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ニュースレター編集室■
武田 博直室長(VRコンサルタント、日本バーチャルリアリティ学会)
小山 慎哉副室長(函館工業高等専門学校、日本バーチャルリアリティ学会)
高橋 正人委員(情報通信研究機構、計測自動制御学会)
岡田 昌史委員(東京工業大学、ロボット学会)
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稲田 和明委員(東北大学)
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横幹連合ニュースレター
No.045 May 2016
TOPICS
1)会誌「横幹」が電子ジャーナル化され、J-STAGEより無料公開されています。
最新号(第10巻第1号)2016年4月15日発行を公開中です。
詳細は、こちらをご参照ください。
2)横幹連合編〈知の統合〉シリーズ(東京電機大学出版局)が刊行されました。(以下の □ COLUMN参照)
第1巻「〈知の統合〉は何を解決するのか モノとコトのダイナミズム」第3巻「カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係」
各1944円(1800円+税)
3)次回の「第47回横幹技術フォーラム」のテーマは、「第4次産業革命に向けたサービス科学の役割とビジネス応用に向けた課題」です。
日時:2016年5月31日(火) 場所:日本大学・経済学部 7号館講堂(JR水道橋駅・歩5分)
詳細は、こちらです。
横幹技術協議会会員企業の 関係者、横幹連合会員学会の正会員、学生は無料。資料代、1000円。
COLUMN
新著「〈知の統合〉は何を解決するのか」のご紹介
武田博直(横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャル・リアリティ学会)
横幹連合は、2003年の4月に発足しました。
それ以来、横幹連合が起源となるキーワード、「ものづくりからコトつくりへの転換」「知の統合による価値創造」などは、国の科学技術基本計画や企業の製品開発戦略の理念に取り入れられるなどして、
社会に一定の影響力を与えています。
しかし、基礎科学の横幹科学(横断型基幹科学)そのものは、消費者に直接見える「モノの形」としては現れ難く、技術としても認識し難いので、こうした横幹技術の特性から、
残念ながら、横幹連合の組織自体の発展につながっていないことも指摘されています(鈴木久敏会長「あいさつ」より引用、注1)。
「横幹科学」は、確かに説明することが難しい概念です。しかし、このほど「横幹連合編〈知の統合〉シリーズ」が書籍として刊行され始めました。本シリーズによって、
社会一般の方がた、特に、これから「科学技術の体系」を学び、将来、社会に「開発者、研究者、サービスの提供者」として巣立って行く学生諸君にとっては、
横幹科学のキーワードである「知の統合」などが具体的に何を示し、何を解決しようとしているのかが、明確に把握できる手掛かりが提供されたと言えるでしょう。
本シリーズの刊行に際して、出口光一郎氏は、現在は「第四の科学革命」が必然とされている時代だと説いています(注2)。
古代には権力者の権威、中世には生存のための工夫、近代には生活者の利便化のためなどの目的で製造されてきた「人工物」でしたが、
(本書の吉川弘之氏による指摘を引用すると)人工物の「技術的な可能性が大きくなりすぎて、生存欲求との関係が見失われてしまう」という段階に至り、
「何の配慮も必要としない恩恵であった(はずの)地球環境」までも傷つけて、なんと、人類の「生存を人工物が脅かす」という極めて深刻な事態に直面しています(注3)。
考えてみれば、中世には、(例えば)教会の権威で重いもののほうが早く落ちるに決まっているとされていた教科書的学問が、
ガリレオなどによる実験でくつがえされて当時の科学が「破たん」したことで、それまでは「神の御業を証明するため」にあった科学が、
自然法則の数学による解釈などで「生活の役に立つ」工業製品の誕生を促す「科学の再構造化」(第三の科学革命)を起こして、今日の科学が誕生したのでした。全く同じ理由(科学の破たん)から、
今「新たな科学革命」が必要とされる時代になってしまっているのです。なにしろ、
今日までの工業製品は「人間の生存にとって不可欠な人工物」なのだから「作れば作るほどよいもの」「全力を挙げて作り出すべきもの」だと、これまでは考えられて、無反省な開発が続けられてきました。
ところが、そのように人工物を、全力を挙げて作り続けることは、はたして地球環境の持続可能性と対立することではないのか、
それら人工物は本当に必要なものなのかどうかを「計測・評価」しなくてはいけない事態に立ち至ってしまっている、というのです。
ところで、まだ一般の社会人、学生にとって、人工物の価値を「物理」によってではなく「価値」によって測るといったような耳に馴染みのない学問や、
製造産業とサービス産業の統一について学ぶといった機会は、それほど多くありません。
というか、これまでは、東京大学人工物工学研究センターや産業技術総合研究所などの中での(表現が直裁で、ごめんなさい)あまり世間一般の人たちには知られていない優れた研究成果でしかなかったために、
たまたま論文を目にすることができた人たちはびっくりするのですけれど、
そもそも、まだ学校では教えられたことのない学問でした。このような横幹科学を世に広めるために、こつこつと 2003年から続けられてきたのが横幹連合の活動です。
そして、満を持して出版されたのが、シリーズ第一冊目の本書「〈知の統合〉は何を解決するのか モノとコトのダイナミズム」(注4)でした。
本書には、知の統合のさまざまな事例が紹介されています。
例えば、地球環境の持続可能性を計測する「フューチャーアース」という全世界的な地球科学などの研究者の協働活動が始まっているそうなのですが、ここでは従来の学際(interdisciplinary)科学だけではなく、
trans-disciplinaryの(学者だけではなく一般人も利害関係者として研究に口を出す)体制が取られているそうです(注5)。
つまり、地球の持続可能性を探るという本プロジェクトにおいては、その成果が地球環境全体や人類の生存に影響する内容であることから、一般人という利害関係者もここに参加して、
プロジェクトの評価や最適化の立案に力を貸すことが求められているのです。こうしたアプローチが科学研究に必要だというような話は、
そもそも、これまでのどこの学会でも、学会の内部からは議論されたことがありませんでした。(だから、横幹連合がこれを支援・告知しているのです。)
また本書には、統合的なサービスシステムのイノベーションに関して、豊富なシステムモデルの数々が舩橋誠壽氏の労作として紹介されました(注6)。
この章は、サービス産業と製造産業のシステムを新しい視点から同時に学べるまたとない機会であると思います。
また、出口光一郎氏は、システム科学技術の制御・最適化について、モデルの作り方ひとつで見通しがぐっと良くなるポイントを分かり易く解説しました(注7)。
このほか、社会情報学の分野からは遠藤薫氏の提言、Internet of Things(IoT)の概念を拡張した Internet of Monosという世界が、
性能は良いけれどつながる相手を失ってしまった日本の(携帯電話などの)ガラパゴス化したテクノロジーにとって、そのままで新たなつながりを見つける方法として機能するのではないか、という注目すべき指摘も掲載されています(注8)。
このように、横幹連合による活動は、基礎科学の分野で刮目すべき成果を既に多数挙げているのです。
本書には、また、木村英紀氏が「ことつくり」の起源が横幹連合にあることや、その展開の今後の可能性を指摘されているのです(注9)が、本書によって、横幹科学を理解する人が増えるようになることを心から喜びたいと思います。
例えば、企業の製品デザイン部門などでは、「ことつくり」の活用として、製品のデザインプロセスにエンドユーザの視点や物語を取り込むことのできる優れた職人がこれから増えて行くのではないでしょうか。
ところで、本書では、また新たな、「横断型基幹科学技術」と、既存の学問分野、物理学・工学・人文社会科学などとの関係図が示されました。
鈴木久敏氏が、本書でマネジメント技術の観点からコトつくりを論じ、この中に、新しい関係図を掲示しています(注10)。
この図については、本稿の最後に転載しますが、これを見れば、人類の生存を人工物が脅かすことについての(起こって当然の)議論が、どうしてこれまで、既存の自然科学の学会活動の中から出て来なかったのかが明瞭に理解できるでしょう。
既存の学会活動の改善ではなく、科学に対する全く新しいアプローチが、じつは必要とされていたのです。
ところで、同時に刊行された、同シリーズの一冊「カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係」は、
「かわいい」(Kawaii)について、社会科学、情報工学、感性工学、バーチャルリアリティなどの視点から縦横に論じたユニークな書籍で、まさに横幹連合の学際性を際立たせた一冊です。
詳しくは、横幹ニュースレター前号の巻頭メッセージ 「『横幹〈知の統合〉シリーズ』刊行に寄せて」(遠藤薫氏)をご参照下さい。
最後にここで、上に記した、鈴木久敏氏による「既存の物理学・工学・人文社会科学ほかの学問領域と、横断型基幹科学技術の関係図」をご覧いただいて、本書「〈知の統合〉は何を解決するのか モノとコトのダイナミズム」の紹介の「まとめ」とさせて頂きたいと思います。
なお、本稿の執筆に際しては、東京電機大学出版局の担当者の皆さまに、大変にお世話になりました。心より感謝を申し上げます。
(注1)第4代会長 鈴木久敏氏による「会長あいさつ」(横幹ホームページに掲載、2016年4月採録)
(注2)本書「〈知の統合〉は何を解決するのか モノとコトのダイナミズム」掲載、出口光一郎「横幹〈知の統合〉シリーズ刊行によせて」(出口光一郎氏は、第3代横幹連合会長)
(注3)本書掲載、吉川弘之「人工物観」
(注4)本書「〈知の統合〉は何を解決するのか モノとコトのダイナミズム」(東京電機大学出版局、2016年)は、「横幹〈知の統合〉シリーズ」第1巻
(注5)本書掲載、安岡善文「学際・国際・業際」
(注6)本書掲載、舩橋誠壽「サービスイノベーション‐システム科学技術からのアプローチ」
(注7)本書掲載、出口光一郎「コトを測る」
(注8)本書掲載、遠藤薫「日本のモノづくりとそのメタ・システム化‐ガラパゴス化を超える新たなパラダイム」
(注9)本書掲載、木村英紀「コトつくりからシステム統合へ」(木村英紀氏は、第2代横幹連合会長)
(注10)本書掲載、鈴木久敏「マネジメントとコトつくりの科学技術」
※ 注2~10 の出典は、こちら
横幹〈知の統合〉シリーズ
「〈知の統合〉は何を解決するのか モノとコトのダイナミズム 」
横幹〈知の統合〉シリーズ編集委員会 編
A5判 / 136ページ
EVENT
【これから開催されるイベント】
●ヒューマンインタフェース学会 ヒューマンインタフェースシンポジウム2016
日時:2016年9月6日(火)〜9日(金) 会場:東京農工大学 小金井キャンパス
●日本感性工学会 第18回日本感性工学会大会
日時:2016年9月9日(金)〜11日(日) 会場:日本女子大学 目白キャンパス
●「第7回横幹連合コンファレンス」
日時:2016年11月18日(金)〜20日(日) 会場:慶応大学矢上キャンパス
●精密工学会、日本デザイン学会 Design シンポジウム2016
日時:2016年12月13日(火)〜15日(木) 会場:大阪大学 銀杏会館
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