横幹連合ニュースレター
No.007, Sep. 2006
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
「第1回横幹連合
総合シンポジウム
開催に向けて」
佐野 昭
横幹連合 理事
■活動紹介■
【参加レポート】
第12回横幹技術フォーラム
【委員会の活動から】
学としての知の統合委員会
■参加学会の横顔■
精密工学会
日本生物工学会
■イベント紹介■
・シンポジウム「こころを結ぶ共生時代に向けた技術戦略を探る」
第13回横幹技術フォーラム
第1回横幹連合総合シンポジウム
これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
No.007 September 2006
◆参加学会の横顔
毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、精密工学会と日本生物工学会をご紹介します。
精密工学会
ホームページ:http://www.jspe.or.jp/
会長 下河邉 明 氏
(東京工業大学 精密工学研究所 教授)
【ものづくり技術の核、精密工学】 社団法人精密工学会(JSPE)は、昭和8年に精機協会として設立されたのを端緒に、昭和61年社団法人精密工学会と改称し、今日に至りました。70年以上の歴史があり、約7,000名の会員を擁しています。
・設計・生産システム(LCA、CAD/CAM、モデリング、設計論、自動化、知能化など)、
・精密加工(切削・砥粒加工、CMP、マイクロマシニング、ビーム加工、ツーリングなど)、
・メカトロニクス(マイクロマシン、知能ロボット、精密位置決め、工作機械、機素など)、
・精密計測(画像応用計測、光応用、三次元形状測定、知的データ処理、SPMなど)、
・人・環境(人間工学、福祉工学、医用精密工学、アミューズメント、生産技術史など)
という幅広い分野を含んでおり、最新の生きた知識を、春秋2回の学会大会学術講演会のほかに、「研究者データベース」「技術相談フォーラム」「初心者にもわかりやすく解説した精密工学基礎講座」などでも提供しておられます。
また、「精密工学会誌」は、精密機械や生産技術に関する広範な知識を載せて、毎月刊行されています。さらに、専門委員会・分科会も多く、このほか北海道から九州まで全国7地域に支部があり、独自のホームページも持って活躍しておられます。
この学会について、会長の下河邉 明先生(東京工業大学)にお話を伺いました。
Q:下河邉先生は、「ナノメートルのオーダーで位置決めができるマイクロアクチュエータ」などの「精密工学」の最先端の研究を続けておられますが、精密工学会に入会された頃のご研究は何だったのでしょうか?
下河邉会長 博士課程に進んだ1970年には、非常にトラディショナルな分野のウォームギヤの研究をしていました。歯車の設計については、機械学会でも発表していたのですが、関心が「歯あたりや角度伝達精度」など、計測・加工・精度のほうに移ってきたので、そのような部分は精密工学会で発表するようになりました。学部教育の義務がない附置研究所(東工大
精密工学研究所)に所属していましたので,研究テーマを比較的容易に移してゆくことができ、80年代には制御型軸受、精密位置決めなどのモーションコントロールなどへ、さらにはMEMS、マイクロアクチュエータ、磁気軸受、磁気軸受応用の人工心臓などに自然に広がってきた(あるいは変わってきた)という感があります。
Q:専門委員会・分科会の「生産自動化やメカトロニクス、微細加工」といった研究の幅は、そのまま会員のみなさんの研究分野の広さを表しているように思います。最後にお尋ねする運営のノウハウにもつながる質問になるかと思いますが、こうした広い領域の最先端の知見を、どのように会員のみなさんにお知らせしているのでしょう。
下河邉会長 研究分野の広がりは、「精密」という言葉の意味が広がっていった結果だろうと思います。精密工学会には、設計・生産システム、精密加工、メカトロニクス、精密計測、人・環境という5つのテーマがありますが、「精密」の意味が、機械製造の加工技術を意味するところから、精密なメカトロニクス、機械の設計、CAD・CAM、そして例えば、シリコンウェハの生産加工などへ広がってきています。現在では、精密な計測や加工だけではなく、医療精密工学(王監督の胃の手術で活躍した「腹腔鏡」の開発など)や福祉工学、生体計測も含まれているのです。
ところで、学会には専門委員会・研究分科会が30以上あり、個人・法人会員70名以上の参加している会も8つあります(300人以上の会もあります)。こうした方々の組むオーガナイズドセッションが春と秋の大会にはありますので、こうした機会に参加されることで研究の動向がよくわかると思います。各支部の地域別精密技術研究会なども独自に、活躍しております。
昭和8年の精機協会は、東京帝大工科大学造兵学科の同窓会のような組織からスタートしたと聞いていますが、「造兵」は応用物理といった風に見られることが多かったと思いますが、「精密機械工学である」という意識は、そのころからあったようです。現在の学会の姿勢は、設立の当初から続いていると言えそうです。
Q:精密工学会には約7,000人の会員がおられるということで、特にお伺いしたいのですが、このように会員数の多い組織をスムースに運営することには、何かノウハウがございますか。ぜひお聞かせいただきたいのですが。
下河邉会長 先にもお答えしましたが、専門委員会・研究分科会が春秋の大会にオーガナイズドセッションを組みます。また、一般に向けての講演会を、支部や学会の事業本部などが独自に開催することもあります。個々の研究領域が活性化することが、全体の活力にもつながっているのです。
ところで、ここ数年の特筆するべき傾向ですが、アメリカのASPE、ヨーロッパの euspenと精密工学会との三極体制で、精密工学に関する国際会議(ICPE)を共同開催しています。英文誌の Precision Engineeringも、共同で編集しています。日本は精密工学の民生用への展開が早かったので、三つの組織の中でも抜きん出て大きいのですが、これらの国際的な活動も国内の実績の上に成り立っています。国際会議は今後持ち回りで( 2008年にはアメリカで )開催することになりましたので、非常に楽しみです。
それから、新しい試みとして、学生会員1,000人のうち、Web学生会員が約700人いて、学会誌の配付はありませんが、Webを通じて一般学生会員と同様の情報を入手しています。この人たちも学会で発表したいと考えたら、一般学生会員と同様に登壇し発表できますし、卒業後は正会員として継続してくれることを期待しています。
日本生物工学会
ホームページ:http://www.nacos.com/sfbj/
会長 五十嵐 泰夫 氏
(東京大学 大学院 農学生命科学研究科 教授)
【生命現象を基盤としたテクノロジー・エンジニアリング】 社団法人 日本生物工学会は、大正12年に大阪醸造学会として設立されたのを端緒に、昭和37年に日本醗酵工学会、平成4年に日本生物工学会と名称を変更して、今日に至ります。生命科学の発展をエンジニアリング・テクノロジーの面から推進する生物工学について、その応用や研究についての発表、知識の交換、情報の提供などを行う場となることによって研究の進歩普及を図り、わが国を代表する学会の一つとしてわが国の学術の発展に寄与することを目的に運営されています。会員数は、約4,500名。
学問領域としては、醗酵工学、生物化学工学、生体情報工学、酵素工学、動物細胞工学の基礎と応用、生体医用工学の開発研究、環境工学などと幅広く、これらの研究成果は、「生物工学会誌」(年12冊発行)や英文誌「Journal of Bioscience and Bioengineering」(年12冊発行)を通して発表されています。
この学会について、会長の五十嵐泰夫先生(東京大学)に、お話を伺いました。
Q:英文誌も毎月(年間12冊)発行されていて、「さすがバイオテクノロジー!」という勢いを感じます。ところで、外国の研究者との交流や、外国からの評価で見えてくる、日本人の研究の位置や役割もあると思うのですが、日本生物工学会としては、世界の中での学会の位置や期待される役割を、どのように見ておられますか?
五十嵐会長 言うまでもなく、バイオテクノロジーは、わが国が世界の最高水準を誇っている分野です。特に、微生物や酵素などの生産物に直結したテーマでは、抜きん出ていると思います。しかし、個別には(遺伝子関連など)欧米のほうが優れている分野もありますので、外国人エディターの参加などの方法で論文全体のレベルの維持に努めています。
ところで、権威のある「Medline」という米国の医学・生命科学の文献検索データベース上で、日本生物工学会の英文誌が最近、検索可能となりました。このことで、英文誌の論文検索数が飛躍的に増加しています。このように、生物工学の分野でのわが国の役割は、海外から見ても相当高く期待されていると思います。
また、本学会はこれまで、アジア諸国との30年に亘る永く強固な連携の実績を、その特徴としてきました。バイオ系の学会の中では、学会誌のアジア人購読者、また大会へのアジア諸国からの参加者数はおそらく最高のレベルにあるのではないでしょうか。生物工学は、これからのアジアの発展には必須の分野です。ある程度のイニシアティブを取りながら、アジア諸国の類縁の学会と協力、協同していきたいと考えています。
Q:五十嵐先生が廃棄物や環境の回復といったテーマに取り組まれるようになった、きっかけを教えてください。
五十嵐会長 私はもともと農学部出身の応用微生物学者で、炭酸ガスの有機資源化をテーマにしていました。ですから環境問題とは最初から関わりが深かったのです。廃棄物問題に関わるようになった最大の理由は、正直申し上げると研究費の獲得のためです。教授になったばかりで研究室が貧乏だったとき、固形廃棄物処理をやって大型研究費を貰ったことがきっかけでした。その後、周りに押されてこの分野の先頭に立たされてしまいましたが、もちろん今ではこの世界に入ってよかったと思っています。人類の生存に必須な分野、というだけではなく、「微生物社会学」*という新しい分野を始めるきっかけになったからです。
(*「微生物社会学」。有機性廃棄物の処理システム等いくつかの微生物集団に関して、特別の役割がないように思える微生物が集団の主流を占めたり、自然界に存在する微生物集団に人為的に新たな微生物を導入しようとしても殺されてしまう「微生物界のいじめ現象」が見られるなど、微生物が組織化された社会を形成しているとしか考えられない現象が分かってきた。微生物集団の系全体の機能性及び安定性は、まだ完全には理解されておらず、探求が続いている。このような多種微生物間の相互関係と集団の構造を明らかにする興味深い21世紀の学問を、「微生物社会学」と呼ぶことを提唱している。)
Q:ビジネスモデルの確立を会長としての目標の一つに据えておられますが、例えばどのような効果を期待していらっしゃるのでしょうか。
五十嵐会長 本学会は現在、年間12冊の英文誌と12冊の和文誌を会員に配布しています。これと、年次大会、支部活動、研究部会活動の場を提供するというサービスによって、年1万円近い会費をいただいております。これが現在のビジネススタイルです。しかし、IT時代を迎えて、いつまでこのようなビジネスモデルでやっていけるのか。小子化時代を迎えて、誰を対象に魅力的な学会をどのようにアピールするのが良いのか、が問題となると考えています。
日本生物工学会は、情報IT化に備えて学会活動を簡便に検索できることなどを進めると同時に、研究機関、教育機関や企業に所属する「若い人たち」が、楽しんで踊れる場所を提供する」ことを会の活動方針のひとつにして活動しています。特に企業に所属する若い研究者・技術者を、重要なターゲットと考えています。もちろんそれによって期待しているのは、学会、会員全体の活性化です。
ビジネスモデルというのは、特に若い会員にとって「楽しみながら、ためになる」と感じられる学会を目指している、という意味です。会員数の増加は、望ましいことではありますが、直接そのことを目標にしてはいません。