横幹連合ニュースレター
No.016, Jan 2009

<<目次>> 

■巻頭メッセージ■
巨大な知の蓄積から
新しいパラダイムを
鈴木 久敏 横幹連合副会長
筑波大学

■活動紹介■
【参加レポート】
●第2回横幹連合総合シンポジウム

■参加学会の横顔■
●応用統計学会

■イベント紹介■
●これまでのイベント開催記録

■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
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横幹連合ニュースレター
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横幹連合ニュースレター

No.016 Jan 2009

◆参加学会の横顔

毎回、横幹連合に加盟する学会をご紹介していくコーナーです。
今回は、応用統計学会をご紹介します。
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応用統計学会

ホームページ: http://www.applstat.gr.jp/

会長 鎌倉稔成

(中央大学 教授)

  【統計理論と応用の架け橋】

 応用統計学会は、1981年に設立されました。その前身となったのは、論文誌「応用統計学」の編集委員会(71年発足)と応用統計学研究会(76年に運営委員を選出)です。当初は「同好の士が学際的に集まっている」ことから会長を置かず、編集、庶務、会計(のちに企画)の幹事を指名する組織でしたが、79年から毎年行われた「応用統計シンポジウム」が盛会であったこと(第1回のテーマは「医学・生物学における統計的諸問題とデータ解析」)や、学術会議に「学協会」として登録する必要があることなどの議論を経て、81年に「応用統計学会」となりました。
 当学会は、「応用統計学の研究、発展、普及と、研究者、技術者相互の連絡、協力を促進するとともに、外国の研究団体との交流をはかること」を目的とし、論文誌の発行、研究発表会及び応用統計シンポジウム(年会)の開催などの事業を通して活動しています。  71年から刊行されている論文誌「応用統計学」は、自然、社会、技術の諸分野における不確定現象の観測・実験を計画し、モデル化し、測定結果を解析する研究やその方法論を、さまざまの分野の人にわかりやすくまとめることを意図して発行されています。応用統計シンポジウム(年会)は毎年4月もしくは5月に、そして、統計関連学会(応用統計学会・日本計算機統計学会・日本計量生物学会・日本行動計量学会・日本統計学会・日本分類学会)連合大会が、9月に開催されています。
 この学会について、会長の鎌倉稔成(としなり)先生にお話を伺いました。

Q 論文誌「応用統計学」の1971年からの全目次と、最近の論文については pdf ファイルが、学会のホームページに掲載されています。年会や大会のプログラムでも非常に幅広い範囲のテーマが扱われているのですが、応用統計学会の特色は、どのような研究や役割に現れているとお考えでしょう。また、学会の会員構成には、どのような特徴がありますでしょうか。
鎌倉会長  応用統計学会は、応用統計の「メソドロジー」(方法論の集まり)を研究する研究者たちによる学会です。71年に論文誌「応用統計学」を発刊し始めたときからの編集委員会、その後の応用統計学研究会をその起源としています。
 81年に、東京大学計数工学科の奥野忠一先生らを中心に正式に学会として設立され、2006年に25周年を迎えました。この06年の大会の中で(節目ということで)、改めて応用統計学会のアイデンティティーは何か、使命は何かについて、長崎大学の柴田義貞先生と明星大学の広津千尋先生が講演されました。そのときの議論を要約しますと、応用統計学会では、おおまかに言って次のような研究が行われています。
フィッシャーの確立した実験計画法、統計的品質管理(SQC)、
(人口統計や経済統計などから始まった)統計数学の研究、
SQLの手法としてのタグチメソッド(直交表、誤差因子の導入など)、
計算機の発達に伴う多変量解析、一般線形模型(GLIM)、非線形モデリングなど、
生体や環境へのリスクなど社会的問題へのアプローチ、EBM臨床試験など、
 従って、応用統計としては(数理モデルだけの研究ではなく)実際にデータを取り、現実のモデルとして実証できる確率モデルが要請されます。ということで、ランダムな現象のあるところには、応用統計の出番があると考えております。
 こうした学会の経緯から、会員には「数学を得意とされる工学部の先生方」が多いように思われます。これまでは、計量生物学会と役職を兼ねられる役員が多かったこともあって、大会を計量生物学会と一緒に行うことが多かったのですが、 2001年からは、そうした独自の年会は5月頃の総会の折に、そして統計関連学会連合としての大会を9月頃に行っています。
 ところで、皆さんもご存知の通り「人口統計」などの国勢調査は総務省統計局が行っていて、労働力を把握し、国の経済政策意思決定を行うための重要な資料を作成しています。これは、統計学の非常に重要な応用分野です。それで、当学会との関わりが深い国際会議として、国際統計協会(ISI、International Statistical Institute、1885年設立)の大会があるのですが、この協会は統計学者の専門家組織になっています。国家レベルの協会ですので、約2000名いるメンバーは参加資格を審査されてメンバーになります。2年に一度行われる大会には国の代表者も参加しますし、国家元首クラスが挨拶を述べられます。ISI大会の日本への招致は奥野忠一先生らが87年に実現され、当時の皇太子(当今天皇)が出席者への挨拶をされました。

Q  中央大学の鎌倉研究室での研究テーマには、次のようなものがあるとWeb上に公開をしておられます。
「ネットワークのアクセスログにおける異常性の検出」、「グラフモデルを利用したクレームテキストの解析方法に関する研究」、「北京市マンション価格を用いた北京市地価の分析」、「EWMA管理図における非正規分布のロバストネスの検証」、「テキストマイニングによる文章分類に関する研究」、「正面歩行動画像の統計的補正法に関する研究」など。
それでは、鎌倉研ならではの研究テーマと、鎌倉先生がどのような経緯からこの学会と関わられたのかについて、お教え下さい。
鎌倉会長   私は、学部生のときには必ずしも統計学を研究対象としていたわけではありませんが、私の師事した真壁肇先生が信頼性工学の研究者だったこともあってこの分野に関心を持ちました。それで大学院に入り、信頼性工学における統計的方法について研究するようになったのです。信頼性工学はOR的方法、確率的方法、統計的方法と様々なアプローチの仕方があり、そのことから研究分野としても豊潤であったように思います。これは後のことですが、統計の多変量解析の分野の研究者として著名な塩谷(しおたに)実先生も、若い頃ロシアの確率論の専門家であるグネジェンコの書いた「信頼性理論I、II」を勉強され、翻訳をされたのだと伺いました。訳書をいただき、感激したことを覚えています。
 ところで、当時はまだ工学的な応用統計も「数学科」に分類されており、科学技術のあらゆる分野で「統計的方法」が用いられ始めているにもかかわらず、必要とされる理論の開発も理論分野と応用分野の間の情報交換も非常に乏しい時代でした。その役割を果たすために刊行されていたのが論文誌「応用統計学」でしたので、私は発表媒体としてこれがふさわしいと考え、「要求される信頼度を持つ直列システム構成のための母集団選択手法」という論文を80年に投稿しました。これが掲載されて以来の関係が太くなって、今日に至ります。
 個人の研究としては、ハザード関数やgrowth curveの研究を行っており、「事象系列における統計モデルの構成と解析」「動画像の位置合わせに関する統計的研究」「商業店舗の空間分布の推定」「ウェブマイニングにおける統計的方法」などを研究分野としています。扱うデータは、ビジネス分野、医療分野など、多岐にわたります。
 鎌倉研としては、極値統計学や計算機集約型統計モデルといった分野も研究しています。極値統計は、サンプルサイズを減らせば数学の極値問題になるのですが、スマトラ島沖地震による津波のような非常にまれにしか起きない災害にどう備えるかとか、経済恐慌の分析などに応用できます。また、例えば、毎日の最高気温のデータだけから分析して、気候の変動を予測することなども、極値統計の応用分野です。
 ほかに、中央大学には「CAVE」という1辺が3mの立方体の箱型に構成された立体視表示システムを研究に使用しておられる研究者がいて、流体のシミュレーションの様子などを見せてもらっていますが、応用統計学の分野とリンクした研究を行うことによって、より精緻なモデルができるだろうと考えています。また、医療関係のファンクショナルMRIによる画像の立体的な可視化などにも「CAVE」は威力を発揮するでしょう。このシステムでは、二次元のpixelという概念が、三次元のvoxelというデータ概念に拡張されています。ここでは表示された形状に、サンプルサイズが少ないことに起因するランダムなゆらぎがあるとき、そこに確率モデルをコーティングして(覆って)みると、より映像が本物らしく見えるようになるなどの試みも可能だと思われます。データマイニング(大量のデータを統計などの手法で解析して知識を得ること)や対話的・視覚的なデータ操作のための表示装置としても、「CAVE」は計算機集約型統計モデルと非常に親和性が良いですから、個人的には非常に注目をしている研究分野です。
 なお、中央大学大学院では、統計学が文系の人たちにも必要ということで共通課目となっています。統計を使った「正しい評価」を学んで、文系の人たちにも活用して欲しいと考えています。

Q  貴学会の顕著な活動として、2001年からの「統計関連学会連合」の一員としての活動が目立つように思われます。その簡単な経緯と、連合大会の内容、また、統計関連学会連合が力を入れておられます「統計教育」についてもお聞かせ下さい。
鎌倉会長  先ず、「統計関連学会連合」の活動についてご紹介します。北米の米国統計協会を中心とする統計研究機関が合同して行うJSM(Joint Statistical Meeting)という大掛りな大会があり、そこでは6日間に500以上のセッションが30数トラックのパラレルで行われています。これに対抗して、ということでもないのですが、日本の統計に関連する学会が、ゆるい連合を作り、「統計関連学会連合」(会員累計5000名)として合同の大会を年1回、行っているのです。大会の参加者は800名以上で、互いに刺激を与え合い、とても盛況です。4日間に200件以上の講演が行われ、市民講演会や統計教育教材の展示なども行われています。「統計関連学会連合」の大会が始まってからの変化としては、経済学関係の方たちが目立つようになったという印象を感じています。
 実は、日本の大学には「統計学科」が存在せず、経済学部、工学部、理学部、医学部、農学部、薬学部などに講座が分散配置されているため、現在の統計科学の広がりを支えるのに十分な力が発揮されているとは言えません。また統計学は本来分野融合型なので、社会の変革にすばやく対応して統計科学がその存在感を示すには、個別の学会が別個に対応するより連合が組織的に対応するほうが有利に思えます。こうしたことから「統計関連学会連合」が05年に正式に成立しました。
 それから、「統計関連学会連合」の活動のひとつに、CensusAtSchool(小中高校生への統計教育)という活動があります。英国王室統計学会(RSS)が統計局と協力して1999年に立ち上げたプロジェクトですが、2000年には国際プロジェクトとなっています(URL:http://www.censusatschool.ntu.ac.uk/)。具体的には、学生たちに「1日に何杯お水を飲みますか」とか、「手に入れたい超能力は何ですか」のような簡単な質問を出して、これを性別、年齢別、身長、就寝時間、宗教、読書の好み、利き手はどちらか、などの項目で統計的に処理して、他の学校や海外のデータと比較します。こうしたことで、統計の国際比較などに興味が湧き、学習意欲につながることを期待しています。これは「統計関連学会連合」の重要な活動の一部です。
 日本では、第4学年の算数の「しりょうの整理」で二項分布の学習が始まり、理科、社会で棒グラフを学んでいます。しかし、統計学は今日の工学や経済学で日常的に必要なツールとなりつつありますので、幼い頃から統計に興味を持つことが、統計学への関心につながって欲しいと願っています。

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