横幹連合ニュースレター
No.044 Feb 2016
<<目次>>
>■巻頭メッセージ■
『横幹〈知の統合〉シリーズ』刊行に寄せて
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横幹連合副会長
学習院大学 法学部教授 遠藤薫
■活動紹介■
●第46回横幹技術フォーラム
■参加学会の横顔 ■
第6回横幹連合コンファレンス参加報告
■イベント紹介■
◆第7回横幹連合コンファレンス
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
No.044 Feb 2016
参加学会の横顔
毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーですが、
今回は、第6回横幹連合コンファレンス(2015年12月5‐6日開催)参加報告をご紹介します。
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第6回横幹連合コンファレンス 参加報告
ホームページ: http://www.trafst.jp/conf2015/index.html
安藤 英由樹
(大阪大学)
2015年12月5日(土)‐6日(日)の2日間、名古屋市にある名古屋工業大学にて、第6回横幹連合コンファレンスが開催された。
今回の「サスティナブル・イノベーションのための智」という統一テーマは、横幹連合が根幹とするイノベーションの継続的推進について、次の10年を更に見据えたものであった。
筆者は、今回の企画・事業委員を担当しており、若手研究者の裾野を広げるようなセッションを考えて欲しいという課題を課されたこともあって、ここでは、むしろ挑戦的なアプローチによって、現在の若手が今どのような状況に置かれているか、ということを明確化できないだろうかと考えみた。このため、「若手研究者(にとって)の障壁は、なにか?」というタイトルのもと、小講座制で助教を勤める大阪大学の古川正紘先生、講座制を廃止した筑波大学で助教を勤める橋本悠希先生、そして、企業で研究員として勤務しているNTTコミュニケーション科学基礎研究所の黒木忍さんの3名をパネラとするパネルディスカッションを行うことにした。初めに各登壇者の自己紹介があり、その後、幾つかのトピックスについて一問一答式に各自の状況を説明してもらった。例えば、「講座制・非講座制について」では、(阪大の)講座制では、各教員が獲得した外部資金を中心として学生にテーマの割当等が行われ、担当している学生はあるものの、基本的には全ての教員が研究室の学生全員を見ていること。それに対して、(筑波大の)非講座制では、それぞれの教員が独立した研究室を持っていることから、その研究室の教員のみが実質的に配属された学生の全てを見ているといった、夫々の研究規模による構造の違いが明らかになった。更に、現在(阪大の)講座制の場合には、助教は講義を持たず、主に学生実験などの管理を担当するのに対して、(筑波大の)非講座制では、助教が講義を持つこともあるという。このように、大学内での助教の役割分担には若干の差が見られた。また、「上司との関係」については、阪大の某教授は語気が強いために、学生がパワーハラスメント、アカデミックハラスメントのように受け取る場合がしばしばあり、理不尽さを感じているので、これをケアすることが重要であるなどの話題が提供された。これに対して、企業の場合は、上司から時間を貰うことがなかなか難しいことなどが指摘された。また、「ここ一年で理不尽と感じたことは何か?」という問いに対して、筑波大では突然説明もなくやらなければならない仕事が押しつけられたというケースに不満があり、慣習的ではなく前もっての説明が欲しいという意見が出た。また、企業の場合は、課外的な(学会などの)活動を行った際の説明資料書類が非常に煩雑になり、そのことで研究時間が奪われることに不満があったようである。さらに学務・雑用については、増えることはあっても減ることがないという共通した問題があり、どの教員も以前より仕事が増えていると感じているようであった。そして、こうしたことが本人の研究モチベーションを低下させていることについて、共通の認識が持てたように感じられた。また、フロアの重鎮の先生方からも、昔に比べると研究環境が悪化していることや、大学自身が外圧にさらされていることから研究費の使い方の監視などについては止むを得ないこと、そして、学生の対応に助教が苦労していることを改めて認識した、などの意見も頂くことができた。このように、研究についての環境や、上司との関係、モチベーションへの影響などの問題は、その問題の所在を大学の「助教」や企業内の「若手研究者」の視点に「ずらして眺める」、つまり、横断的な視点にずらすことによって、研究の障壁という大きな問題についての深い議論が可能になったと考えられる。このようにして、セッションは盛況のうちに終了した。筆者は、今後もこういった「中身をかき混ぜる」内容のセッションを提供して行きたいと考えている。
次回の第7回横幹連合コンファレンスは、2016年11月18日(金)から20日(日)に、慶応大学 矢上キャンパスで行われる予定である。
<編集室追記>
横幹連合では、「横断型基幹科学」の発展と振興を図るため、当初から「コトつくり」を提唱して来た。これを踏まえ、また更に次の10年への橋渡しの意もこめて、今回の第6回横幹連合コンファレンスの統一テーマには「サスティナブル・イノベーションのための智」が掲げられた。「智」という言葉には、知識を収めるだけでなく、物事を判断して適切に対応する段階が表現されているという。このため、本大会の藤本英雄実行委員長は、このコンファレンスを、各会員学会が有する課題とその解決に関わる知識を深化・共有化・普遍化するための交流の場であると位置づけた。そこで、ここでは、社会システムの構成要素である ①ヒト、②モノ、③サービス、④組織、⑤社会、に視座を置き、本部企画の「先達セッション」と実行委員会企画の「若手研究者セッション」の特別セッションに併せて、5つの領域 ①ヒトの課題解決と実践、②モノの課題解決と実践、③サービスの課題解決と実践、④組織の課題解決と実践、⑤その他の課題解決と実践が、オーガナイズドセッションとして企画された。このほかに一般講演も、大変盛況に講演された。
また、基調講演として、国立長寿医療研究センターの名誉総長 大島伸一氏から「社会・科学・技術について」と題して、科学のための科学ではない、学術研究と社会のあり方についての含蓄ある講演が行なわれた。このほか、株式会社みかんぐみ代表取締役 加茂紀和子氏による社会特別講演「人と建築と」、快友国際特許事務所弁理士 小玉秀男氏による技術動向講演「3Dプリンタの創作過程、当時の評価、特許の失敗」、そして筑波大学数理物質系化学域准教授 北将樹氏による挑戦若手講演「切れ味の良い分子を自然界にもとめて」という、幅広く多方面の切り口からの講演が行なわれた。
参加者の年齢は若干高めではあったが、若手研究者にとっても非常に刺激になる、満足度が高い講演会であったという評価が聞こえている。特に若手の研究者たちが、次回の慶応大学 矢上キャンパスでの「第7回横幹連合コンファレンス」(2016年11月18日-20日)に参加され、是非、横串の議論に加わって頂くことが強く望まれる。