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横幹連合ニュースレター
<<目次>> No.044 Feb 2016 |
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巻頭メッセージ |
活動紹介 |
参加学会の横顔 |
『横幹〈知の統合〉シリーズ』刊行に寄せて * 横幹連合副会長 学習院大学 法学部教授 遠藤薫 |
第46回横幹技術フォーラム |
第6回横幹連合コンファレンス参加報告 |
イベント紹介 |
ご意見はこちらへ |
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◆第7回横幹連合コンファレンス |
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巻頭メッセージ
『横幹〈知の統合〉シリーズ』刊行に寄せて
横幹連合副会長
学習院大学 法学部教授 遠藤 薫
2016年4月に、いよいよ、横幹『知の統合』シリーズの最初の二冊を、皆さまにお届けできる運びとなった。これから、このシリーズは、横幹、正式には「横断型基幹科学技術研究団体連合」から社会に向けての、メッセージ発信のための媒体となるはずである。
最初の一冊は、『〈知の統合〉は何を解決するのか‐モノとコトのダイナミズム』というタイトルで、このシリーズが全体として目指すところを、歴代の会長・副会長が詳しく論じている。そこには、「知の統合」をめざす熱い想いが、ぎっしりつまっている。本書の読者たちに、それが少しでも伝わり、それを共有して下さるなら、このシリーズの目的は達せられたと言っても良いかもしれない。
ここでは少し、そうした横幹についての私の思い出話から、始めさせていただきたい。
ご承知の通り、横幹に参加している学会の多くは、工学系の学会である。その中で私が所属しているのは、「社会情報学会」という文理融合系の学会であって、私自身の専門分野は、「社会学」という文系の学問領域である。そうした文系の人間も、横幹の活動に関わらせていただいている、ということからも、横幹に「知の統合」という理念が深く根ざしていることが分かるだろう。
私が、最初に横幹に関わったのは、正式な発足の前だった。2002年11月29日〜12月2日の四日に渡って、大磯のプリンスホテルで、「JST異分野研究者交流促進事業フォーラム『横断型基幹科学技術』‐技術の新しい基礎を求めて」が開催されている。私も、その場にお招きを受けた。フォーラムのコーディネーターを務められたのは、横幹第二代会長の木村英紀先生だった。
その日は、ひどく寒い日で、冬の海に雪がちらついていた。けれど、会場内は熱気にあふれていた。文理を問わず幅広い分野から、たくさんの研究者が集まっていた。大学や研究機関の研究者だけでなく、企業からも多くの方が参加していた。朝日新聞と毎日新聞の論説委員の方による講演も、興味深いものだった。
当時、日本学術会議の副会長(注)であった社会学の吉田民人先生も、「<新科学論>の立場から:文理融合型の設計科学」というタイトルで、熱弁をふるわれた。吉田先生は、もう亡くなられたが、いまもその講演を懐かしく思い出す。私も「環境としての情報空間‐社会技術・環境技術における横断型の役割」というタイトルで講演をさせていただいた。今までになかった新しい学問運動が始まるのだと、わくわくした。
2005年11月には、長野市のJA 長野県ビルで、第 1 回横幹コンファレンス「知のダイナミックデザイン」 が開催された。276人の参加者を集めて、盛会となった。このときの「コトつくり長野宣言」はメディアでも取り上げられ、横幹の人びとは意気盛んだった。私も「社会的知のダイナミクス」というタイトルで講演させていただいた。
翌2006年12月には、東京三田のキャンパスイノベーションセンターで、第1回横幹連合総合シンポジウム「統合知の創成と展開を目指して」が開かれた。私も、セッションのオーガナイズを任され、「コトつくりの理論とデザイン‐社会知が組織する」というセッションを企画した。社会科学系の方々が中心だったが、横幹の趣旨からして、やはり理工学系の方にも入っていただこうということで、白羽の矢が立ったのが、出口光一郎先生だった。出口先生は、画像情報処理分野の大御所であり、最初から横幹の中核にいらっしゃったし、厳しいご意見も、はっきりおっしゃる方とお見受けしていた。それで、そのセッションに出口先生に加わっていただくことは、光栄でもあり、また緊張することでもあった。しかし、実際に講演をうかがうと、専門的な深いテーマを、平易な語り口で、興味深く、むしろ楽しく論じていただき、とても感銘を受けた。やはり、「横幹」は素晴らしい場なのだと改めて確信した。
横幹では、吉川弘之先生、鈴木敏久先生、安岡善文先生、舩橋誠壽先生など、さまざまな方にお世話になったし、思い出も書ききれないが、それはまた別の機会に譲ろう。
以上、個人的な感慨を書き連ねてしまったが、この機会に、私が横幹の皆さまに是非とも申し上げたいのは、横幹は、優れた科学を目指しているが、科学は人間味あふれる素晴らしい研究者の方々によって紡ぎだされる、ということなのである。横幹が目指す、新しい統合知へのビジョンを改めて考える契機として、冒頭に紹介した、横幹『知の統合』シリーズ『「知の統合〉は何を解決するのか‐モノとコトのダイナミズム」を、横幹の皆さまにも、また一般社会の若い方々にも、是非とも役立てていただきたいと願っている。
そして、4月に刊行される本シリーズのもう一冊、『カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係』についても、少しだけ紹介をしておきたい。
この本が生まれるきっかけは、2013年の第5回横幹連合コンファレンスであった。横幹連合コンファレンスとは、横幹に参加している学会会員が分野を超えて研究発表を行うもので、この年は「うどん県」で知られる香川県高松の香川大学で開催された。横幹連合では、隔年で横幹コンファレンスと総合シンポジウムを交互に開催しており、ご承知の通り、発表論文の中から優れた論文に「木村賞」を授与している。2013年度の受賞作の一つが、本書にも執筆いただいた大倉典子氏(日本感性工学会)による「感性価値としての『かわいい』」であり、「木村賞」の審査委員長を務めたのが、筆者の遠藤であった。その受賞後に、大倉氏から「感性工学と社会学で、何かコラボできるといいですね」と言われたことが、一つのきっかけとなった。
それを受けて、2014年度の第5回横幹総合シンポジウムで、遠藤が「人間社会(2)~『カワイイ』文化は新技術・新産業を創出するか~」というセッションをオーガナイズすることになった。このセッションは、上記の大倉典子氏、出口弘氏(日本シミュレーション&ゲーミング学会)、そして、周東美材氏(社会情報学会)と遠藤(社会情報学会)の4名で構成され、会場での議論には、武田博直氏(日本バーチャルリアリティ学会)も加わって、大変に盛り上がった。本郷のカレー屋さんでお昼を食べながら、さらに議論は尽きることなく続いたのだった。
このときの「カワイイ」をめぐる議論は、第5回横幹総合シンポジウムから、さまざまな方向へと発展した。まずは、この『知の統合』シリーズの一冊として成果をまとめることになった。執筆者として、セッションでの講演者に加え、会場から議論して下さった武田氏、それに、サブカルチャーを産業論の立場から論じておられる田中秀幸氏(社会情報学会)に加わっていただいた。
2015年4月には、ACMCHI 2015(Conference on Human Factors in Computing Systems)がソウルで開催された。ACMのSIGCHIが主催するCHIは、HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)系の専門の学会の中で、最大規模の学会である。ここで、「カワイイ」のセッションが開かれることになった。
また、2015年6月には、日本感性工学会で、大倉氏が主催する「カワイイ」のシンポジウムが開かれた。
さらにその後、情報処理学会から、大倉典子氏・菅谷みどり氏に「かわいい」をテーマとした特集企画の依頼があり、情報処理学会の学会誌である『情報処理』2016年2月号に、全体で40ページ近くに及ぶ特集として掲載された。
また、周東氏は、2015年10月、岩波書店から『童謡の近代』を刊行された。
「かわいい」文化が、多くの人にとっての「気にかかる」潮流であるからこそ、このような展開が起こったのだろう。今後は、社会論、文化論、経済産業論などを含めての「カワイイ」研究を、さらに発展させて行きたいと考えている。そうした、分野を超えた幅広い研究の展開の基盤となるというのも、まさに「横幹」研究の優れた特性であり、重要な学問的役割であるのだろう。
そして、横幹〈知の統合〉シリーズは、さらに続々と刊行される予定である。
いま出番を待っているものとしては、(まだ、すべて仮題であるが、)『横幹の人材育成』、『ロボットは人間のトモダチか?』、『データ・サイエンスから見る新しい現実』などである。そして、その後も、横幹らしい学問のフロンティアを切り開く書物を、どんどん世に問うていきたいと考えている。皆さまにも、ご協力をお願いすることがあると思う。その節には、どうぞ宜しくお願いします。
また、本シリーズの目的である、横幹知を広く社会に知らしめるためにも、会員学会の皆さまに本シリーズの書籍を手にとっていただき、周囲の皆さまにもご紹介いただければ幸いである。
重ねて、どうぞ宜しくお願い致します。
(注)この当時、日本学術会議会長を務められていたのが、初代横幹会長の吉川弘之先生でした。