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山口 俊太郎委員(豊橋技術科学大学)

横幹連合ニュースレター

No.049 May 2017

 TOPICS

  1)横幹連合に「国際戦略経営研究学会」 が参加しました。

  2)会誌「横幹」の最新号(第11巻第1号、2017年4月15日発行)は、こちらをご参照ください。

  3)経済産業省の製造技術実態調査に協力した「第4次産業革命とシステム化委員会」の2016年度活動報告書が作成されました。

  4)第8回横幹連合コンファレンスは、12月2、3日に、立命館大学 朱雀キャンパス(京都市)にて開催されます。

  5)横幹連合編〈知の統合〉シリーズ「価値創出をになう人材の育成‐コトつくりとヒトつくり」が刊行されました。

 COLUMN

第49回横幹技術フォーラム 「ビジネスイノベーションが先導する第4次産業革命(IoT/インダストリアル4.0)の実現に向けた産・学・官の役割と課題とは」のご紹介

  採録・構成 武田博直 (横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャルリアリティ学会)

◆総合司会 藤井享 (㈱日立製作所・横幹連合産学連携副委員長)
◆開会あいさつ 桑原洋(横幹技術協議会 会長)
◆講演1 「IoT時代のビジネスプロデュース戦略」
三宅孝之(株式会社ドリームインキュベータ 執行役員)
◆講演2 「ビジネスイノベーションを生み出す価値協創手法」
馬場健治(株式会社日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービスデザイン研究部 部長)
◆講演3 「IoT市場の本質と市場獲得戦略 ‐日系電子部品メーカーを対象とするインタビュー調査から‐ 」
近藤信一(公立大学法人 岩手県立大学 総合政策学部 専任講師)
◆講演4 「BtoB におけるプラットフォームビジネスの競争優位戦略」
丹沢安治(中央大学大学院戦略経営研究科 教授、国際戦略経営研究学会 会長)
◆パネルディスカッション
パネラー:講演者の皆様
◆閉会あいさつ 鈴木久敏(横幹連合会長)  (敬称略)

 日時:2017年3月2日
 会場:日本大学経済学部 7号館講堂
 主催:横幹技術協議会、横幹連合

プログラム詳細のページはこちら

  2017年3月2日、日本大学経済学部7号館講堂において、第49回横幹技術フォーラム「ビジネスイノベーションが先導する第4次産業革命(IoT/インダストリアル4.0)の実現に向けた産・学・官の役割と課題とは」が、行なわれた。総合司会とパネルディスカッションの司会は、藤井享氏(日立製作所、横幹連合産学連携副委員長)が務めた。
  講演の内容を紹介する前に、まず「第4次産業革命」や「インダストリー4.0」が「どういうコトを指しているか」についての解説を、できるだけ簡単に済ませる目的で、「ネット通販」の楽天や Amazonなどで、工事代金込みの「エアコン」を一般生活者が購入する場合を例として、最初に考えてみたい。ちなみに、こうしたネット通販会社は、「B to Cのプラットフォーム・ビジネス」と一般に呼ばれている。通販会社自体は、(一般に)販売している商品を製造しておらず、(1)製造業者(他社、B)と顧客(C)をネット上で「お見合い」させて顧客の注文を取り、(2)商品の在庫確認や工務店への発注を代行し、(3)顧客からその代金を一時預かることなどで取引の手数料を得る、という業務をビジネスにしている。
  例えば、顧客(C)が(1)ネット通販でエアコンを注文して、カードで代金決済を済ませると、間もなく(2)顧客の家の近くの(プラットフォーム会社と契約している)工務店から、電話やネットで「何日にエアコンの取り付けに伺いましょうか?」という問い合わせが来る。顧客は、その日を決めて、あとは施工日に自宅に居るだけの手間で、新しいエアコンを取り付けて貰える。(3)顧客が「工事完了」を確認する書類にサインをすれば、顧客の仕事は終了である。もし、製品の初期不良、工務店の手抜きなどが後で分かった場合には、ネット通販のプラットフォーム会社から各サービス提供会社に「代金支払いの停止」や、その後の「取引の停止」などが通告される恐れを生じるので、トラブルは、きっと前向きに善処されることだろう。
  顧客にとってのエアコンが取り付けられるまでの手間は、上記の通りの簡単なものだが、その裏側ではプラットフォーム会社が、いくつかの関係者にとっての面倒な手続きをシステム的に処理している。(1)(2)においては、最初に、顧客との代金決済手続きの確認をして、その次には、顧客の家の近くの(プラットフォーム会社と契約を交わしている)工務店を選定する。暑い季節のエアコンの発注であれば、なるべく早く施工できそうな代理店を選んであげると、喜ばれるだろう。次に、エアコンのメーカーに発注して(顧客との代金決済は済んでいるので、)与信で工務店にエアコンを送って貰う。工務店には、エアコンの型番と必要な工具の情報が届けられる。顧客の自宅が、一戸建てか集合住宅かという情報も同時に伝えられる。そして、(3)取り付け工事が終了して「工事完了」を確認する書類がプラットフォーム会社に届くと、エアコン・メーカーと工務店のそれぞれに代金が支払われて、取引は終結する。

  ドイツ政府が強力に推進しているという「Industrie4.0」(インダストリー4.0)も、システム自体はネット通販とほとんど同じ仕組みだと考えられている。パソコンの前に座っている操作者(ネット通販の「顧客」に該当する人)には、製造工程や、販売、保守管理の各工程の責任者(マネージャー)などを想定してみると、分かりやすいかも知れない。各講演の内容については、この後に紹介するが、ここでは「講演3、4」でも言及されているドイツの SAP社の ERPパッケージシステムという基幹業務の統合ソフト(注1)の事例を、最初に紹介しておきたい。これに関しては、次のような代表的な事例がネット上で紹介されている。(以下、出典はこちら
  この事例では、ある製造用ロボットメーカのサポートセンターで、納入先のロボットに取り付けられたセンサーからの異常信号を検知した、という場面が紹介されている。(これは、製造用の機械にセンサーを埋め込むことで、納品後にも、その製造現場で機械が正しく稼働しているかどうかを、メーカーのサポートセンターの責任者がリアルタイムに監視・状態把握している、という IoTの事例でもある。詳細は後述する。)ところで、これまでの実績からは、こうした異常な信号が出始めると、3日後くらいにそのロボットが故障することが予測されるのだという。そこで、上述した(1)(2)の流れに当てはめると、サポートセンターの責任者は、今日、明日のうちに誰か保守要員を現場まで派遣して、部品を交換して貰う必要を確認したことになる。このとき、ERPという統合ソフトが上手に組まれていて、保守要員のスケジュール管理システムと連動していれば、ちょうど、エアコンの注文を受けた B to Cネット通販の会社が適当な工務店をすぐに見つけたのと同じように、対応可能な保守要員を、パソコン上ですぐに見つけることができるという。ここでは、ドイツ政府が後押ししている、ということが重要で、(既存の自社の関連会社だけで閉鎖的に、こうしたシステムを運用している会社は多いそうだが、)ドイツの「インダストリー4.0」では、外部の会社も、こうした B to Bのプラットフォーム・システムに(標準化された仕様で)積極的に参加するよう勧められているのだという。すると、製造メーカーの保守要員が全員、出払っているような困った事態でも、同じシステムを操作して社外の保守会社の人たちの能力とスケジュールが確認できるので、適切な人材に作業を依頼でき、交換部品の所在も伝えることができるのだ、という。そして、(3)の段階と同じで、仮にこの同じシステムで、発注書や請求書の発行が自動的に行なわれるようにシステムが組まれているという場合には、修繕作業完了の報告を受けて、工賃の受け渡しも自動的に処理されることだろう。この次に記すが、米国のオートバイ会社ハーレーダビッドソン社が、これと同じような B to Cのプラットフォームを構築して大きな成果を上げたことが「講演3」で紹介されている。それでは、こうした B to Bのプラットフォームで、商品の付加価値やプラットフォームの競争力が、より高まったポイントは、どこにあったのだろう。
  「講演3」の「IoT市場の本質と市場獲得戦略 ‐日系電子部品メーカーを対象とするインタビュー調査から‐ 」の中で、近藤信一氏(岩手県立大学)は、上述の「ポイント」について、米国ハーレーダビッドソン社の「カスタマイゼーション」の事例を挙げて次のように述べた。元々、ハーレーダビッドソン社では標準モデルのオートバイの製造のみを行ない、顧客ごとの改造(カスタマイゼーション)に関する要望は、全部、社外の独立した専門の会社(町の整備屋さん)に任せていたそうだ。しかし考えてみれば、顧客の要望を一番良く生で聞ける大切な現場が整備工場で、しかも改造費で高額を支払っている顧客も大勢いるのだ。そこで、(1)(2)として、本社の製造・販売管理のパソコンシステムに社外の「町の整備会社」のパソコンシステムを直結して、顧客の要望をすべて一元的に、この B to Bのプラットフォーム上で対応することにしたという。その結果は歴然で、これまで顧客がオートバイの改造を要望してから改造が終わるまでの期間が、平均して21日間だったのに、それがわずか「6時間」で済むようになり、本社では、改造の内容(顧客の希望)がどのようなものかという大切なマーケティング情報もリアルタイムで把握できるようになったそうだ。必要な工場の敷地面積も20分の1になり、アルバイトを含めた要員も半分以下になったという。
  この事例では、顧客の要望や、IoT(インターネットに接続されたモノから得られた情報)が、日常の社内の情報一元管理システム(部品在庫管理や、製造工程・品質管理、商品在庫管理、販売管理、販売後の協力会社を含めた保守管理のシステムなど)だけではなく、これまで協力関係になかった外部の会社とも、例えば、インダストリー4.0における「標準的な仕様」のような仕組みを活用して、システムが相互につながったことが非常に重要だとされている。つまり、「ただ、つながった」のとは全く次元が違い、関係する会社のすべてで(協創的に)顧客の注文内容と製品の状態の情報がリアルタイムに共有できたことで、このB to Bプラットフォームは全体が、柔軟な製造システムで特注品を製造できる「マスカスタマイゼーション」のシステムに進化したのだそうだ。これが、商品に他では得られない付加価値を与え、プラットフォームの競争力を高めた理由なのだという。
  近藤氏は、数十社の日本の製造現場を実際に訪問し、国際会議などの場で、アジア・欧米各国の情報も収集して、上記のほかにも数多くのB to Bのプラットフォームの事例を研究してきたそうだが、その結論として、「日系総合電機メーカーに向けた提言としては、(商品メーカーが 楽天や Amazonに通販を委託して利益を上げているように)利益率は落ちるだろうけれど、乗りやすい B to Bのプラットフォームに、自社の商品を相乗りさせるという戦略が、当面は最も賢いのではないか。」「しかし、IoTのビジネス(注2)は、判断の材料が乏しい中で急な経営判断を迫られるという場合がほとんどなので、大企業よりはベンチャー企業に有利な面が多い。残念なことに、多くの日系大企業の幹部の意識が、ビジネスモデルの見直しや大規模な組織変更を伴うことの多いプラットフォームへの接続という面倒な仕事を嫌って、例えば、スマホの次の大きなヒット市場を早くに見つけて経営資源を振り向ければ、自社の得意技術を生かした拡大生産が再びできるはずだ、とするような経営環境の変化を頼みにした業績改善を志向しておられるように見受けられる。このことが日系大企業の弱点になるかもしれない」と述べた。いずれにしても、4.0の改革は、これまで日本が得意としてきた80年代型モデルの製造業(インダストリー3.0)をいくら延長してもそこからは得られない、と近藤氏は述べて、その講演を締めくくった。
  また、近藤氏は講演後のパネルディスカッションの中で、日本の B to Bのプラットフォームの「将来像」は、ビッグデータの活用、IoTの活用などが日本人の得意分野だと考えられるので、そうした成果も取り入れて使いやすいシステムが工夫されて行くのではないか、という提言や、将来の企業間の関係も、従来の下請け、孫請け、といった上下関係から、相互にノウハウを提供しあい、付加価値を協創しあう横の関係になるので、日本の企業関係の将来像を「社会学者」の視点を取り入れて研究することも必要ではないか、という非常に重要な問題提起を改めて行なった。なお、近藤氏は「トレンドになっている IoTには、現在明確な定義が無い」と指摘した上で、そのいくつかを紹介した。
  「IoT:An infrastructure of interconnected objects, people, systems and information resources together with intelligent services to allow them to process information of the physical and the virtual world and react.」(ISO/IEC JTC1)
  「The Internet of Things:sensors and actuators connected by networks to computing systems」(McKinsey)
  「Internet of Things (IoT) is when the Internet and networks expand to places such as manufacturing floors, energy grids, healthcare facilities, and transportation.」(Cisco)etc. (翻訳サービスは、こちら

(注1)ドイツの SAP(Systemanalyse und Programmentwicklung)社は世界第3位の規模の独立系ソフトハウスで、「インダストリー4.0」における B to Bプラットフォームの構築分野では代表とされている企業の一つである。同社は、フォーブス誌が選んだ世界2000社の上位企業のうち87%が顧客であるなどの実績を有し、190ヶ国に32万社の顧客を有しているという。(2016年の実績。) 同社のERP(Enterprise Resource Plannning) パッケージシステムというのは、企業の経営資源の有効活用と経営の効率化を統一的に図るためのソフトウェア パッケージで、基幹業務を部門ごとではなく 統合的に管理できるため、ERPを活用すれば、各部門ごとに個別に構築されていたシステムが統合されて、相互に参照・利用できるようになるそうだ。このため、他部門での作業もリアルタイムに参照できるだけではなく、財務や人事などのデータの一元管理なども可能になると説明されている。

 (注2)IoTビジネスについての事例は多く、その分野も多岐に亘っているので、ここでは「良い概説書を購入して、活用事例を時々キャッチアップする」ことをお勧めして紹介に代えたい。なお、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2015年4月号を再編集した書籍「IoTの衝撃 ‐競合が変わる、ビジネスモデルが変わる」(ダイヤモンド社)掲載の マイケル E.ポーターらの論文では、IoTを導入して、システムのリアルタイムの状況把握ができるような形態にビジネスが変化すると、大きな組織変更が必要になる場合も多いと指摘されている。経営戦略の観点からは、以下の事項などについての判断を迫られることになるという。
(1)採用するセンサーなどの機能や特性。(2)システムの性能やビッグデータへの依存度。(3)開放系か、閉鎖系か。(4)システムは全て内製するか、外注するか。(5)製品やサービスの価値を最大にするには、どういったデータを確保、分析する必要があるか。(6)製品データの所有権とアクセス権限をどう管理するか。(7)流通チャネルやサービス網の一部または全部を中抜きすべきか。(8)ビジネスモデルを手直しすべきか。(9)製品データを第三者に販売して利益を得るタイプの新規事業に乗り出すべきか。(10)事業の範囲を拡大すべきか。(同書 p.149を要約した。)
  また、同書掲載のイアンシティ他著論文によれば、数百人の企業幹部の聞き取りから、IoT化、デジタル化によるシステムの変革においては「従来の方法を破棄する」シナリオは「必要では無い」ことが分かったという。「肝心なのはこれまでの方法を全面的に置き換えることではなく、要素を新たに結びつけたり、組み合わせ方を変えたりすることだ。取引をデジタル化し、データを生み出し、そのデータを新しい方法で分析することによって、今までばらばらに存在していた物、人、活動を結びつけることができる。」このことが、重要なのだという。(同書 p.161) 従って、例えば、米国のGEが目指している新しいプラットフォーム構想の主眼については、「顧客の複雑なオペレーションを最適化する」ことにある、とされているそうだ。(同書 p.165)

  ところで、桑原洋 横幹技術協議会会長は「開会あいさつ」で、「IoTと一言で言っても、例えば『安心安全社会のIoT』と『生産現場の無人化のIoT』では、全然違う。IoTを活用したインダストリー4.0のプラットフォーム・ビジネスについても、『公理』ができていないのではないか」と指摘された。これを受けて、「講演4」では丹沢安治氏(中央大学大学院戦略経営研究科 教授、国際戦略経営研究学会 会長)が、大変に参考になる「創出価値」についての図表を解説した。
  「講演4」の「B to Bにおけるプラットフォームビジネスの競争優位戦略」で丹沢氏は、こんな興味深い事実をその初めに紹介した。ドイツ経営経済学会などで「インダストリー4.0」を研究しているドイツ人の学者たちには「原価計算」の専門家が多く、経営戦略の研究者たちはキャッチアップの途上だというのである。繰り返すが、ドイツでは政府主導で、インダストリー4.0の B to Bのプラットフォーム化が推進されているという。
  ところで、B to Cのプラットフォームの代表とされている Google(ネット検索)、Amazon(ネット通販)、Uber(契約タクシー会社のネット配車)、Airbnb(世界中のユニークな宿泊施設のネット予約)などは、主に民間から自然発生した米国のビジネスで、こうした分野のIoT活用や、デジタル化の中心にあるのは、ビッグデータの積極的な活用であるという。これらの B to C市場でのプラットフォーム・ビジネスの成功を受けて、日本の B to Bの分野でも、GEの「Predix」、日立の「Lumada」(ルミーダ)、ファナックの「Field System」、Trumpf社の「Axoom」、NCネットワークの「EMIDAS」など、自社を中心とするプラットフォーム・ビジネスへの参加と活用を呼び掛ける企業が増えてきている、と丹沢氏は述べた。

  それでは、こうしたプラットフォーム・ビジネスの競争力の源泉は、どこにあるのだろう。「講演4」で丹沢氏はこの問題を、プラットフォーム・ビジネスにおける競争優位は何か?と位置付けて、分かりやすく解説した。
  下の図は、丹沢氏が中央大学ビジネススクールのために作成して「講演4」で紹介した資料(図表)からその一部を抜粋して、武田が作成した。丹沢氏は、この図で、著名な経営戦略の教科書である Besanko他著「Economics of Strategy」第6版などの経営学の根幹の部分を明快に図式化している。なお、この図表のキーコンセプトは、「創出価値」「水平的競争」「垂直的競争」であるという。
創出価値図   さて、そもそも顧客が、どんな理由で「ある商品」を購入するのかと問われれば、それは「販売されている価格と同じか、それ以上の金銭的価値があると考えたから買うのだ」と 丹沢氏は指摘する。例えば、去年買おうか、どうしようかと迷っていた11万円の価格のエアコンが、新型が出たのでネット通販で工事費込み9万円で売りに出されていたと仮定しよう。自宅介護の病人がいれば、価格が20万円でも取り付けていた可能性が考えられるので、この商品の Perceived use value(消費者が内心で支払ってもよい価格)は20万円位だったと想定されるそうだ。ただし、それぞれの消費者の懐事情で、15万円はきついな、あるいは、10万円以下じゃないと払えないよと色々あるので、このPerceived use valueから実際の Price(価格)を引き算した Consumer surplus(消費者余剰)については、大勢の人が「この価格で購入できたのなら、このくらいの得をしたことになる」と考える金額の合計を平均したものになるという。エアコンの新型が出たことでは、市場全体の旧型の価格が下がったことによって、消費者余剰の金額が増大し、旧型の購入を考える人の数も増えたことだろう。この話題については、購入者がネットで注文して 9万円をクレジットで支払えば、顧客についての議論は一応、終わったことになる。一方、Perceived use valueの金額を企業の側から考えてみると、仮に20万円の価格をつけていても少数の購入者は、いたかもしれないのだが、他の企業が同等の商品を11万円前後で売っていたので、価格を11万円にせざるを得なかったことになる。従って、Consumer surplusを企業の側から見たときには、それは Competitive discountだった、ということになるそうだ。 (翻訳
  それでは、この問題を、B to Cネットワーク間での水平的競争として見てみよう。つまり、A社の立場から考えて、そのエアコンを「楽天」に委託するのが良いのか、「Amazon」が良いのか、(あるいは、家電量販店で扱って貰うのが良いのか、)比較してどちらが得になるか、という話である。それで、去年の A社が、楽天と Amazonのどちらでも11万円の定価で新製品をWeb頁に載せていたという事であったのなら、(当然)プラットフォームの取次手数料の安い方が Costsが下がるのだから、Profit(利潤、つまり、Producer surplus 生産者余剰)を多く上げられていた計算になる。しかし、プラットフォーム業者の側では、単純に手数料だけで比較されても面白くないので、例えば、システムの使い勝手を良くするとか、与信の条件を改善する、あるいは、販売画面のレイアウトを印象的にして顧客への販促に努める、などといった企業努力を行なうことになる。( [Profitの平均額]×[販売個数]が、A社の得る粗利益になるのだから、利潤が低くても多く売れれば文句は出なくなるからだ。) こうした努力が、ネットワーク間で見れば、「水平的競争」(注3)の一例にもなるという。また、例えば、製造費用がかなり割高になっても、その製品の体裁が立派で高級感に溢れたものになれば顧客の満足感 Consumer surplusがずっと釣り上がるので、商品価格を、もっともっと高くしても販売できるという「垂直的競争」の戦略もあるという。そして、それとは逆に、(価格が一定の場合に)A社が企業努力で工夫をして商品の原価を安くできたという場合には、A社は「垂直的競争」で価値の奪い合いをしてProfitを増大させたことになるそうだ。さらに、最近では、宅配会社の要員不足から商品の運送Costsが増大しており、これが垂直的競争の一因になっているという話もあるそうだ。
  なお、パネルディスカッションの中で、近藤氏は、丹沢氏の「創出価値」の図表に言及して、(例えば、戦略経営などの)「研究者が、こうした研究を積み上げて行くことで、もしかすると、(桑原会長が言及された)『IoTプラットフォームの公理』に至るのではないか」との可能性を指摘した。

(注3)B to Cのプラットフォームを相互に比較して「成功・失敗」を評することは一概に難しいが、携帯電話の市場での結果は明瞭に数字に出ているという。2007年には携帯の上位5社(ノキア、サムスン、モトローラ、ソニー・エリクソン、LGエレクトロニクス)が世界の利益の90%を押さえていたそうだが、同年にアップルのiPhoneが彗星のように現れた結果、2015年には iPhoneが単独で、全世界の利益の92%を挙げているという。この数字は、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2016年10月号特集「プラットフォームの覇者は誰か」所収の、アルスタイン他著「プラットフォーム革命」という論文から引用したものだが、この論文によれば、この現象は iPhoneが、アプリの開発者と利用者という二つのユーザグループを App Storeという同社のプラットフォーム・サービスの上で引き合わせ、双方に巨大なメリットを与えたためだ、と分析されている。結論として、同論文では、従来型の「参入障壁を差別化の武器」とする(パイプライン型の)ネットワーク・ビジネスの形態ではなく、参加者が自らのケイパビリティ(強み)を生かし、その空間でアイディアやリソースを共有しあう協創型のプラットフォーム・ビジネスの形態に時代が転換しつつあることを強調している。

  ところで、システムにどのようなIoT(ここでは、例えばセンサ技術など)を組み合わせるか、とか、そもそもプラットフォームをどんな仕様で構築するのか、といった超上流の設計段階においては、顧客とシステム構築者の間で、緊密な「すり合わせ」が要請される。B to Bの場合は、顧客というのは プラットフォーム参加企業やクライアント企業の社員であるそうだ。そこでは、紙ベースの情報を、ただ単に突き合わせれば済む、といったことにはならないので、従来型のビジネスでも、システムでの納入という場合には、作業現場の要員が何を判断して、どのように操作すれば良いかについてのシミュレーションが厳密に考慮されていた筈である。
  そうした、すり合わせの問題を、長年の「デザイン思考」という方法で解決して、評判の良いシステムを顧客に納入してきたのが日立製作所だった。「講演2」の「ビジネスイノベーションを生み出す価値協創手法」 で、 馬場健治氏(株式会社日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ サービスデザイン研究部 部長)は、「Business Origami」と名付けられた独自の発想支援ツールを紹介した。これは、専門性の垣根を越えた対話を関係者が繰り返して「サービス=ビジネスモデル」の構築を協創するために、社内で使われているツールであるという。写真があれば一目で内容が分かると思われるので、こちらの43頁の写真を参照して頂きたい。なお、この論文は、日立におけるデザイン活動の歴史にも触れており大変に興味深い。また、日立では、こうした顧客との新しい事業価値の協創を「NEXPERIENCE」と名付けて「ITシステム構築の超上流工程」に位置づけた「EXアプローチ」を全社で進めていると、馬場氏は紹介した。特に、プラットフォームの構築においては、顧客とのすりあわせがシステムの使い勝手の可否を分けるので、こうした協創の方法論を開発することが他社との大きな差別化につながる、と考えられているそうだ。
  それでは、最後に「講演1」の内容を紹介したい。もし、今このニュースレターを読まれている読者が、ご自身が例えば、製造用ロボット補修会社の中小企業の役員だったらどうだろう、と想定してみて頂きたい。あなたの社長からは、「どこの企業の B to Bのプラットフォームに参加するのが良いのか、結論を早く出せ」と、毎日、あおられている。メディアでは、IoTの時代だとか、協創の時代だとか、自分一人が置いてきぼりをくったような論調のニュースが流れている。判断の材料が乏しい中で急な経営判断を迫られて、あせっている自分は、どうすれば良いのだろう。そんな時は、実績のあるコンサルタントに、自社のコンサルテーションを依頼するという選択肢もあるのではないだろうか。 「IoT時代のビジネスプロデュース戦略」というタイトルで「講演1」を行なった三宅孝之氏(株式会社ドリームインキュベータ 執行役員)は、googleのような B to Cのプラットフォーム企業が、「フックでひきつけて、回収エンジンで利益を得る」というビジネスモデルで成功していることを詳細に論じた。googleは、自社の得意技である「検索エンジン」それ自体で儲けることは、決して考えていないという。(つまり、「検索エンジンの精度」という「参入障壁」を武器にしていないということだ。)そうではなく、googleの検索エンジンを活用してWeb頁のアクセス数を増やし、そのアクセス数に応じた「広告料」を別の会社から取ることによって利益を出そうとしたのである。「フック」(意訳すれば「釣り餌」)と「回収エンジン」の分離については、多くのプラットフォームで成功事例が見られるそうだが、「回収エンジン」の作り方が分からなくて苦労する企業も多い、と三宅氏は指摘した。氏は、(アナログ時代の)プラットフォーム・ビジネスの成功例として阪急電鉄創業者の小林一三の事績を挙げ、彼が自らの鉄道会社の起点・終点に、百貨店や宝塚歌劇場を開設して「フック」となし、さらに、沿線を「サラリーマン大衆向け」の田園都市として開発することで「回収エンジン」としての乗客数を増やした鮮やかな手腕を紹介した。当時は、まだ珍しかった「割賦販売による分譲」も、大衆に向けた販売手法として彼が最初に手がけたとされているそうだ。ところで、こうしたビジネスにおける「フックと回収エンジン」の作り方は、事業ごと、企業ごとに異なっているという。それで、新規事業の創造に力を貸しているコンサルタントとしては、まず、現場に何度も何度も足を運んで、IoTのセンサに自分がなったつもりで現場のスタッフの動きや人の流れを的確に把握するのだと説明した。また、新規事業には既存の法律の規制が障壁になる場合も多いので、(三宅氏は経産省の元官僚でもあるので、自身の経験から)「現場の官僚は、この法律のこの条文が新規事業の創造を阻害しています、と事情を説明すれば、法律の改正にも前向きに取り組んでくれる」と語った。頼りになる相談相手ではないだろうか。ちなみに、経済産業省では、「第4次産業革命 ‐日本がリードする戦略‐ 」 を60秒で読める解説にまとめて公開しているという。

  鈴木久敏会長は、閉会のあいさつの中で、横幹連合の提唱が受け容れられて来ており、最近では米国科学アカデミー(NAS)などでも「知の統合」が議論されていることを指摘した。しかし、横幹連合は、その先の時代を見据えて、ポストAI、ポストIoTを含めた人材育成学の確立を考えていることを強調した。また、プラットフォーム・ビジネスの話題に関連して、「(19世紀半ばの米国の)ゴールドラッシュのときに儲けたのは、金を掘っていた人ではなくて、ショベルやテントを売っていた人だった」とするピーター・リンチ(投資家)の言葉を紹介したあとで、「実は、それより、もっと儲けた人たちがいて、それはホテル業者と、鉄道馬車(後には鉄道)の経営者だったんです」と、「フックと回収エンジン」についてのトリビアを紹介し、なごやかな内に、今回の非常に重要な示唆を多く含んだ技術フォーラムを締めくくった。
   

 EVENT

【これから開催されるイベント】

●日本信頼性学会 第39回年次大会/第25回春季信頼性シンポジウム
 日時:2017年5月31日(水) 会場:日本科学技術連盟本部(東京都新宿区)

●日本人間工学会 第58回大会(併催:ACED2017)
 日時:2017年6月1日(木)〜4日(日) 会場:日本大学生産工学部津田沼校舎
   (第58回大会は 6月3日〜4日)

●日本品質管理学会 第130回講演会(中部)
 日時:2017年6月2日(金) 会場:名古屋国際センター別棟ホール

●日本情報経営学会 第74回全国大会
 日時:2017年6月3日(土)〜4日(日) 会場:東京理科大学 神楽坂地区富士見校舎

●日本バイオフィードバック学会 第45回日本バイオフィードバック学会学術総会
 日時:2017年6月10日(土)〜11日(日) 会場:千里ライフサイエンスセンター

●形の科学会 第83回形の科学シンポジウム
 日時:2017年6月10日(土)〜11日(日) 会場:金沢工業大学

●可視化情報学会 ISPIV2017
 日時:June 19-21, 2017 会場:Haeundae Grand Hotel, Busan, Korea

●可視化情報学会 第45回可視化情報シンポジウム
 日時:2017年7月18日(火)〜19日(水) 会場:工学院大学 新宿校舎

●日本品質管理学会 第114回(中部支部第35回)研究発表会
 日時:2017年8月30日(水) 会場:名古屋工業大学

  => 詳しくは 横幹連合ホームページの「会員学会カレンダー」
  【会員学会のみなさまへ】開催情報を横幹連合事務局 office@trafst.jpまでお知らせ下さい。