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横幹連合ニュースレター
<<目次>> No.037 May 2014 |
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巻頭メッセージ |
活動紹介 |
参加学会の横顔 |
デザイン科学における 横幹型活動 * 松岡 由幸 横幹連合理事 慶應義塾大学 教授 |
第39回横幹技術フォーラム |
日本リモートセンシング学会 (2) |
イベント紹介 |
ご意見はこちらへ |
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◆第42回横幹技術フォーラム ◆これまでのイベント開催記録 |
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巻頭メッセージ
デザイン科学における横幹型活動
松岡 由幸 横幹連合理事
慶應義塾大学教授
昨年、横幹連合は創設10周年を迎え、雑誌「横幹」におきまして、特別企画「横幹連合:10周年を迎えて」(Vol.7、 No.1)が刊行されました。当時、会誌編集委員長を拝任しておりました私は、本特別企画号の企画・編集の際に、多くの方々にご指導、ご尽力を賜りました。ここに、あらためて御礼申し上げる次第でございます。
また、この編集に際して、私個人と致しましても、あらためて横幹型科学や知の統合に関する意義やそのあり方を再考する良い機会となりました。そして、そのことが、私の専門領域である「デザイン科学」において、その知を結集させる『デザイン科学事典』編纂の後押しをしてくれたようにも感じております。ここでは、知の統合としてのデザイン科学について、横幹連合との意外な関わり?もまじえながら、紹介して行きたいと思います。
デザイン科学は、プロダクトデザイン、建築デザイン、情報デザイン、サービスデザインなどの様々なデザイン領域において共通の基盤となる科学であり、「デザインという創造的行為における法則性の解明と、デザイン行為に用いられる様々な知識の体系化を狙いとする学問」です。なお、ここでいう「デザイン」とは、文化に視座を置くインダストリアル・デザインや科学に視座を置くエンジニアリング・デザイン(工学設計)など、あらゆるデザインを含んでいます。デザイン科学は、これまで専門化・細分化が進み、共通となる基盤や土俵を有していない様々なデザイン領域における「知の統合」を目指しています。それにより、様々なデザイン領域が一丸となり、多くの今日的課題に対して、総力をあげて取り組んで行けることを期待しているのです。
デザイン科学という用語を初めて用いたのは、1960年代にその著書の中で「宇宙船地球号」という概念を示した建築家・思想家のB.Fullerであり(注1)、その後、現在までに多くの研究者によってデザイン科学に関する議論が行われてきました。
1970年代に、F.Hansenは、デザイン科学の目標を「デザイン行為における法則の認識と規則の構築」としています。1980年代には、V.HubkaとW.E.Ederが、デザイン科学をHansenよりも広い概念で捉え、「デザイン領域における知識の集合やデザイン方法論の概念なども含むもの」と位置づけました。1990年代に入ると、N.Crossが、デザイン科学を「デザイン対象に対して組織化、合理化されたシステマティックなアプローチ」と表現し、科学的知識を活用するにとどまらない科学的行為としてデザインを捉えています。そして、これらの変遷を経て、現在では、デザイン科学は、先に示したように「デザイン行為における法則性の解明、およびデザイン行為に用いられる知識の体系化を目指す学問」とされているのです。
ここで、「デザイン科学」と「設計科学」の関係性について、疑問に思われる方も多いかと存じます。そのため、私見を少し述べておきたいと思います。そもそも、この両者は生い立ちが異なります。「デザイン科学」は、先述した変遷を経て、現在では、あくまでデザイン行為そのものの解明に注目しています。それに対して、「設計科学」は「認識科学」と対比して用いられ、「あるべきものの探求」を目指す学問であることから、その対象は広範です。それゆえ、「デザイン科学」は「設計科学」の部分集合を対象としていると言えるのではないでしょうか。それと同時に、「デザイン科学」は、「設計科学」の中核をなす1つであるべきとも考えています。
様々なデザイン領域における知の統合を図ることで、デザイン科学の構築を目指すことは、世界的な傾向でありますが、特に日本において、学会間が連合するいくつかの先導的な横幹型活動が進められています。そして、横幹連合が、実はそれらを間接的に後押ししてきたことを、皆様はご存知でしょうか。
例えば、「Designシンポジウム」は、その1つです。このシンポジウムの起源は、1982年の「設計自動化工学講演会」(日本機械学会主催、精密工学会協賛)、翌年の「設計自動化工学講演会」(日本機械学会、精密工学会共催)であると言えるでしょう。その後、毎年開催され、途中から「設計シンポジウム」と改称されました。さらに現在では、日本機械学会、精密工学会、日本設計工学会、日本デザイン学会、日本建築学会、人工知能学会が共催する「Designシンポジウム」となっています。日本の設計・デザインに関わる6学会における知の統合に向けた議論が、2年に一度、継続的に行われているのです。
2014年においては、日本設計工学会が幹事学会となり、来る11月11日から13日にかけて東京大学生産技術研究所において行われる予定です。横幹連合の初代会長である吉川弘之先生には、特別講演をご快諾いただいております。ふるってご参加いただければと存じます。なお、当横幹連合は、このシンポジウムの協賛学会でもあります。協賛学会として参画したのは、2008年に慶應義塾大学にて実施したシンポジウム(筆者が委員長)が初めてであり、それ以降、ずっと継続的に参画をしています。
もう1つの学会間連合による横幹型活動に、デザイン(設計)理論・方法論に関する研究会の活動が挙げられます。2009年に、日本デザイン学会、日本機械学会、日本設計工学会のそれぞれにおいて同時に、デザイン(設計)理論・方法論に関する研究会を立ち上げています。ここで、デザイン理論・方法論に注目している理由は、図1の「デザイン科学の枠組み」が示すように、それらがデザイン科学の基盤であるものの、現在において、未だ十分な知が存在しておらず、今後、最も知を充実すべき研究対象であるためです。そのため、これらの3学会における研究会は、連合的活動を継続させることで具体的なデザイン科学の枠組みやそれらの知に関する議論を重ねてきました。また、それらの成果を結実させるべく『デザイン科学事典』の編纂に向けての準備も行ってきました。その『デザイン科学事典(英語版)』は成長型のweb形式によるもので、すでに広く世界に発信すべく、現在、その成果の一部を公開しています。また、昨年夏に東京で行われました第5回国際デザイン学会連合(IASDR)国際会議(日本デザイン学会、日本感性工学会、日本学術会議共催)においても、それらの横幹型活動や事典が、学術会議連携シンポジウム「デザイン統合に向けたデザイン科学と、それが可能にする新パラダイム”タイムアクシスデザイン”」(注2)の中で紹介されました。なお、横幹連合はこのシンポジウムの後援学会であり、ここでも、間接的ではありますが、知の統合としてのデザイン科学の構築に関与しています。
以上、知の統合としてのデザイン科学に関して、横幹型活動とその成果である『デザイン科学事典』を紹介しました。デザイン科学に関しては、すでに実務面、研究面、教育面などにおいて具体的な応用成果につながっています。たとえば、実務面においては、成果の1つであり、デザイン理論の枠組みである「多空間デザインモデル」をもとにして生み出された新たなデザイン方法「Mメソッド」が提唱されています。多くの企業では、すでにこれを用いて新たな製品開発やシステム構築を行っています。また、研究面においては、デザイン科学において今後研究すべき課題などの明示や近接する研究分野との比較による新たな研究領域の提示も進んでいます。さらに教育面においては、デザイン実務教育を「創発デザイン」と「最適デザイン」に区分した新たな創造教育の試行なども始められています。これらはすべて、デザイン科学研究の成果を応用したものです。このように、横幹型活動による効果は、多様なかたちで現れるものと考えます。
デザイン科学に見られるこのような横幹型活動は、横幹連合の思想や活動が、間接的に影響したものと考えています。冒頭に申し上げましたように、少なくとも、私自身は、横幹連合が『デザイン科学事典』の編纂を後押ししてくれたと感じています。実は、このような間接的影響は、大切な視座であるのかもしれません。おそらく、このような事例は、他の学術領域にも複数存在するでしょう。そうであれば、それらの一つひとつが「知の統合」の参考事例となり、相互に刺激しあうことも可能です。さらには、その上位にある横幹連合の活動そのものとの連動もありうるのかもしれません。これを創発システムの観点から見れば、デザイン科学のような横幹型活動が下位ユニットにあり、それらが相互作用をすることで、ボトムアップ的に上位の横幹連合の活動に何かを影響を及ぼすことが考えられます。もちろん、逆のトップダウンも容易に考えられると思います。そのためにも、今後は、そのような「間接的影響」の視座の下、もう少しまわりを見渡し、横幹型活動の事例に注目していく必要があるのかもしれません。
(注1)バックミンスター・フラー(Buckminster Fuller)1895年 – 1983年。著書に「宇宙船地球号操縦マニュアル」芹沢高志訳、ちくま学芸文庫など。(注釈の文責:編集室。以下同じ。)
(注2)【参考資料】会誌「横幹」第6巻第1号。ミニ特集「横幹的活動としての『タイムアクシス・デザイン』」 http://www.trafst.jp/journal/ref_journal/TRAFSTVol.6No.1contents.pdf