲得から戦略構築へ、さらに、戦略構築から施策立案へという流れがあることも、見えてきます。(図の右半分になりますが、その詳細は省略します。)ここでの提案は、データの取得から戦略構築、施策立案までの一貫した流れを「横幹的アプローチ」と呼んでは如何か、というものです。ここでは、自然に関する科学技術は勿論、人間や社会に関する科学技術が必要となることは言うまでもありません。また、その手段として、計測からモデル化、シミュレーション、さらには最適化などのシステム科学技術の技法が、段階に沿って適切な形で提供されることも重要な点です。(図の上段です。)
  今日、我々が抱える様々な課題を解決するために、データから情報、インテリジェンス、さらに戦略、施策に至る道筋を明確にすることが必要では無いでしょうか。勿論、その道筋には、理念や目標が必須となります。また、施策の及ぼす効果を評価して、その評価を、計測・調査、モデル化またシミュレーションに「フィードバックすることが不可欠である」ということも、忘れてはならないでしょう。 さらに、施策立案が行われる際に、図面の右側から左側に向かっての逆探索が重要であることを、特に付記しておきたいと思います。施策から戦略、インテリジェンス、情報、データへの流れを逆に探ることによって、その他のインテリジェンスや情報、そしてデータの必要性に気付くことができますし、同時に、そのアプローチの取得条件や制約についても十分な理解が必要であることに思い至るのです。

  今回の総会で、特別講演やプロジェクトの報告を聞きながら感じたことを、私見としてまとめました。皆様からのご批判、ご意見を伺えればと思います。

(注)   4月25日の「2012年度横幹連合定時総会」に於いて、新役員の選任、新年度事業計画案の承認、収支決算報告および新年度予算案の承認などの後に、「震災克服研究に関する会員学会連携活動報告」と「特別講演」が行われた。
  「震災克服研究に関する会員学会連携活動報告」として、出口会長の「全体活動方針」に続いて、ワーキンググループの活動方針が、A:田村義保氏(統計数理研究所)B:大場允晶氏(日本大学)C:安岡善文氏(科学技術振興機構)から、それぞれ報告され、そして、「会員学会取組み紹介」の、その2として、「システム制御情報学会」の活動(報告者は京都大学、松野文俊氏)と「社会情報学会」の活動(報告者は明治学院大学、櫻井成一朗氏)が報告された。
  それに続く「特別講演」では、「放射性物質汚染の把握と健康被害防止のための提言―日本学術会議による事実探索の試み」と題して、春日文子氏(日本学術会議副会長、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長)から、日本学術会議における大震災対策の検討の一つが報告された。春日氏が担当する分科会では、福島原発の放射性物質の放出総量を推定し、汚染の環境中での移行、今後の人の健康に影響を与える事象の関連などを検討し、さらに、被曝量に対応した健康影響を評価して、国民の健康被害をできる限り防止するための方策に至る、汚染と被害の全貌を俯瞰する提言を行った。
  なお、このほかに、今回の総会では、横幹型科学技術に関する優れた研究や実践を表彰する「横幹賞」の創設が決定されている。これは、木村英紀前会長からの基金により実施される。

(注釈の文責は、編集室)   
 

 

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