横幹連合ニュースレター
No.032 Feb 2013
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
「文明崩壊」を考える
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寺野 隆雄 横幹連合理事
東京工業大学 教授
■活動紹介■
●第35回横幹連合フォーラム
■参加学会の横顔■
◆計測自動制御学会
■イベント紹介■
◆「第5回横幹連合コンファレンス」
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:
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横幹連合ニュースレター
No.032 Feb 2012
◆参加学会の横顔
毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、計測自動制御学会をご紹介します。
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計測自動制御学会
ホームページ: http://www.sice.jp/
前会長 白井 俊明氏
(横河電機株式会社 常務執行役員)
【生活と産業を支える計測・制御】
計測自動制御学会(SICE、The Society of Instrument and Control Engineers)は、1961年9月30日に設立発起人会を開催して発足し、学会事業を現名称の学会として翌1962年1月1日より開始しました。その前身は、社団法人日本計測学会(1950年に計測懇談会として発足)と、自動制御研究会(1947年に自動制御懇話会として発足)の 2団体でした。発足後の1963年に、社団法人の認可を得ています。2010年には、公益社団法人に移行して、新たなスタートを切ることになりました。
本学会は、計測と制御の研究者・技術者の集まりとして設立されて以来、装置産業や、組み立て産業などの 2次産業ばかりでなく、2.5次産業、3次産業や 1次産業にまで、その活動分野を拡大し、学術・技術、産業の発展に寄与してきました。最近では、情報、知能、システム、ロボット、ネットワークを網羅し、情報統合を目指す製造業から、サービス業、経営、金融、環境など、広く社会のあらゆる領域における課題解決の技術をになう研究者、技術者の交流の場となっています。
社会貢献活動も活発に行われ、社会人を対象にした講習会の他に、技術者教育の推進の一環として JABEE(日本技術者教育認定機構)への協力を行い、技術者の継続教育を目的としたポイント制度の実施や、SICE独自の「計測制御エンジニア資格」の運営などを推進しています。
グローバル化が社会一般に進む中でも、SICEのグローバル化は、極めて活発、かつユニークです。創立25年目の1986年には、学術講演会に始めて国際セッションを設け、IEEE-IES(米国電気電子学会の Industrial Electronics Society)の協賛を得て実施しました。それ以降に、IEEE、IFAC、IMEKO、CIS、ICROS、ISA、IICA、CAA、CACSなどの数多くの国際学会と活発な交流の場を持ち、国際会議の共同開催や、APFICS加盟によるアジア諸国の計測・制御系学会・団体との密接な連携を推進しています。(注1)
更に、積極的なグローバル化の試みとして、毎年行われる SICE学術講演会を国際会議 Annual Conferenceとして位置づけ、2004年からは、論文はもとより、質疑応答も全部英語で行う完全な国際化を果しました。2008年からは英文論文集(JCMSI、Journal of Control, Measurement and System Integration)を発刊しています。このように、わが国では他に例のない新しい試みに、本学会はチャレンジしております。
(注1) | 米国電気電子学会との交流は、IEEE-IES の他にも IEEE-RAS(Robotics and Automation Society)、IEEE-CSS(Control Systems Society)、IEEE-SMC(Systems, Man and Cybernetics Society)、IEEE日本カウンシル、などと共に進められています。IFAC(International Federation of Automatic Control、国際自動制御連盟)、IMEKO(International Measurement Confederation、国際計測連合)、CIS(China Instrument and Control Society)、ICROS(The Institute of Control, Robotics, and Systems。旧称は、ICASE、The Institute of Control, Automation and Systems Engineers, Korea)、ISA(The International Society of Automation)、IICA(Institute of Instrumentation and Control Australia Inc)、CAA(Chinese Association of Automation)、CACS(Chinese Automatic Control Society)などの組織との相互交流も活発です。また、APFICSは、Asian Pacific Federation of Instrumentation and Control Societies の略称です。 |
2001年には、創立40周年記念行事として記念講演会「21世紀をデザインする横断的科学技術」を開催し、会誌「計測と制御」創立40周年記念特集号(第41巻第1号)を発行しました。2011年には、創立50周年記念行事として、会誌「計測と制御」計測自動制御学会50年史(第50巻第8/9号)を発行し、SICE50周年記念サイトを公開しています。
また、学会誌「計測と制御」(1962年創刊)、および、論文集として邦文の「計測自動制御学会論文集」と欧文の「Journal of Control, Measurement, and System Integration(SICE JCMSI)」を発行しています。
実社会や実際の環境の中では、細分化された科学技術だけでは、ごく一部についての解しか得ることが出来ません。そのために、細分化された知を有機的に統合することが求められています。本学会の技術分野である、計測、制御、情報、システムなどについては、その統合化にあたっての横断型の基幹科学技術として、ますますその重要性を高めて行くことになると思われます。
本学会につきまして、2012年度会長、白井俊明氏にお話を伺いました。
Q1:白井前会長は、貴学会を非会員にご紹介されますとき、どんな風に説明をしておられますか。
SICE、計測自動制御学会は、分野横断的であることが特徴で、いろいろな対象を「計る」と「制御する」ことについて研究している学会です。そういう意味で、「動詞」の学会だと説明しています。他の一般的な学会では、研究対象が、例えば「機械」、「電気」と確定しており、こうしたいわば「名詞」の学会と大きく違うところです。従って、私たちの研究対象は、計測・制御できるものであれば、工業分野、情報技術分野だけに留まらず、経営や環境などの社会のあらゆる領域に拡大する可能性を持っています。また研究アプローチとして、分析型の研究だけでなく、synthesis、統合型の研究に注力している学会であると言えます。文字通り、横断型基幹科学技術の研究学会であると言えるのではないでしょうか。
半世紀の昔、本学会が創立された時代の日本は、高度成長期の真っ只中にあったことで、計測・制御の技術が重化学工業を中心とした製造業のモノづくりを支えていました。20世紀が、大量生産により安価で良質な工業製品を普及させる工業化社会であったことに比較すると、21世紀は、個人個人の多様性が尊重され、製品の使い勝手や利便性に価値が求められているように思えます。こうした知識社会では、産業における価値創出の重心が、工業製品そのものから、サービスをはじめとする無形資産にシフトしつつあります。「モノづくり」の重要性に変わりはありませんが、それに加えてモノに無形の価値を付加する「コトづくり」に優位性を発揮することが、日本の産業が競争力を取り戻すためには必要な要件です。
それゆえに、本学会の「システムを創る」科学であることを強みとする価値創造型のアプローチは、コトづくりを重視する社会のメガトレンドの中でこそ、その強みを発揮できるだろうと思います。これからの50年は、従来の工業分野だけでなく、社会インフラ、住生活環境、健康・医療などの、人間の暮らしに密着した分野にも活動領域を広げていくことが、SICEの新しい方向性であると考えています。
ところで、本学会では、国際学会との交流を非常に盛んに行っています。(上記の前文の注釈に、主要な海外の関連学会等が列挙してありますので、ご参照下さい。)また、SICE学術講演会を Annual Conferenceとして位置づけており、2004年からは、論文も質疑応答も、全部を英語で行っています。更に「中期事業計画」(後述します)の中では、国際的な発信力や提案力の強化を大きな柱と位置づけています。具体的には、Annual Conferenceや、英文論文誌を中心に、本学会は、アジア地域における計測・制御・システムの研究分野の中核となることを目標としており、この分野の研究者・技術者に議論の場を提供するとともに、教育・人材育成に貢献して行くつもりです。Annual Conference、および、英文論文集における外国人比率を高めること。また、アジア諸国においてセミナーを開催して、教育・人材育成に貢献すること。更に、国際的な標準化に関しても、積極的なイニシアチブを目指して、国際標準の提案を行うことなどを計画しています。アジアの国々との友好関係は、これからも益々、重要になるものと考えています。
さて、SICEは専門分野別に次の6つの部門をもって活動しています: (1)計測部門、(2)制御部門、(3)システム・情報部門、(4)SI(システムインテグレーション)部門、(5)産業応用部門、(6)ライフエンジニアリング部門。先ほど、Annual Conferenceについては、全て英語化されていると述べましたが、日本語での発表・討議の場の確保としては、各部門の大会がそれを受け持っており、このことは本学会の活動が拡大することにも繋がりました。本学会の6つの部門と主な事業活動につきましては、こちらをご参照下さい。 また、全国8つの支部の活動も、大変活発に行われています。地方の市民や学生へのアピールは、支部が中心になって担当しています。各支部の連絡先につきましては、こちらをご参照下さい。
Q2:白井前会長のお仕事の概要をご説明下さい。また、どんなきっかけで、この学会に入会されたのでしょう。
本学会との出会いは、東大工学部計数工学科の学部学生だった1976年でした。私は、卒論のテーマに「リモートセンシング」(遠隔からの測定手法)を選んだこともあって、ごく自然に本学会に入会しました。大学での指導教官は、豊田弘道先生です。
卒業後、北辰電機製作所に入社し、プロセス制御システムの開発部署に配属されました。北辰電機が横河電機に合併してからも、横河の主力製品である CENTUMシリーズ(注2)の製品開発部門に配属され、永くプロセス制御システムのソフトウェア開発に携わって参りました。2007年から、イノベーション本部(旧研究開発本部)の本部長をしております。
(注2) | 横河電機「CENTUMシリーズ」は、1975年に世界に先駆けて発表された同社の分散形統合生産制御システムです。このような分散制御システムの登場によって、プラント操業の連続制御と、シーケンス制御(予めプログラムされた順序または手続きに従って逐次制御される手法)の融合が容易になり、プラント操業が高度化されました。それはまた、世界の計装システムが分散システムに移行する契機にもなっています。2012年に、国立科学博物館が選定する「重要科学技術史資料」(未来技術遺産)に登録されました。 |
かつては、優れた技術があれば良い製品を開発できて、良い製品であればお客様に買っていただけ、さらに技術を磨くという好循環を見込めた良き時代もありました。しかし、新興国に伴うグローバル競争の激化や産業構造の変化で、こうした単純な構図は描けなくなりました。変化の激しい不確実性の高い未来に備えて、新たな事業機会を技術を通して探ることが、いま私が担当しておりますイノベーション本部の役割です。(1)先行マーケティング、(2)研究開発、(3)市場実証の3つの専門機能を一体とさせ、仮説・実証のプロセスを反復するアプローチをとっています。未来展望のための「シナリオプランニング」手法を採用し、企業や研究機関、業界団体、ジャーナリストなどの幅広い分野における世界各国の有識者らとともに、複数の未来像(シナリオ)を継続して描いています。このシナリオについては全社で共有されて、研究戦略及び事業戦略策定に生かされています。
このような新製品開発の新しい流れの中で、当社は「オープン・イノベーション」に注力しています。研究開発を自社だけに閉じさせることなく、社外の知見を活用して共に成長するというこの手法は、産業界全体にも広がりつつある研究開発の方法です。具体的には、ある技術的な問題に関して、例えば、当社でセミナーを開催して、多様な技術力(スキル)を有する企業の皆さんにお集まりを願い、その場所で「こんな技術について、当社と共同開発や共同研究の形で協力して下さる方は、おられますか」と呼びかけることがあります。当社には、コアの技術として(動詞の)測るための優れた技術があります。が、しかし、周辺技術を含めて、すべてを社内でまかなえる訳ではありません。自分たちが製品開発をする上で必要としている材料技術などに関して、互いの知恵を出し合うことで、お互いにとっての大きな成果が期待できるのです。
こうした、他社との協業や、学会の先生方との共同研究などに於いては、共通の課題を認識するための「交流の場」が、非常に重要です。更に、それを産業界全体で考えて見ると、そうしたハブとしての「場」の機能を本学会が果たすことが非常に大切なことに思えます。これにつきましては、後ほど、「中期事業計画」や「産業応用部門」の活動のご紹介とともに、もう少しお話してみたいと思います。
ところで、本学会と横河電機のかかわりは非常に深く、企業からの最初の会長となった友田三八二(みやじ)(第2〜3期会長)は弊社の社長を長く務めた人物でもありました。個人名を冠した学会賞のうち、友田賞がその功績を記念して贈られています。横河・北辰出身の会長は、私で6人目となります。
本学会を通じて、さまざまな方面の研究者の方々と直接に交流できることも、大きな楽しみの一つです。本学会の研究会では、非常に良い刺激を学者や企業の方々からいただくことが多くあります。特に、異分野・異業種の方々とは、普段お話する機会も限られていますので、非常に有難い機会であると喜んでいます。また、親しい良い友人が研究会を通じてできたという経験も、個人的に持っています。
Q3:今後の貴学会の向かわれる方向について、お尋ねしたいのですが。
新たな50年の最初の年である2012年度につきましては、次の3つの基本方針の下に活動を進めました。
(1) | SICE Anytime Everywhere の実践 |
(2) | 学会基盤の強化 |
(3) | 産業界・関連分野との連携強化 |
先ず、「SICE Anytime Everywhere」は、2009年に提案された SICEのあり方を示すコンセプトです。大震災からの教訓を機に、2011年に「社会的課題抽出・展開専門委員会」が理事会直轄で発足しています。原辰次元会長のリードの下に、「人間・自然と共生する社会システム設計と実現」をテーマに、未来に向けた提言を広く社会に発信するべく活動を進めております。もちろん(「名詞」の)他の学会が、災害への優れた提言をされていることも存じていますが、本学会は、動詞的・統合的な観点から、中長期的にこの問題に取り組んでいます。特に、原子力発電所は、計測と制御の集約された施設です。システムを作る科学や人間が、思うが儘に製品を作るという事ではなくて、自然との共生を生かした「設計論」を開発できる技術学会としての活動を心がけています。こうした活動を通じて、本学会が、横幹的で分野横断型の学会であるということを広く知っていただければ、幸いです。
また、2011年度の50周年記念事業として実施した各種企画を、定常事業に引き継いで定着させました。なお、50周年記念サイトには、デジタル・ミュージアムやオンライン・ハンドブックを掲載しております。皆さまにご活用いただければ、幸いです。
二つ目の方針は、学会の発展を支えるための、財政基盤を始めとする活動基盤の強化です。会員減少など学会を取り巻く環境は厳しさを増していますが、受身の対応に終始せず、公益法人制度の活用も含めて、積極的な増強策が必要であると考えています。
その第一歩として、2012年度に、学会の今後5年間の活動目標を示す「中期事業計画」を策定しました。計測・制御・システムを研究する中核学会として、(1)諸分野を横断して知を究め、新しい価値を創造する。そして、(2)関連分野・産官学のハブとなり、発信・連携して社会的課題の抽出・解決に貢献する。この二つが、SICEの中期ビジョンです。それを実現する「4つの柱」として、(1)社会に向けてのプレゼンス、(2)会員に向けてのサービス、(3)世界に向けての国際性、(4)組織運営(組織と財務基盤)への取り組みを充実させて行こうとしています。このような中期的な取り組みの中で、学会活動の根幹である論文集・会誌の価値向上や、Annual Conferenceの活性化にも、引き続き取り組んで行くつもりです。
また、SICEがアジアの拠点学会となるための、組織横断的な、あらゆる活動分野でのグローバル化を、これからも深化させて行きたいと考えています。
三つ目の方針として、関連分野、特に産業界との活動連携の強化を掲げたいと思います。先ほどもお話しましたが、産業界には「オープン・イノベーション」の考え方が広がっています。分野横断的な特徴を持つ本学会には、オープン・イノベーションのハブとしての役割が強く期待されていると思います。そうした要求に応えるべく、また産学連携の場を広く提供できますように、産業界団体との活動の相互乗り入れを更に活発化させるつもりです。公的な研究機関と企業が交流する有用性については、言うまでもありませんが、仮に、オープン・イノベーションの協力相手が同業他社であった場合でも、(最後の製造・販売段階での互いの競争は、もちろん必要ですが)研究開発のためのクリエイティブな知恵を出し合うことのメリットは、互いに沢山あるはずです。ちなみに、これは「中期事業計画」の中にも、共通する課題を認識するための「快適な場/効率的な手段」を提供することとして、その目標の一つに挙げております。
ところで、本学会の「産業応用部門」は 1987年からの「産業部門」(産業計画部会)の後継部門ですが、産業応用部門の部門大会を 2002年から毎年開催しています。どの部門も非常に大切な研究を行っておりますが、私のような産業界の人間にとっては、産業応用部門の研究の進展は大変に楽しみです。また、「産業論文」が電子ジャーナルとして、2002年度から2011年まで発行されました。
最後に、産業応用部門の活動事例を一つ紹介しておきたいと思います。昨今、団塊の世代の引退に伴い、どこの企業でも技術の伝承が問題となっています。SICEが関わる業界においても、計測・制御の技術、特に現場の知恵に直結した技術の継承が喫緊の課題です。SICEでは、産業応用部門が中心となり、「プロセス塾」という企業内技術者の再教育プログラムを設けてきました。生産現場の見学を含めた実践的スクーリング、現場経験豊かな講師陣など、現場の要求に密着した学習内容が好評を得て、6年間の実施期間に200名を超える卒業生を輩出することができました。本企画は、SICEも加盟している日本工学会からも高く評価され、学会による産学連携の成功例として注目されています。
本学会は、分野横断型、またシステムを創る能力をもった価値創造型の組織として、これからも「知の集積・融合・統合」に力を発揮することが期待されているのを強く感じています。
(編集部注:本稿の前文の作成に際して、小畑秀文元会長の執筆された「参加学会の横顔」NEWS LETTER No.003,November 2004掲載、を参考にさせて頂きました。)