横幹連合ニュースレター
No.038 Aug 2014
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
横幹的研究の展開と発展へと向けての広報・出版委員会の取組と課題
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有馬 昌宏 横幹連合理事
兵庫県立大学 応用情報科学研究科 教授
■活動紹介■
●第40回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔 ■
日本計画行政学会
■イベント紹介■
◆第5回横幹連合総合シンポジウム
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:
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横幹連合ニュースレター
No.038 Aug 2014
参加学会の横顔
毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、日本計画行政学会をご紹介します。
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日本計画行政学会
ホームページ: http://www.japanpa.jp/index.html
会長 細野 助博氏
(中央大学 総合政策学部 教授、中央大学大学院 公共政策研究科 教授)
【計画の技術的手法、行政・実施過程の学問体系化を目指す】
「計画(Planning)行政(Administration)」 という言葉からは、政府・地方自治体など公共部門の行う「計画・行政」が直ぐに連想されると思いますが、それだけではなく、「計画行政」は、企業など民間部門の「計画・管理」や国際間の「計画・行政・管理」なども広く包括した概念です。日本計画行政学会(設立時、Japan Association for Planning Administration、JAPA。現在は、Japan Association for Planning and Public Management)は、政策系学会のトップランナーとして、
(1)(上記のような)計画の作成・実施・評価についての各過程や、その理論方法の研究、及び、
(2)それらの計画の基礎となる、自然的・社会的諸条件に関する研究を行うとともに、
(3)計画行政の各分野にたずさわる研究者、行政担当者、実務者などによる研究成果の発表と相互交流を行うことで「計画行政」に関する学問体系の確立に資することを、その設立の目的としています。1977年8月に設立されました。
初代会長の中山伊知郎氏(注1)は、学会の設立総会に寄せて、次のようなアッピールを行いました。
「計画」(プランニング)は「行政」(アドミニストレーション)によって実現される。そして社会は、無数の計画と行政によって動いている。しかし残念なことには、計画と行政との関係は、十分に満足すべき状態にはない。「計画」の源泉には「思想と科学」があり、「行政」の基盤には「組織と技術」があって、それらが相互にからみ合っているからである。
日本計画行政学会は、衆知を集めることによって、計画と行政との間の溝を埋めることを念願して出発した。広くこの問題に関心を持つ人々の参加を得れば、幸いである。
このように、「計画行政」という言葉が、政府・公共部門・民間部門の「計画・行政・管理」などを広く包括した概念であるために、計画行政を対象とする学問は、人文科学、社会科学、自然科学のすべての領域に及びます。また同時に、その担い手は、学者・研究者、行政担当者、企業人、消費者など、多様でなければなりません。設立時の会員数は 300名余でしたが、その後の、有澤廣巳 元東大教授(第2代会長、エネルギー問題の権威で日本学士院院長)、そして、大来佐武郎氏(第3代会長、国際派エコノミスト、元外務大臣)の時代を経て、第4代の加藤寛会長(注2)の時代までに、会員数は1300名余りに増え、北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州支部が設立されました。また、専門部会では、本学会の特色となる総合的分野に関する自主研究を行っています。(以上、本学会ホームページなどから要約。)
現在の第11代会長には、財務省財政制度等審議会委員で、産業組織論、公共政策論、コミュニティ政策、都市政策論で高名な、細野助博中央大学教授が就任しています。
(注1)中山伊知郎氏(1898‐1980)は、経済学者。ドイツでシュンペーターに師事。日本に一般均衡理論を導入し、近代経済学を定着させたとされる。一橋大学名誉教授。1956年、産業計画会議委員(議長、松永安左エ門)に就任した。日本学術会議では、第4期(1957‐60)の副会長。氏の言葉「計画なき行政は盲目であり、行政なき計画は空虚である」は、今でも良く引用されている。初代会長の任期は、1977年から80年までで、本学会の基礎を作った。(注釈の文責:編集室。以下同じ)
(注2)加藤寛氏(1926年‐2013年)は、経済学者。慶應義塾大学名誉教授。政府税制調査会会長(1990年‐2000年)、内閣府規制改革担当顧問などを歴任した。本学会第4代会長としての任期は、1989年から95年まで。ちなみに、第5代から第10代までの学会長は、立正大学教授、藤井隆氏、東京工業大学教授、熊田禎宣氏、東京大学教授、廣松毅氏、法政大学教授、黒川和美氏、東京工業大学教授、原科幸彦氏、東京大学教授、大西隆氏がその任に当たった。
本学会につきまして、会長の細野助博氏にお話を伺いました。
Q1: 細野会長は、貴学会を非会員にご紹介されますとき、どんな風に説明をしておられますか。
日本はいま、未曾有の大震災を経験し、先進国の中で一足早く人口減少・超高齢社会を迎え、解決の糸口さえ見つからない財政赤字からくる経済的不安感に苛まれています。そうした中で、数理的・普遍的な羅針盤としての「計画」を、現場の地域個別の問題の解と融合させて、例えば、現在の国家的な課題である「地方の時代の実現」などの「行政」につなげて行こうとしているのが、日本計画行政学会の役割です。
(ここから、本学会の設立趣意を少しだけ引用致しますが、)これまで、国、そして、地方行政は、行財政の長期計画、国土の形成計画、そして「経済社会発展計画」などの経済計画や、各種の地方計画を計画・立案して、それらを行政主体として実施してきました。大学、研究機関、各省庁、地方公共団体においては、こうした「計画行政」の研究に、たずさわる方たちの数も増加しています。そうした中で、行政・管理における「計画」についての技術的手法の研究や、それら計画の、行政過程・実施過程についての経験は、とみに充実してきたと言えるでしょう。そして、これらを一貫して一つの体系として、一つの学問、一つの学会として形成しようとする努力は、これからも続けられなくては、なりません。
「計画行政」という分野の特徴は、理論研究 → 計画の決定(実施モデルの策定)を経て、その先に、行政過程 → 実施過程 → 再び(実施を経験した上での)理論研究、というフィードバックがあることです。このことにより、計画体系は、一つの完結した、自律的な発展力をもった学問体系となっていきます。
しかし、理論(計画)と実践(行政)の融合は、足し算ではなく、掛け算です。ですから、結果が「ゼロ」になるという怖さも、あわせ持っているのです。複雑な現代社会ですから、さまざまなアプローチが必要です。既存のディシプリンだけで対症療法的に、割り切った考え方をしなくてはいけないという制約は、全くありません。「文理」の、どちらが優位というのではなく、想像(イマジネーション)に溢れた解決方法を創造(クリエート)して課題に取り組み、どういう提言が出来るのかを考えるのが、私たちの役割だと考えています。例えば、昨年の日本計画行政学会第36回全国大会の「プログラム」(2013年9月、宮城大学)をご覧頂ければ、本学会の視座とアプローチの多様さについて、ご理解頂けるのではないかと思います。
なお、本学会では機関誌「計画行政」を、年4回発行しています。また、8つの支部活動と専門部会では、本学会の特色である総合的分野に関する自主研究や、委託研究などを活発に行っています。
Q2: 細野会長のご研究の概要と、現在関心をお持ちの内容をご説明下さい。また、会長は、どんなきっかけで、この学会に入会されたのでしょう。
私は、慶應義塾の大学院経済学研究科、修士課程を修了して、日本ユニバックに就職しました。そこで研究員として、統計のためのプログラム開発や、企業マーケティングなどの仕事を経験しました。その後辞職し、筑波大学大学院の社会工学研究科博士課程(都市・地域計画専攻)に、フルタイムの学生として入学したときに、初めて本学会の関東支部に参加して、私と本学会の接点ができました。それ以来、私の研究発表の主要な機会となっているのが本学会です。「計画行政」の様々の理論やアプローチも、本学会で学びました。2002年に、本学会の学術賞・論説賞を受賞したことは、それまでの 20年間の研究について、自信を持つ良い機会にもなりました。
専門は、社会工学です。産業組織論、公共政策論、コミュニティ政策、都市政策論などに亘りますが、細野助博研究室の学生からは「先生の専門は、よく分からない」と評されています(笑)。
近年では、依頼を受けて、財務省財政制度等審議会や、人事院、経済産業省、厚生労働省の懇談会委員なども歴任していますが、多摩川流域のコミュニティとのご縁が深く、地元の会合に、できるだけ足を運ぶようにしています。その一例になりますが、「学術・文化・産業 ネットワーク多摩」では、専務理事を務めております。ネットワーク多摩では、大学や自治体、企業などの数十の組織が協力して、多摩地域の活性化のために事業を創造しているのですが、広く市民を巻き込みながら活動を進化させているところに特色があります。
こうした機会に、ただ答えを住民に教えるだけなら効率的です。会議も、単に教えるだけの会議なら短期間で終わるのですが、そこに足を運んで、じっくりと語り合う。それは、住民の皆さんが答えを自ら見つけて自ら動くようになるまで待つための大切な時間だと考えています。
Q3: 今後の貴学会の向かわれる方向について、お尋ねしたいのですが。
本学会は、本年度5月の総会をもって、一般社団法人に衣替えをしました。(英文名も、Japan Association for Planning and Public Managementに改めました。)これを機に、中山伊知郎初代会長を中心に編まれた学会発足時の設立趣意に、もう一度立ち返ってみたいと思います。それは、40年近い学会活動の原点を再確認し、その伝統の重さを誇りにして、本学会自らが社会から求められる使命に関する新たな方向性や広がりを発見する段階にある、と考えているからです。
設立趣意で明確に述べられているように、本学会の使命は、学問と実践の融合、理論と技法の融合、官と民の越境と協働、文と理の学問の壁を超えた交流と融合によって、計画行政の学問体系を構築することです。「計画」の理論と技法を開発し、検証する場を学界や社会の現場において提供し続けるためには、持続可能な学会でなくてはなりません。本学会が一般社団法人になった目的の一つは、「学際・文理融合の学会組織として持続可能な学会」を目指すためでした。持続可能であるために、財務体質の改善、安定にも尽力して参りました。
大震災を経験した日本では、計画の実践課程において、スキルアップした行政の方々が大勢、必要とされています。本学会の使命の一つである「学問と実践の融合」に関して、私たち専門家は、現場にいる方々との連携、コラボレーションを図っていきたい。その目的のために、これからの全国大会などの機会に、例えば、多摩地区の自治体の行政の方々に登壇して事例を発表していただき、その内容に、理論の専門家の人たちがコメントする。このような形での、学問と行政の係わりも、今後の学会の大切な役割であると位置づけています。言うまでもありませんが、地元の意思を一番良く理解できるのが、本学会の支部を担う会員です。今後は、学会の持つ経営資源を支部活動に積極的に投入することで、分権的な活動体制を、従来以上に進めたいと考えています。
そしてまた、本学会の使命の一つである「計画・行政・管理の普遍性を追求する国境を超えた交流と協働」のために、本学会では、海外の学会との連携、コラボレーションを今後、深めて行きます。英文のジャーナルも計画中です。このような、国内外の学会との幅広い交流を深めるためにも、法人化は必要な改変でした。
海外の学会との連携については、アジアには、日本の失った文化の豊饒性と多様性が、まだ失われずに残っています。その価値を、彼らに伝える必要もあるでしょう。ジェンダー・男女の役割の違いなども、ライフスタイルの変化によって変わってきます。少子化の問題は、日本に続いて韓国でも、大きな問題になってきました。そうした中で、日本には、日本の行った行政の経験について、良かったこと、そして、同時に間違っていたことについても、理論化して海外に伝える責任があると思うのです。それらは、特に中国、そして他のアジア全域に対して、ベンチマークになることでしょう。
そして、海外の学会との今後の連携において、重要になるのが海外からの留学生の存在です。本学会では、支部活動などを通じて、若手研究交流会にも力を注いでいます。こうした交流を通じて、彼らが将来の国際間の交流の礎になってくれることが期待されます。
このようにして、学会発足時の設立趣意に、もう一度立ち返るための工夫を、本学会では現在、精力的に進めています。なによりも、会員の専門領域の拡充を進めて学会としての学術的水準の向上を図り、学際性を強化することが、そのための出発点になるでしょう。力強くこれを推進するために、従来からの理事会の学術委員会、編集出版委員会の他に、新規に、財務委員会、法務委員会、行政支援委員会、国際交流委員会などを立ち上げて、機能的な組織体制を確立しようとしています。こうした、「文と理の学問の壁を超えた交流と融合」への推進については、横幹連合参加学会の皆さまにも、参考にしていただける部分が大いにあるのではないかと考えています。