横幹連合ニュースレター
No.007, Sep. 2006

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
「第1回横幹連合
総合シンポジウム
開催に向けて」
佐野 昭
横幹連合 理事

■活動紹介■
【参加レポート】
第12回横幹技術フォーラム
【委員会の活動から】
学としての知の統合委員会

■参加学会の横顔■
精密工学会
日本生物工学会

■イベント紹介■
・シンポジウム「こころを結ぶ共生時代に向けた技術戦略を探る」
第13回横幹技術フォーラム
第1回横幹連合総合シンポジウム
これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.007 September 2006

◆活動紹介

 今回は、第12回横幹技術フォーラムの参加レポートと、 横幹連合に新しく設置された「学としての知の統合委員会」の活動のようすをご紹介します。


第12回横幹技術フォーラム 【参加レポート】

テーマ:「サプライチェーン革新による競争力向上
      《シリーズ1》企業の抱える課題」
日時:2006年9月19日
会場:学士会館 202号室(東京・神保町)
主催:横幹技術協議会、横幹連合

阿部広太郎さん、池田愛子さん、
松村研太郎さん、山崎孝弘さん
 

(東京海洋大学 海洋工学部 流通設計工学(久保)研究室)

「サプライチェーン革新による競争力向上」と題した横幹技術フォーラムが、9月19日に学士会館で行われた。サプライチェーン・マネージメント(以下、SCMと記す)に関しての、主に企業側の取り組みについての講演であったが、筆者らは学生という立場なので、企業が今日抱える問題を直接に耳にする機会はほとんどない。大変貴重な経験になると思い、今回参加したので報告する。

【花王のSCM活動】
 花王(株)のロジスティック部門開発グループ部長、関根史麿氏の講演では、「予測に基づく同期連携」というSCMの取り組みが紹介された。これは、製品(洗剤やシャンプー、サニタリー製品、化粧品など)の性質上、販売・輸送・生産・調達の部門毎に(部分最適の)計画を立てるのではなく、全体が最適になるように計画を立て、それに基づいてマネジメントを行うものだ。
 ところで、在庫や欠品を抑えつつサービスレベルを向上させるには、見込み生産(将来の需要を的確に予測した生産)を行う必要があるが、責任部門(販売)にとっても正確な需要の予測は容易でない。しかし花王では、70年代からロジスティクスの要素データを集め始め、90年代に「予測システム」を開発した。このため、新製品(の発売当初のイベントなど)を除けば、通常品や切替品(改良品)の季節変動、通常変動の需要やライフサイクルについて、かなり予測が可能になったという。
 このようにして単独決算で7千億円弱の売上の大部分が支えられており、SCM活動に対し非常に積極的であるという印象を強く受けた。

【日産のSMCの挑戦】
 日産自動車(株)SCM企画部部長、前田雅之氏の講演は、日産自動車の目指す「同期」生産の追求とその課題に関する内容であった。従来は、お客様に対して上限納期管理(「この日までにお届けします」)を行っていたために、先行到着による在庫化などが生じていたのだが、SILVIA(完成車統合物流システム)の導入によって、日時納期管理(「何月何日何時にお届けします」)が実現できた。また、KPI(重要管理指標)と呼ばれる情報の可視化により、活動がより明確に評価できるようになったという。
 現状でのSILVIAの課題には、期末の輸送力不足や、ドライバーの手入力によって情報の鮮度や精度に誤差を生じること、KPI情報の共有化ができないことなどが挙げられた。しかし、(SILVIA管理のできない)OEMパートナーとの協力や、リアルタイムな自動情報収集、可視化可能なネットワーク・インフラの構築などによって解決は可能だとのことで、今後の活動に期待の持てる非常に興味深い内容であった。

【ICタグの動向とロジスティクス分野への応用】
 花王、日産の2社に共通していたことは、各部門が独立して業務を行うのではなく、様々な部門が情報を共有して、一連の業務をこなしていることだ。情報を共有して効率化を図ることは当然のように思えるのだが、やはり実務のレベルや更にはグローバルなロジスティクスから見れば、未だにいろいろな困難や問題があって、目的である情報の共有化が円滑に行われているとは言い難いのかもしれない。
 (株)日立製作所、トレーサビリティ・RFID事業部事業開発部部長、九野伸氏の講演のテーマは、そうした問題を解決するひとつの方法として将来が期待されているICタグについてだった。安心や安全の観点からのトレーサビリティは、企業だけでなく個人からも必要とされている。現在は国を挙げての試作研究・実験が行われている段階とのことで、各国のタグの性能評価などが紹介され、国際標準化が進められているUHF帯のタグに今後求められる要件(企業情報やプライバシーの保護など)が紹介された。この技術がより発展・進歩することで、今まで以上にロジスティクス情報の共有化がスムーズに行えるのは間違いないだろう。

【サードパーティ・ロジスティクスの現状と課題】
 最後の(株)日通総合研究所 経営コンサルティング部担当部長、山田 健氏の講演は、サードパーティ・ロジスティクス(3PL)の定義から始まり、3PLの取り組み事例として、例えばある中国蘇州工場でも行われている「ミルクラン」という調達物流の方法などについて、具体的な実施イメージを写真つきで丁寧に説明された。ミルクランとは、かつて欧米の牛乳商人が牧場を回って牛乳を集めたように、工場から空箱を積んだトラックが決まった順番で複数の部品メーカを巡回して部品を集める物流手法である。また、あるパソコン・メーカーのVMI倉庫(ベンダー主導型在庫管理倉庫のこと。部品を一箇所に集めて必要なときまとめてメーカに出荷する)の事例も挙げて、流通在庫が激減することを主張された。
 課題として、3PLは物流システムの設計・提案能力と、実際のオペレーション能力が共に必要なので、現状では人材が少ないことを指摘されて人材育成についても言及された。

 以上にまとめたように、今回の講演ではSCMに焦点をあて、企業の取り組みや企業が抱える様々な問題を知ることができた。次回(10月31日)の第13回横幹技術フォーラムでは、今後研究の進展が予想されるこの分野を大学側がどう捉えていて、企業の競争力向上のために産学がこの問題にどう取り組んでいくべきだと考えているかが発表される。次回にも期待している。

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学としての知の統合委員会 【委員会の活動から】

 横幹連合に、「学としての知の統合委員会」が設置されました。この委員会について、委員長の木村英紀先生(横幹連合副会長、理化学研究所)に、設置の目的などをお聞きしました。


木村 英紀 氏   

 (学としての知の統合委員会 委員長、理化学研究所)

 横幹連合の活動範囲はそれなりに広がっているが、連合の存在意義についての社会的な認知は、いまだしの感が強いようです。
 そこで、我々の活動が「わかりにくい」と内外で思われている根本問題であるところの「横幹科学技術とは何か」について、さまざまなレベルでの質問に明快に答えられる基本見解を提示して、連合としての理念を確立したいと考えております。
 みなさんご承知の通り、第3期科学技術基本計画に「横幹的」の文言が採用されました。これをふまえて、横幹連合としての提言を行うために、「学としての知の統合委員会」は、2年間をその期間とし、最初の1年間で理念を確立した「中間報告書」をまとめ、次にその肉付けを行って最終報告書をまとめるつもりです。

 議論の切り口としては、次の3つの側面があります。
(1)「知の統合」の方法と実像(実例)を明らかにすること(学問論)。
(2) そこから提起できる産業界へのシーズを定式化すること(技術論)。
(3) なぜ横幹が必要であるか、を日本の科学技術カルチュアとの関連で示すこと(文化論)。
 これらについての議論を行うため、8月2日と9月1日に第1、2回の委員会を開いて、下に記すような発表を行っていただき、議論をしました。
 今後のみなさんのご理解と、積極的なご支援を期待しております。

■各発表の概要(文責:ニュースレター編集室)
【第1回委員会】 【第2回委員会】

「一般設計学と横幹科学連合」
吉川弘之 会長(産業技術総合研究所)

 伝統的な(事実+使用)知識は、これまでの(縦割りの学会活動と)科学的知識のなかで、かりに技術的に未成熟でも、副次的な効果が未知であっても、作りたいものが作れるようになれば作ってしまう、という道をたどってきた。
 しかし、持続可能を目指す21世紀の社会では、(在らしめることの)現実的な意味や価値を、正しく選び統合するための(新しい)操作の知識(設計学的方法?)を見つけ、どのような人工物を自然の中に混在させれば、価値が最大になるかを決断する思想、「人工物感」が求められている。
 このため、在来科学のディシプリン(学問領域)、例えば、力学、構造、回路、拡散、流体力学などをトポロジカルな「設計仕様(要求仕様)」の中で融合させ、操作可能かつ価値が最大であるサブセットを求める総合的な手法が、横幹的なアプローチとして考えられ、またこれを公開できるのではないだろうか。

「知の統合を議論するための一番大きな枠組み」
出口光一郎 氏(東北大学)

 「分野の知」を統合する技術の枠組みとして、ICT(IT+Communication; Wikipediaやメーリングリスト、電子掲示板などのネットワーク・コミュニケーションツール)について考察した。
 ここで知の統合が「資産」となるためには、互いの「知」への信頼、互酬性の規範がネットワーク上で成立していることと、科学的な技術資源がここに存在していることが、その前提となっている。
 しかし、信頼の形成の困難さ、フリーライダーの発生など、抱える問題も多い。

「人工物観について
 (日本人、日本文化の側面から)」
遠藤 薫 氏(学習院大学)

 人間は自然に手を加えることによって文明を築き上げてきた。機械技術ばかりではなく、都市も社会システムも、「人工物」である。その意味で、持続可能な世界を考えていく上で、「人工物観」という視座は極めて重要である。
 現代の科学技術は近代ヨーロッパの人工物観 ―― 機械論的宇宙観を基盤として発展してきたが、20世紀初頭、さらに大きな展開を見せた。「科学のパラダイムシフト」とも呼ばれるこの展開の特徴の一つは、それ以前には自明の前提として分断的に考えられてきた領域 ―― 例えば、物質と生命 ―― が統合的に捉えられる可能性が表れてきたことである。いやむしろ、多様な領域を横断する大きなシステムとして「知」を再構築する必要が生じてきたというべきだろう。
 「なぜ日本は近代科学技術を生み出さなかったのか」という疑問を梃子に、この現代の知の潮流に新たな文化論的アプローチを試みたい。
(遠藤先生による要約)

「第三の科学革命試論」、
「知の統合の多様体類推」
木村英紀 委員長(理化学研究所)

 「技術の科学」は、数学的、普遍的、抽象的という特長を有する。ところで、日本では、科学と技術をほぼ一体のものとして明治期に輸入した。工学の様々なディシプリンが誕生し、教育方法の確立したのもこの頃である。しかし、時代を駆動した科学は自然科学であった。1930年代に、第三の科学革命(暗号やシステム制御、最適化など新しい科学の誕生)がアングロサクソンの国で起こったとき、日本人はこれを掴まえそこねている。このような、新しい科学技術の基礎として、横幹型科学が必要となっているのだ。
 ところで、吉川先生の発表をふまえて、在来科学のディシプリン(学問領域)を、開集合とその上での局所座標系。「知の統合」については、局所座標系間での座標変換を見つけること、と定義すれば、夫々のディシプリンの多様体に関する知識が扱いやすくなるはずだ。そのようにして、この知識を増大させることもできるだろう。

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