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横幹連合ニュースレター

No.053 May 2018

 TOPICS

  1)会誌「横幹」の最新号(第12巻第1号、2018年4月15日発行)は、こちら をご参照ください。

  2)第9回横幹連合コンファレンスは、2018年10月6日(土)~7日(日)、電気通信大学(東京都 調布市)にて開催されます。

  3)「『システム・イノベーション』シンポジウム」が、2017年11月7日、東京大学、武田先端知ビルで開催されました。
  下のColumnをご覧下さい。

 COLUMN1

「システム・イノベーション」シンポジウム開催報告

  紹介記事 武田博直 (横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャルリアリティ学会)

■「システム・イノベーション」シンポジウム
(1)開催日時: 2017年11月7日
(2)開催場所: 東京大学 武田先端知ビル 武田ホール
(3)主催:横幹連合
(4)共催:東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻、日本学術振興会産学連携研究委員会 システムデザイン・インテグレーション 第177委員会、情報処理推進機構 (IPA)、ロボット革命イニシアティブ協議会
(5)後援:経済産業省、内閣府、日本経済団体連合会、日本生産性本部、計測自動制御学会、情報処理学会

◆開催の主旨(要旨): ドイツと米国が主導するシステム化の動きの中で、政府は「未来投資戦略2017」( Society 5.0 の実現に向けた改革 )を進めている。この「システム化」を、日本の製造技術と経営マネジメントに根付かせる活動を推進するために、横幹連合では、システム化推進センター(「統合知システム研究所」)の設置を視野に入れたシンポジウムを開催した。平成28年度「製造基盤技術実態等調査(第4次産業革命における「知」のシステム化対応の実態調査)報告書」( 報告書は、こちら )の内容もふまえて、システム化についての理解を広めて行きたい。

  司会:青山和浩(東京大学 システム創成学専攻 教授)

開会挨拶:舩橋誠壽(横幹連合副会長、「第4次産業革命とシステム化委員会」副主査)
来賓挨拶:吉川弘之「システムの意味論」(横幹連合名誉会長、科学技術振興機構上席フェロー)
招待講演:多田明弘「Connected Industries推進に向けた取組と学会への期待」(経済産業省製造産業局長)
基調講演:齊藤裕「日立が描く OT/IT融合によるシステムの未来」(日立製作所 代表執行役 執行役副社長、IoT推進本部長)
特別講演:木村英紀「第4次産業革命の学術的な基盤」(早稲田大学理工学術院 招聘研究教授)

◇パネルディスカッション
  テーマ: 「『システム・オブ・システムズ』の時代を迎えた日本の課題」 ( モデレータ: 青山和浩 )
  水上潔(ロボット革命イニシアティブ協議会 インダストリアルIoT推進統括)
  藤野直明(野村総合研究所 主席研究員)
  寺野隆雄(東京工業大学 情報理工学院情報工学系 教授)
  松本隆明(情報処理推進機構 ソフトウェア高信頼化センター所長)
  徳増伸二(経済産業省 製造産業局参事官)

  (以上、敬称略)

  講演資料は、横幹連合HP 本シンポジウム開催報告頁に掲載
http://www.trafst.jp/IR_sympo_report.html

  経済産業省による製造技術実態調査に協力して、横幹連合に、「第 4次産業革命における『知』のシステム化対応の実態調査」の研究会が設けられ、その報告書が 2017年3月31日にまとめられた。そして、同年11月7日に、この研究会の委員を主な講師とした「『システム・イノベーション』シンポジウム」が、東京大学 武田先端知ビルに於いて開催された。冒頭に、上記委員会副主査の舩橋誠壽氏(横幹連合副会長)から、趣旨説明と、参集した聴講者への謝意が述べられた。
  最初に、吉川弘之名誉会長による「システムの意味論」と題する来賓挨拶が行なわれた。氏の講演は、工学に於いて、「システム( を設計すること )の意味」を根底から哲学する画期的なアプローチの序論で、聴講者、また、講演者たちに斬新な印象を与えた。氏は、この講演において「工学は、人工物の『機能』についての科学をつくっているはずなのだが、そのことに、まだ成功していない。システムの( 社会学的な )意味の秩序と( 物理的 )存在の秩序という二つの抽象概念の間に、『機能』を媒介にした新しい秩序、すなわち、『意味の秩序によって制約された存在の秩序の原理』と呼ばれるべき構成型の知識(「機能」についての科学 )が、どうすれば構築できるだろうか」と問いかけて、工学の基礎となる科学哲学について、その切り口を示した。本稿では、その講演内容を詳しくご紹介するために、独立した章立てにすることとした。是非とも、次の Column2をお読み頂きたい。

  吉川氏に続いて、招待講演として登壇した多田明弘氏(経済産業省製造産業局長)は、「ここでは用意が無く、個別企業の『意味』に踏み込んだ講演ができないのは残念なのだが」と断った上で、現在の世界的な製造業などでの IT、IoTを中心に据えた「システム化」の顕著な動向について、「Connected Industries推進に向けた取組と学会への期待」と題して、明快な整理された議論を展開した。氏によれば、これは「ビジネスモデル自体が変わりつつあるのだ」と捉えることができるという。その前提として、氏は次の二つの流れを指摘した。
  「前提」◇ 米Google、米Amazonなど: こうした企業群では、「クラウド+AI」などの側から指示を出して、製造工場や物流を最適に制御しようとする「ネットからリアルへ」という動きが目立っている。従って、優秀な部品工場などが、ともすれば「小作人化」されて意思決定の中枢から排除される懸念も生じている。また、
◇ 米GE、米インテル、米ウォルマート、独シーメンスなど: こちらの企業群では製造業のノウハウを、企業間・工場間・機器間で共有することによって、「リアル側、エッジ側( 最先端の製造現場の側 )から世界へ」という動きが目立っている。言い換えると、製造業の企業が顧客までも巻き込んだバリューチェーン化を仕掛けて、その上に現場・ハードウェアの抱えているデータと、クラウド・AI等の情報を組み合わせ、企業の生産の最適化を図ろうとする動きである。以上の、2つの大きな流れが競争を繰り広げているという。
  こうした世界の潮流を受けて、多田氏は、こうした流れを、日本の強みである「健康・医療・製造」などの「デジタルものづくり」の基盤に生かすことで製造業のスマイルカーブを作り、付加価値の創出とその最大化を目指すことを提言した。これを通産省では、表題のようにConnected Industriesと名付けているそうだが、こうした Connected Industriesに向けての取り組みによって我が国の競争力が発揮され、世界の課題解決につながることが、我が国の「第4次産業革命」であり、超スマート社会 Society 5.0 の実現に向けた改革の内容である、と氏は述べた。ちなみに、Connected Industriesの推進に向けて短いイメージビデオが用意されているので、是非ご覧頂きたいという。( イメージビデオは、こちら
  また、この Connected Industriesにおいて、従業員は AIやロボットと「対立するものではない」とも氏は述べた。現在、解決が要請されているテーマには、個々の企業、個人、一国のリソースだけでは限界のあるものが多い。企業間、あるいは、産業間、また、国と国がつながり合って解決を探らなくてはいけなくなるだろう。( 個々の企業の )「個別最適」と( 企業を越えた持続可能な社会の )「全体俯瞰」の双方が見渡せ、その調整もできるという人材が要請されている、と氏は述べた。それ故に「学への官からの要請」の一つとして「人材の育成」が強く望まれているのだという。エッジ( 最先端の現場 )でのデータ経験に裏付けられた課題解決力を持ち、人間中心の新しい産業の姿の全体を構想できる人材の育成が必要である、と氏は強調した。また、もう一つの要請として、学からの「概念( コンセプト )の発信」が望まれているという。優先的に開発の必要な分野は、どこなのか、出来る限りシンプルな課題設定が望ましいと氏は指摘した。デジタル技術の進展した人間中心の社会を招来するために、ここでの「システム人材育成」や「システム研究」について、官から学への期待は極めて大きい、と氏は講演を締めくくった。

  続いて、本稿では「システム・イノベーション」の理論的側面の話題を、先にまとめて紹介しておきたい。休憩前の第1部の最後に登壇されたのが、「第4次産業革命とシステム化研究会」主査の木村英紀氏であった。氏は、「第4次産業革命の学術的な基盤」と題して、最初に、重要な等式を提示した。
  SV= EV(の総和)+IV
  ここで、SV( システムの価値 System Value )については、システムを構成している各要素の価値( EV、Element Value )の総和よりも常に大きくなるはずだ、という。また、付加価値( IV、Integration Value )については、一般に、構成要素の数が増すことで大きくなるものだと考えられている。その複雑性の増加を回避するための方法が、適切な「モジュール化」なのだという。さらに、機能要素を、その特性や構造に依存することなく「つなぐ」ことのできるインタフェースを、もし用意することができれば、そのインタフェースのプラットフォーム機能( エネイブラーの存在 )によって、個々の基盤技術は、ある大きな目標を持ったシステムの構成要素になることができるだろう。氏は、この等式についてそのように説明した。
  さらに、「モジュール化」については、次の3つの段階が要請されるのだ、という。
  1)製品、またはサービスを、独立性の高いユニットに分ける段階。
  2)ユニットとインタフェースを分離する段階。( メインフレームのIBM360などは、このシステム化によって成功したことが指摘された。)
  3)インタフェースのオープン化の段階。( 誰でもモジュール市場に参入できるようになること。PC、インターネット、携帯ビジネスの成功など。)
  そして、この 3番目の段階が、現在、産業構造の激変を招いている、と氏は指摘した。   こうしたシステム構築における、モジュール化やクラスタリング( ここでは説明しない )の具体的な手法については、氏の講演資料に参考図書が掲載されている。( 講演資料は、こちら)是非、参照して頂きたい。
  最後に、木村氏は、速水融氏や川勝平太氏が提唱している「勤勉革命」に言及して、日本人の労働尊重のエートスが日本の技術力の特徴となっていることを紹介した。こうした労働尊重の観点から、藤本隆宏氏がつねづね指摘する「日本の強みとしての『すりあわせ』技術」を「インタフェースの構築技術である」と理解してみると、日本の伝統を生かしたプラットフォームの構築が可能となるだろう、と氏は指摘した。この魅力的な指摘をまとめとして、氏はシステム化の「学術的基盤」に踏み込んだ印象的な講演を締めくくった。
  さて、今回のシンポジウムでは、最先端のエッジが効いた IoTの現場からの知見が多く報告されている。日立製作所の齊藤裕氏(執行役副社長、IoT推進本部長)を始め、水上潔氏(ロボット革命イニシアティブ協議会 RRI)、藤野直明氏(野村総合研究所)、松本隆明氏(情報処理推進機構 IPA)からは、日本では、これまでに何度も極めて大きな業務システムの変革が起こり、日本企業はそれらを成功裏に乗り越えてきたことが指摘された。ただ、これまでの変革には( 主として )ボトムアップの「カイゼン」が多く、その統合範囲についても企業内部や、本社と下請け企業のみの垂直型統合だったために、現在の課題とされている企業間、あるいは国家間の調整が必要となる大規模なプロジェクトでは現場経験の少ないことが問題視されているという。特に、意思決定権者には、今後は「個別最適」と「全体俯瞰」のバランスを取った経営判断が必要になる機会が増えると予想され、インタフェースのオープン化が問題とされる場合に、その判断が難しくなるそうだ。
  同様に、これまでの日本の現場の強みであったオペレーションのノウハウの中から、特に目立った技術が欧米の「学」に注目されて「モデル化」され、システム化されて、スケーラブルな展開ができる形態で日本に逆輸入されるケースも増えてきているという。ここでの用語説明は略すが、「かんばん方式」のほかに「顧客ニーズをリアルタイムに把握して、投資施策をリアルオプションの問題と捉えて経営リスクの管理をすること」なども元は日本生まれのシステム管理技術で、欧米で「学」化されたものであるそうだ。(これらと真逆の事例として、「製造基盤技術実態等調査報告書」の中には、高度の要素技術を持つ日本企業が、ただの一要素技術の供給会社に甘んじている現状や、自社の未来のための新しい試みの提言が、なぜか社内の経営陣や株主の反発を招いて、結局、実現できなくなるといった事例がいくつか活写されている。欧米では歓迎されたシステム化技術が、なぜ日本企業では真逆の扱いを受けたのか、その「意味」を今後研究して行く必要もまた、あるのだろう。)
  また、これまでのIT投資の「業績面での効果」や「経営判断における効果」については、日本の企業では、その効用を欧米ほどに大きくは感じてこなかったそうだ。しかし、今後の国内の産業システムでは、業務システムの「モジュール化」や「『知』のシステム化」に関する知識が、常識として活用される必要を講演者は口々に訴えた。ちなみに、IPAの松本氏からは、「システムズエンジニアリングの4つのポイント」として、「目的指向と全体俯瞰」「多様な分野の知見を総合」「抽象化・モデル化」「反復による発見と深化」が紹介された。最後に登壇した徳増伸二氏( 経済産業省 製造産業局参事官 )は、ここまでの講演をふまえて、システム化の必要性を次のようにまとめた。すなわち、これまでの日本の企業では、目標が長期に安定している場面が多く、そこでは「個別最適」が歓迎された。ところが、顧客の志向が多様化・細分化し、顧客ニーズへのリアルタイムの対応が製造の現場にも求められるようになると、「全体最適」が求められるようになったのだという。この新しい状況に対応するためには、「全体最適」(システムアプローチ)と「職人気質」(日本の深掘りの強み)の両方を、そのどちらも捨てないで「掛け合わせる」必要があると、氏は指摘した。また、我が国の製造業の現状に関して、「2017年版ものづくり白書」 にその分析が書かれているので、参考にして欲しいという。   ところで、寺野隆雄氏(東京工業大学教授)からは、現在話題になっている AI研究についての日本での進捗について非常に興味深い講演が伺えたのだが、ご本人の要請で、ここでの詳報は控えさせて頂く。ただ、現在日本の産業システムにオープンなイノベーションが必要とされている理由を、氏は、「選択肢」を増やすためである、と明快に指摘した。これについては特記しておきたい。

  最後のパネルディスカッションでも、話題は「人材の育成」に集中した。例えば、大企業の社員に顕著であるそうだが、若いうちに経験できる大きなプロジェクトは、せいぜい 2つか3つに限られるのだという。エッジでの経験が不足していたのでは、全体俯瞰を考える場合にも、解決策が偏ったものになってしまう恐れがある。また、価値創出の最大化のためには「デザイン・システム思考」が必要になるのだが、企業では、その必要性が気付かれていないことも同様に問題点として指摘された。
  こうしたパネラーたちの意見をふまえてモデレータの青山和浩氏(東京大学教授)は、結びの言葉に代えて、「統合知システム研究所」設立の構想について発表した。それは、System of Systems(複合大規模複雑システム)の研究の早急な必要性から要請される組織で、極めて複雑なシステムについての、多様な研究手法のシナジー効果が得られる研究所を目指しているという。また、クロスアポイントメント( 研究者が大学、公的研究機関、民間企業のうち、二つ以上の組織と雇用契約を結び、一定の勤務割合の下で、それぞれの組織における役割分担や指揮命令系統に従いつつ、研究・開発および教育などの業務に従事すること )の比較的早い実施事例としても重要な試みであるという。こうした人材育成の試みに関心を持つ人は、ぜひ問題意識を共有して頂きたいと青山氏は述べ、非常に有益で示唆に富んだ本シンポジウムは盛況のうちに終了した。
  なお、「製造基盤技術実態等調査(第4次産業革命における「知」のシステム化対応の実態調査)報告書」( 報告書は、こちら )については、是非お目通し頂きたいと、青山氏は最後に付け加えた。

 COLUMN2

「システムの意味論」 (「システム・イノベーション」シンポジウム来賓挨拶・要旨)

  紹介記事 武田博直 (横幹ニュースレター編集室長、日本バーチャルリアリティ学会)

  横幹連合では、経済産業省による製造技術実態調査に協力して「第4次産業革命における『知』のシステム化対応の実態調査」の研究会を設け、その報告書を作成した。この報告書をベースとして、「『システム・イノベーション』シンポジウム」が東京大学 武田先端知ビルに於いて、2017年11月7日に開催された。その概要については、本ニュースレターの Column1をご参照頂きたい。
  さて、シンポジウムの最初の講演として、吉川弘之 横幹連合名誉会長による「システムの意味論」と題した来賓挨拶が行なわれた。ニュースレター編集室では、この講演の内容を考慮して、その内容について詳しくご紹介するために、Column2として独立した章立てを行なうこととした。以下は、ニュースレター編集室の文責でまとめた同講演の概要である。

  横幹連合主催の「『システム・イノベーション』シンポジウム」の来賓挨拶として、吉川弘之横幹連合名誉会長は、「システムの意味論」と題して、次のような内容を語り始めた。
  「自然科学は、これまでの帰納的、分析的な disciplineによって、『存在の秩序』を明らかにしつつある、と言えるだろう。( disciplineについては後述する。)一方で、社会科学は、( システムに話を限れば )社会的システムのふるまいについての『意味の秩序』を、その分析対象として disciplineを形作ろうとしている。ところで、工学が目指している目標は、実は、『意味の秩序によって制限された存在の秩序』すなわち『機能』を、工学的、構成的な手法によって実現すること( 工学=機能の科学 )、であると思われる。従って、『科学の層の意味による分類』を考えて工学の立場を表現してみると、下図のように、自然科学と社会科学の真ん中に『ふわふわと存在している』状態で図式化されることになるだろう。」
  「従って、(ここでの講演の結論としては、)『良い(産業)システムは意味に基づいて生成する』と言っても間違いないのではないか。15分という比較的長い時間をここでは与えられているので、以下に、これについて説明してみたい。」



  「人の知識の単位は、いくつもの『実体概念』と『抽象概念』の組の(部分)集合から成り立っており、抽象概念によって構造化された『小さな秩序化された世界』を、それぞれの人が持っていることになる。ここで『小さな秩序化された世界』の実体概念には、様々な『徴表』(注)が伴なっている。基本的には、実体の徴表と属性の徴表、そして、機能の徴表の3種類(の抽象概念)である。( 吉川氏講演資料 の 5、6頁をご参照願いたい。)
  例えば、森林にすむシジュウカラのようなチッチョとかわいい声で鳴く鳥の『実体』について、人は『徴表(属性)』の値である『チッチョ』という声を通して『好ましい』と理解(機能を理解)している。つまり、シジュウカラという物理的な秩序を持った存在に関しては、人の社会内でのシジュウカラの『意味の秩序』について、人は、チッチョとかわいい声で鳴くという、その鳥の『徴表(属性)』の値を手掛かりにして、( discipline=カテゴリー化された知識の学習によって )シジュウカラに『好ましい』という機能の徴表を結びつけて、その存在の意味を理解している。このように、人の理性が『実体概念』と『抽象概念』を結びつけ、構造化することで作り上げているものが、人の理解している『小さな秩序化された世界』である。」
  「一方で、科学の世界は、『全実態(概念の)集合』と『全抽象(概念の)集合』の和集合の『大きな世界』として構成されている。しかも、その『大きな世界』の構造については、いまだ部分的にしか理解できていない。また、その秩序についても、まだ誰も知らないままである。端的に言えば、工学的手法による『システム設計』とは、そのシステムの( 全体の )意味の秩序を構成要素が自ら理解し、自覚して、自分から進んで産業システムという存在の秩序に変換することなのだが、そのときの全体の『機能』を( 構成的に )どのように実現するのか、ということについては、まだ一般理論ができていない。人が理解した範囲の『小さな秩序化された世界』から一つ一つ事例を取り出して、( シジュウカラの機能を理解したときと同じように )一つ一つ理解するという方法しか与えられていないと思われるのだ。」
  「結論として、科学の『大きな世界』の中では、意味に依存して生じる( 工学的な )『機能の秩序』としてのシステム科学、ここでは『産業システムの設計論』を科学として確立できるのか否か、つまり、『産業システム』についての意味論的な考察が、ここでは要請されているように思われる。言葉を変えれば、『Industrial何点ゼロ』という『美しい言葉』を考える前に行なうべきこととして、『産業システムを構成する要素』について、われわれの『小さな秩序化された世界』からできるだけ多くの事例を取り出して、深く考えてみなくてはならないだろう。」
  「もう講演の時間が尽きたので、ここに投影されている資料を細かく読み上げることはしないが、この講演では『良いシステムは意味に基づいて生成する』ということを結論として述べたい。現在の日本の産業システムに元気がないのは、それを構成する個々の企業に元気がないからであって、構造の単純な組み換えを行なったとしても、効果の範囲は限られていると思われる。( ちなみに、このとき舞台上に示された講演資料には、次のように書かれていた。『今の我が国が抱える産業の問題は、産業システムの 構造 についての制御では解決できないのではないか。産業システムの要素である企業が、個々の企業として固有の変革を遂げる事を通じて、企業間の新しい秩序を自発的に作り、経営体が相互に互いの機能を理解し合い、他の経営体の戦略を理解し合うことによって、その結果として全体の構造が変わる、という道筋しかないのではないだろうか。』)
  本日の講演者の皆さんは、システムの専門家と伺っているので、個々の企業の意味に立ち返った考察を聴かせて頂きたい。以上で、挨拶を終えます。」(拍手)

  (要約は、本Columnの筆者による。)

  (注) 物理現象については、人は自分の住んでいる世界で局所的に、身体を通した経験として確認することしかできない。それでは、そのように経験した「物理現象」や、感覚を前提とした解析方法は、果たして時空を超えた宇宙の起源などを科学的に探求するときにも、自然科学的な世界像を構築する推論の基礎として用いることが可能なのだろうか。実際に、物理学者は、自然数のような直観的に確かめられる数学だけではなく、無理数や多変数の関数を数式に平気で持ち込んで世界像を考察しているのだけれど、そうした自然科学の手法は、何を根拠に「誤りが無い」と言い切れるのだろう。こうした難しい問題に、明快な説明を与えたのが、ドイツの哲学者、エルンスト・カッシーラー(1874年 - 1945年)だった。言葉を少し変えれば、例えば物理学者は、自らの思惟構造を「数学的実体概念」から「関数概念」(多変数代数函数体に関する幾何学など)へと発展させることで、物理現象についての科学的な真理を求めようとしてきたのだが、しかし、そもそも、関数で数理モデルを作ることが現実の世界の解釈になる、と言い切れる根拠は、どこにあるのか、という話である。
  カッシーラーは、この難しい問題を、例えば、次のように説明してそこに誤りが無いことを論じ、20世紀の科学哲学を基礎づけている。数学的な「概念」というのは、実は心理学的な意味の抽象ではなくて、規則や法則といった連関に見られる論理学的機能の付与にあるのだという。その分析に際して手掛かりとしたものが、実体についての概念が併せ持っている抽象概念の「徴表(徴標)」や「系列原理」の普遍妥当性であったとされている。(カッシーラー著「実体概念と関数概念」などを参照。)
  吉川氏は、今回の講演資料の 5、6頁では、実体概念の集合を「S」(実体概念は「sj」)、徴表の項目を「Ψ」、項目の値を「φ」で示した。上述のような分析手法を「工学」に拡張して用いたことで、氏は、意味の秩序(社会科学)と存在の秩序(自然科学)の二つに関して、それらが位相同型ではないことや、それゆえに、「機能科学」である工学の discipline が、意味の秩序で制限された存在の秩序として、社会科学と自然科学の真ん中に「ふわふわと存在している」こと、また、良いシステムは意味に基づいて生成する( はずだ )ということなどに関して、根拠を持って明快に論じていたことが理解できる。もう一度、ここまでの説明を理解した上で、吉川氏の講演資料を眺めてみて頂きたい。

   

 EVENT

【これから開催されるイベント】

●日本品質管理学会 第401回事業所見学会(東日本)
 日時:2018年5月29日(火) 会場:トヨタ自動車東日本株式会社 本社・宮城大衡工場

●日本品質管理学会 JSQC規格「日常管理の指針」講習会(東日本支部)
 日時:2018年5月30日(水) 会場:トークネットホール仙台(仙台市民会館)

●日本人間工学会 第59回大会
 日時:2018年6月2日(土) 〜3日(日) 会場:宮城学院女子大学

●日本情報経営学会 第76回全国大会
 日時:2018年6月2日(土) 〜3日(日) 会場:北海道情報大学(江別市)

●日本信頼性学会 第26回春季信頼性シンポジウム
 日時:2018年6月4日(月) 会場: 日本科学技術連盟 東高円寺ビル

●日本品質管理学会 第402回事業所見学会(関西)
 日時:2018年6月5日(火) 会場:アサヒビール 吹田工場

●日本品質管理学会 第117回QCサロン(関西)
 日時:2018年6月6日(水) 会場:新藤田ビル11階研修室(日科技連・大阪事務所)

●日本品質管理学会 第403回事業所見学会 兼 ワークショップ(東日本)
 日時:2018年6月11日(月) 〜12日(火) 会場:山形かみのやま温泉 日本の宿 古窯

●日本バイオフィードバック学会 第46回日本バイオフィードバック学会学術総会
 日時:2018年6月16日(土) 〜17日(日) 会場:東京都立産業技術高等専門学校

●日本生体医工学会 第57回日本生体医工学会大会
 日時:2018年6月19日(火) 〜21日(木) 会場:札幌コンベンションセンター

●日本品質管理学会 第404回事業所見学会(中部)
 日時:2018年6月21日(木) 会場:社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院

●日本品質管理学会 JSQC規格「方針管理の指針」講習会
 日時:2018年6月22日(金) 会場:日本科学技術連盟 東高円寺ビル

●日本品質管理学会 JSQC規格「方針管理の指針」講習会(西日本支部)
 日時:2018年7月3日(火) 会場:カンファレスASC(福岡市博多区)

●日本品質管理学会 第164回シンポジウム(関西)
 日時:2018年7月10日(火) 会場:大阪大学 中之島センター

●日本品質管理学会 第108回クオリティトーク(東日本)
 日時:2018年7月10日(火) 会場:日本科学技術連盟 東高円寺ビル

●システム制御情報学会 International Symposium on Flexible Automation (ISFA) 2018
 日時:2018年7月15日(日) 〜19日(木) 会場:金沢商工会議所会館

●日本品質管理学会 第129回講演会(東日本支部)
 日時:2018年8月6日(月) 会場:日本科学技術連盟 東高円寺ビル

●日本品質管理学会 JSQC規格「日常管理の指針」講習会(西日本支部)
 日時:2018年8月8日(水) 会場:広島工業大学 広島校舎

●日本品質管理学会 第117回(中部支部第36回)研究発表会
 日時:2018年8月29日(水) 会場:名古屋工業大学

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