横幹連合ニュースレター
No.016, Jan. 2009
<<目次>>
■巻頭メッセージ■
巨大な知の蓄積から
新しいパラダイムを
鈴木 久敏 横幹連合副会長
筑波大学
■活動紹介■
【参加レポート】
●第2回横幹連合総合シンポジウム
■参加学会の横顔■
●応用統計学会
■イベント紹介■
●これまでのイベント開催記録
■ご意見・ご感想■
ニュースレター編集室
E-mail:
* * *
横幹連合ニュースレター
No.016 Jan 2009
◆活動紹介
●
【参加レポート】
第2回横幹連合総合シンポジウム(12月4、5日)
* * * * * * * * *
第2回横幹連合総合シンポジウム(12月4、5日)
日時:2008年12月4、5日
会場:筑波大学東京キャンパス(東京・大塚)
【参加レポート-1】
西尾弘一氏(筑波大学)
2008年12月4日(木)、5日(金)の2日間にわたり、筑波大学東京キャンパス(東京都文京区)において、第2回横幹連合総合シンポジウムが開催された。ここでは、第1日目に行われた【基調講演】【パネル討論】についての参加報告をする。私は自分の研究との関わりから、ものづくりの概念とコトつくりの概念は同じなのか、といった疑問や、「サービス産業も、ものづくりの本質は同じである」とする産業横断的な「ものづくり」論を適用して、欧米に比べて低いと言われている日本のサービス産業の労働生産性の向上が果たして図れるのか、といった問題意識を持ってシンポジウムに参加した。これらのテーマは、日本のGDPの70%を第三次産業が占め、そのうちの多くはサービス産業であるという状況下では、大変気になるところである。
基調講演では「ものづくり」経営学のパイオニアである東京大学大学院 藤本隆宏教授が、「広義のもの造り概念と産業競争力」について講演された。
製品は、設計者の考えた設計情報がモノと結びついたカタチなので、イトーヨーカ堂のパートさんが時間帯によって棚の内容を変えているのも(顧客サービスという)設計情報を商品の配置に埋め込むこと、つまり「ものづくり」であるという事例など、意表をついた説明から藤本先生は講演を始められた。ここでの「ものづくり」の意味は、「良い設計情報の循環を作ること」であるという。話題は、ご専門である自動車産業の生産管理の事例から始まるに違いないと思い込んでいた私には、極めて意外な話の切り出し方であった。また、京都花街では機嫌の悪いお客さんでも2時間ほどで機嫌を良くして帰宅させているが、そこには「周辺視」で仲間の仕事を見て協調してご機嫌を取っているという職業ノウハウがあるという。このノウハウは、トヨタの工場で問題が生じた折に普段から周辺視で仲間の仕事を見ているので「すりあわせ型」の「スピード問題解決」ができるという理由にも通じている。それは、「モジュール型」の開発に長けている米国人や中国人に比較して、日本人が得意な「すりあわせ型」の「ものづくり」である。従って、有形媒体(物財)も無形媒体(サービス)も、どちらも設計情報を転写して消費者の不満足を満足に変えているのだ、と説明を展開された。イトーヨーカ堂や京都花街といった事例が挙げられたことで、コトつくりが広義のものづくりの概念と同じであることに気づかせてもらったのは、私だけではないだろう。
続くパネル討論、『「コトつくり」による「モノづくり」イノベーション』では、木村英紀氏(横幹連合会長)、天坂格郎氏(青山学院大学理工学部教授)、成瀬淳氏(日立製作所研究開発本部技師長)、保々雅世氏(日本オラクル常務執行役員)がパネリストに加わり、基調講演をされた藤本教授と共に活発で実り多いパネル討論が展開された。いずれもわが国の学術界と産業界を牽引される、そうそうたるメンバーである。司会には大会実行委員長の椿広計先生が当たられた。
ここでの議論の概要は、まず、(1)「コト」と「モノ」を強く分ける必要はない(製品は設計情報がモノと結びついたカタチなのだから)、そして、(2)日本にとって重要なことは「コトつくりによるイノベーションの推進」を行うことである。そこで、(3)人づくりが基本となる、のであるが、どういう人材をつくり育てるかが重要なので、(4)この点については横幹連合への期待が大きい、といった内容であった。ここに参加された「横幹の師」たちは多士済々で、短い時間ではあったが、椿先生がシンポジウムによせてつくられた「横幹の師走ってなす(師走に横幹の師が走ってなす)コトつくり」という俳句そのままのスリリングな時間を共有することができた。たいへん良い印象を残したパネル討論であった。
私の所属している学会(国際戦略経営研究学会、経営行動科学学会など)は、残念ながら横幹連合の会員学会ではないのだが、今回は筑波大学東京キャンパスが会場になったこともあって総合シンポジウムに参加してみた。参加してみると、このような学会の枠を超えた講演やパネル討論は、自身の研究にとって大変貴重な経験となった。開催関係者のご努力に、心よりの感謝を申し上げたい。
【参加レポート-2】
木村昌臣氏(芝浦工業大学)
筆者は、第2回横幹連合総合シンポジウムの第2日目に参加した。当日は生憎、肌寒く、小雨も降っていたが、会場が地下鉄の茗荷谷(みょうがだに)駅からほど近いキャンパスであったので、参加しやすく有り難かった。以下、時系列に沿って報告させて頂きたい。
午前中は、最初に【A-1】「定量的リスク科学を目指して」のセッションに出席した。所用で途中からの参加となったので、ここでの報告も3件だけとなる。まず、「信頼性・安全性確保のための横断的マネジメント」についての講演(鈴木和幸氏)では、ハザード(危害をもたらす潜在的な要因)の要素とその対応策についての、横断的な観点からの紹介があった。特に興味深く感じたのは、「機能(を)達成(する)メカニズム」内部の設計に含められなかった影響や内部ストレスなどが、次の故障メカニズムを引き起こし、故障(モード)に至るのであるが、実際の危害は「故障メカニズム」が組織知になっていないところで生じるという部分であった。筆者は、医薬品の使用に関するヒヤリ・ハット事例を解析したことがあるが、現場の医療関係者が原因だと考えていたことが真の原因ではなかった、という事例があった。このときの経験に照らし合わせると、それはこの分析の実例ではなかったかと感じられた。
次に、「医薬品安全性確保研究への製薬業界の取り組み」と題して、医薬品に関わるリスク評価についての講演(小宮山靖氏ほか)が行われた。講演では、薬の長い開発期間の中では、その有効性の検証とともに副作用や有害事象を早期に発見するためのリスク管理が必要であり、このため疫学的な研究を可能にする公開されたデータベース構築が必要であるとする問題提起があった。薬が市販される前の治験では、低頻度であっても重篤な有害事象が生じるかどうかについての情報が得られないためである。しかし、安全性情報については、国内・海外の違い、疾患領域、相互利用・相互接続に関する情報がまだ標準化されておらず、製薬企業によっても統一した対応がされていないのが現状だそうだ。いわゆるデータマイニング(大量のデータから知識を取り出す技術)やテキストマイニングを適用する際には、データの量はもちろん、データベースに含めるデータ項目やセマンティクス(データの意味)の表現方法に関しても標準化の行われていることが前提である。これは、筆者自身も医療安全についてのデータベースの解析を行っている一人として大変興味を覚えたところであるが、中途半端な標準化は貴重なデータを無駄にしてしまうおそれがある。是非、解析に堪えるデータベースの標準化を望みたいところである。
続いての「ファイナンスを横断するリスク科学の発展」についての講演(川崎能典氏)では、ファイナンスの観点からのリスクについて解説が行われた。工学的な安全性に関しては「リスクは回避するべきもの」であるが、ファイナンス(企業の資金調達)の領域では、積極的かつ精密なリスクテイク(損失の可能性を知りつつも利益を求めて取引すること)を行うことが望まれている。文脈によって、危険性や利益の不確実性などに意味が変化する「リスク」という言葉の奥深さを感じた。また、質疑では、リスク管理の方法論を使えば、石油の価格をつり上げるなどのバブルを起こすことも可能であるため、どこまでのリスク管理をすれば満足できるのかといった議論も持ち上がり、活発に意見が交換されていた。(【A-1】はリスク研究ネットワーク企画。)
筆者は、午後の【B-2】「医薬品インタフェース」というセッションで、発表を行った。このセッションでは、医薬品の安全性を担保するための制度について基調講演(厚生労働省谷地豊氏)が行われ、引き続き、薬剤師などの医療従事者が調剤時にどのように医薬品のパッケージを認識しているかの視線計測実験などから、医薬品の表示はどうあるべきか、といった発表が行われた。筆者の専門分野はデータ工学なので、「注射薬ラベル等のバーコード表示に関するアンケートの解析」と題して、医薬品の扱われ方をデータ分析し、また、医療従事者としてバーコード表示の有効性や意義がどのように理解されているかを分析し発表した。さらに最後に、「医薬品関連医療事故防止のために求められる研究とは何か?」と題する総括の討議が行われた。(【B-2】は横幹連合「医薬品インタフェース」調査研究会企画。)
総括の討議でも述べられていたが、「様々な分野の研究者の持つ英知を結集した取り組み」が望まれている。ここから鑑みると、全く専門分野が異なる先生方の議論への参加が望まれるところだったのだが、残念ながら「全く面識がない」方々の参加が少なかった。門外漢を自称される方たちが参加して異なる切り口からの議論を創発することが、シンポジウムの大きな意義ではないかと思われるので、そのような参加の仕方をエンハンス(促進)する仕組みを望みたい。
続いて、【B-3】「ウエルネス科学-生命・医療・健康・福祉に対する横断的アプローチ」と題されたセッションに参加した。ここでは、非接触なので日常生活にほとんど影響せず、しかも安価である媒体を使った「予防医療」「在宅医療」の試みが発表されていた。
「日常生活における健康モニタリング」(南部雅幸氏)では、市販のBluetoothヘッドセットを活用して「心音」を音声信号として捉え、この信号データをコンピュータに送信して、蓄積・転送する試みが提案された。
「静電容量型非接触心電図計測の体調モニタへの応用」(牧川方昭氏)では、非接触で心電図を計測するために、オペアンプ(増幅機能を持った回路)をうまく活用した方法が提案されていた。特に、急な心臓発作による交通事故が多いことから、これを非接触にモニタリングしたいという話は交通安全上重要に感じられ、早期の実用化が望まれる。
「睡眠時体動計測による睡眠状態の簡易モニタリング」(萩原啓氏)では、被験者の睡眠中の体動から睡眠の深さ(深度)を評価する新たな試みとして、赤外線モーションセンサを使って、無拘束に無意識状態の体動を計測する方法が紹介された。
「高齢期疑似体験システム装着時における水平外乱刺激に対する姿勢応答」(飯島賢一氏ほか)では、高齢期疑似体験システムを着装した被験者(若年者)と健常若年者の夫々に水平な外乱刺激(床面を急に動かす)を与えて、その大腿角速度などを比較することで、高齢者の転倒時の問題を解析する方法が紹介された。
「ワンチップマイコンを用いたインピーダンス法による皮下脂肪計測」(内山孝憲氏ほか)では、つきにくく落としにくいという皮下脂肪の厚みの計測を、ワンチップマイコンを使って電位差からみかけ比抵抗を推定して非接触で計測する方法(地層を推定するときなどに用いられる測定法)が提案されていた。
全ての発表で共通していたのは、QOL(要介護者などの生活の質)の向上を狙うための計測技術の応用という観点であるが、特に安全や安心を担保しながらどのようにモニタリングをするかという観点が大切にされていたように思う。また、筆者は計測技術にそれほど明るいわけではないが、原理やその有用性も非常にわかりやすく解説されていた。(【B-3】は計測自動制御学会企画。)
ところで、一連のプログラムの講演の「タイトル」だけでは、どのような手法・技術が関連しているのかを想像しづらい講演も多く、結果として「なんとなくこんな内容の話だろう」という勘を頼りに講演を選んでいた。講演の内容の概要を事前に知ることが出来れば、各聴講者は自分の専門が関連し活用できそうな講演を効率よく選択でき、またどの観点でディスカッションをしようかと検討することが出来るのではないだろうか。事前に予稿集が入手できれば一番良いのだが、そうでなくとも、例えば、講演のキーワードをタイトルと共に事前に公開して頂くなどの工夫をすることで、より異分野の研究者間の交流を深めることが出来るのではないだろうか。
個々のセッションでは質の高い発表が続き、また安全・安心という切り口で複数の分野のアプローチを知ることが出来たので、とても有意義であった。自分の専門分野ではなくても興味を覚える講演が多く、大いに刺激を受けることができるこのような機会を、今後も活用していきたいと思っている。
♯編集室より:
今回のセッションは4トラックで行われた。【参加レポート-2】で紹介されたもの以外のタイトルを列挙する。
【A-2】 「リスク概念に基づくアプローチを阻害するのは何か」(日本リスク研究学会企画) 【A-3】 パネル討論「横断型科学技術としてのリスク・安全研究の進むべき方向」 【B-1】 「ユニバーサルコミュニケーション」(ヒューマンインタフェース学会企画) 【C-1】 「観る・眺める・そして考える‐高付加価値を生み出すシミュレーション技術‐」(日本シミュレーション学会企画) 【C-2】 「観る・眺める・そして考える‐高付加価値を生み出す生命現象観測技術‐」(日本生物工学会企画) 【C-3】 「観る・眺める・そして考える‐高付加価値を生み出す観測技術‐」(日本リモートセンシング学会企画)
いずれのセッションも、担当された学会・ネットワークから最新の研究が披露され、研究アプローチの説明も、他学会の会員に理解しやすく工夫された大変エキサイティングな内容であった。
このほか、【D-2】「横断型・融合型人材育成推進に向けて」と題して、横断型・融合型人材の育成推進に向けた約2年間にわたる横幹連合の調査研究会(主査は佐野昭先生)の調査結果の要約と産官学による横断型人材育成推進に向けた講演、さらに提言内容に関するパネル討論が行われた。(【D-2】は横幹連合横断型人材育成推進調査研究会企画。)
さらに、本年度も横幹連合では「学会横断型アカデミック・ロードマップ」の策定作業が行われており、その一ワーキンググループから、【D-1】 「アカデミック・ロードマップ 社会システムのモデリング・シミュレーション技術」と題して、課題解決に向けた最新の議論の一部が紹介され、パネル討論が行われた。なお、昨年度のアカデミック・ロードマップに関して、第1日目に【特別企画】として報告が行われた。
(文責:編集室)   
▲このページのトップへ |