横断型基幹科学技術研究団体連合
Transdisciplinary Federation of Science and Technology
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NEWS LETTER
No.005
March 2006
<<目次>>

◆巻頭メッセージ
・「産業界と連携した実問題の解決」

◆活動紹介
・第9回横幹技術フォーラム 参加報告

◆参加学会の横顔
・日本植物工場学会
・日本リモートセンシング学会

◆イベント紹介
・第10回横幹技術フォーラム
・第2回技術シンポジウム
・横幹連合2006年度総会・講演会
・これまでのイベント情報

NEWS LETTER No.005, March 2006
◆活動紹介
今回は「横幹技術フォーラム」の参加報告をご紹介します。横幹技術フォーラムは、横幹技術協議会と横幹連合の共催により、ほぼ各月ペースで開催されています。2006年最初の開催となった第9回のようすを、参加者にレポートいただきます。

第9回横幹技術フォーラム「リスク環境下での事業意志決定技術」
 (2006年2月3日、東京・日本教育会館)参加報告
 辻本 篤(東京大学大学院、情報文化学会)
講師の椿 広計氏(筑波大、左上)、中島厚志氏(みずほ総研、右上)、佐々木敏郎氏(日立、左下)。右下は司会の舩橋誠壽氏(日立)。
2月3日、第9回横幹連合フォーラムに幸運にも参加することができた。季節的にはまだまだ冷え込みも厳しく、平日の昼間でもあったのだが、日本教育会館の会場には熱気が溢れていた。筆者は学務に思いのほか拘束されてしまい1時間ほど遅れたために、途中からのご報告となることをご容赦願いたい。まず驚かされたのは聴講者の多さである。100名ほど収容できる会場の座席は殆ど埋まっており、恐縮しながら一番後ろの空席を何とか見つけることができた。

今回の聴講者は、8割近くが一般企業の実務家だったそうだが、何がここまで多くの実務家を惹きつけたのだろうか。身を乗り出してスクリーンの映像や議論を確認しようとする方も、多くおられた。一般に学術団体のフォーラムに参加者は少なく、まして実務家の参加が多かった経験は、あまりない。実証実験などの機会が減っており、社会のニーズに応じた成果が出ない。結果的にアカデミズムへの期待がなくなり、産業界とは疎遠になる。それで、さらに学者や研究者の研究対象は自己完結型になるという悪循環が進行している、と指摘される昨今である。

しかし、ここでは学者や研究者の日々研鑽を重ねて求めているゴール以外の「求められるべき理想」と、実務家が日々厳しく求めている利益以外の「求められるべき理想」の一致する機会が、幸運にも醸成されていたようだ。学術系、実務系と大きな垣根で隔てられていても、議論のための共通言語がしっかり存在し、議論が濃密に進行していた。

今回のテーマは「リスク環境下での事業意志決定技術」で、社会の高密度化・グローバル化、さらには自然環境の不安定化などに伴って、そこから生じる様々なリスクへの対処が事業運営において強く求められていることを前提に、リスク対処への方法論の開拓が横幹科学技術の産業への重要な貢献機会の一つであると捉えられていた。

そうした方法論の現状への確認として、「日本経済をとりまくリスク」の中島厚志氏(みずほ総合研究所)はテレビと同様の歯切れの良い解説で、日本経済のリスク要因として「デフレ回帰、増税、原油高、企業投資行動の過熱、円高」、さらに「中国経済の失速、米国住宅バブル崩壊」の7つを挙げ、しかしながら日本の景気指標の堅調さを論拠に、今後の好景気を示唆しておられた。

また、藤井眞理子先生(東京大学)は「戦略的意志決定とリアル・オプション」と題し、金融関連商品のリスク回避の「オプション」という考え方を、予想される価格の変動幅などが極めて大きい分野に応用して企業がリスク回避するための理論を、ブラック・ショールズ方程式のとても分り易い紹介などを交えて解説された。

企業側からは、「リアル・オプションに関する企業事例」と題して佐々木敏郎氏(日立製作所)から、将来予測の極めて難しい電力関連の商品開発にそれを応用して製品開発のリスクを回避した事例が報告された。実に多くのリスクが存在するものだが、リスク環境下の事業意思決定技術はいかにあるべきかについて、共有可能な方法論や理想が熱く議論された。

総合討論の「事業リスクを乗越える新たな方法論の展開に向かって」と題された時間は大変にエキサイティングで、学者と実務家が、まさしく問題解決の共通言語(方法論)を探索し尽くした時間であった。
印象に残った象徴的な質疑として、会場から「製品に関するリスクは減少させるのではなく、ゼロにしなければならない。リスクが小さくならなければ安心して退職できない」という意見が出された。これは(原子力発電施設なども考慮すると)実業界を代表する、大変に切実かつ重要な課題である。これを受けたパネラーは、「製品に関する大きな事故などでは、損害・被害に対する補償を保険で賄って企業価値を守る(経営的な)立場と、事故の発生リスクを徹底的に下げる技術者側の二つの立場がある」とする椿先生のコメントから回答が始まった。
「二つの立場は企業内では対峙しており、前者の立場だけの製品開発や企業活動では、技術開発やR&Dのモチベーションは下がる」とも指摘された。筆者はこれを、二つの立場がお互いに共有可能な理想を模索すべきであるという提言と理解し、衝撃と感動を覚えた。初めに回答された椿先生は、リスク定量化の重要性、統計家の役割の重要性などをテーマにご講演されていたと配布資料にある。

筆者の印象では、質問に対するパネラーからの回答は、自身の研究領域である統計科学の手法や対象事象においてだけ責任を持つという姿勢ではなく、実業界が日々直面している多様で多難な問題に大きく踏み込み、研究者と実務家が共に目指す「理想」を探索しようとする情熱的な志向を示されたように思えた。フォーラム会場が一つに繋がれた、幸福な瞬間であったと思う。換言すれば、産学連携に本来求められるべき「強い志向」が、そこには強く醸成されていたように思えた。
筆者は今から、第10回のフォーラムを非常に楽しみにしている。まさにプラチナ・チケットだ。


♯編集部より:
 不確実性のうち確率で扱える不確実性を特に「リスク」と呼ぶことが、金融工学などの分野で一般的だという。初めに講演された椿広計先生(筑波大学教授、統計数理研究所 リスク解析戦略研究センター長)は、企業倒産などの金融リスクに限らず、医療や食品、環境などの幅広い分野においてもリスクマネジメントのモデル(仮説的法則)の精度を「事実に基づいて」高めることで、リスクの回避、最適化のアクションが選択できることを論じられた。そして、一般に現実の問題は統計家の作成するモデルより複雑なので、直感に基づいてエキスパートがリスクマネジメントを行なっているのが現状ではあるが、(上述したように)モデルや蓄積情報を改善すれば合理的な決定のできる範囲も広がるので、そのように努力する事が当該分野の専門家のミッションであると改めて強調し、結語とされた。
事情により本文に収録できなかったため、補追しました。(文責:武田)

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