日本植物工場学会は、わが国および世界におけるハイテク農業を専門に扱う学会として、農業と工業を融合する広義の植物工場、およびそれに関連する諸技術の研究を振興すると共に、積極的な提言や国際的な活動を行い、会員相互の連絡を図ることを目的として1989年4月に設立されました。
対象としているのは、
☆植物生産のための新技術の開発と導入(環境制御技術、省エネルギー技術、微生物による資源の再利用、養液栽培技術、宇宙での植物生産など)
☆植物生産に関連する基盤研究(新光源、生育促進物質、生物農薬、植物のアメニティ効果、植物モデルなど)
☆生産システムおよび生産物の評価(生産物の品質調査、設備規格化、経済性の評価など)
☆植物生産技術と社会・文化(農業・食糧・環境問題と植物生産技術など)のような分野です。
この学会について、会長の村瀬治比古先生(大阪府立大学)に、お話を伺いました。
Q:食糧自給率40%(主要先進国中の最低)。穀物自給率は、世界173か国中の124位(2002年)というわが国の現状下で、植物の工場生産はどのような役割を期待されているのでしょう。
A:国際分業といった考え方もあるのでしょうが、すでに危機的な状況になっていて、気候変動などの影響で作物の生産適地が適地ではなくなっているケースも現実に起きています。また輸入食料の農薬の問題など、今表面化していなくても、気が付いた時には手遅れというような問題もあります。耕作を止めてしまった田畑は、簡単にはもとの生産力を回復致しません。植物工場は、食料生産における国家レベルの危機管理の一環として、いざというときの手段を用意しようと考えているとも言えるのです。植物を工場で生産すると言うと、SF的なイメージを持つ方も多いでしょうが、むしろ、エネルギー効率、環境、安全などについて「最適化」を可能にする植物工場技術の側面に注目して頂きたい。また、食料を外国から一方的に輸入するのみでは、ある意味で日本に「窒素汚染」を引き起こすことになるとも言えますから、バランスを取るためには「生ゴミ」を海外に輸出しても良いか、といった議論にもなるわけです。このような自給自足に関わって食料生産の「最適化」という課題に、ある提言をしようとしているのが植物工場学会です。
Q:日本農業気象学会、日本生物環境調節学会などの他学会と協調して、各学会が持ち味を生かした「横幹」的な連携を取っておられるようにお見受けするのですが、工夫や秘訣があれば、ご伝授ください。
A:2005年度から「農業環境工学関連7学会」が合同して、年次大会を始めました( 日本植物工場学会、日本農業気象学会、日本生物環境調節学会、生態工学会、農業機械学会、農業情報学会、農業施設学会の7学会、会員合計約5,000人 )。これらの学会には、生物を対象とした農業工学という共通の基盤(方法論)があるので、例えば、葉脈の中の水分の流れには流体力学、また植物生長の解析には画像処理といった共通の「ものさし」を各学会が夫々の得意分野に応用していることが、コミュニケーションの基礎となっています。文理融合の一つのモデルだとも言えるでしょう。
Q:第1回横幹連合コンファレンスに参加されて、どういった印象を持たれましたでしょうか。
A:農業が農業だけ、工業が工業だけに特化して論文を書くのも、もちろん結構なのですが、どうやってユニバーサルに全体を見るかが、ますます重要になってきました。多くの分野を瞥見できたという意味では、短時間の講演であっても非常におもしろかった。とにかく、そのような活動を「続ける」ことが肝心ではないかと思います。また、長野でお会いしたことをきっかけに、ある学会と共同研究を始めることとなり、公募などにも応募しております。 |